重賞制覇レポート『ライラック』杵臼牧場編(フェアリーステークス)

2022/02/02

カテゴリ:馬のはなし / 色々なはなし / 人のはなし / Pacallaオリジナル

Pacalla「重賞制覇レポート」の記念すべき第1回目を飾った2019年札幌2歳Sの覇者、ブラックホール
その際にちらっと写真に写っていた、あのかわいい、かわいいとねっこがお兄ちゃんに続いて立派な重賞ウィナーとなりました!

 

▲当歳時のライラックと母ヴィーヴァブーケ(2019年9月撮影)

 

札幌市や釧路市、そして長沼町と北海道の複数の自治体が象徴としている庭園木の名が付けられたヴィーヴァブーケ2019こと、ライラック。年明けの3歳牝馬重賞、フェアリーSでラジオNIKKEI杯京都2歳S8着からの巻き返しをかけて挑みました。

スタート直後に行き脚がつかず、最後方からとなりましたが、向正面でじわりとポジションを上げて3コーナー過ぎでは中団へ。そこでひと呼吸置くと、再びエンジン点火。しびれるような手応えで大外から突き抜けると、内から迫ってきたスターズオンアースをクビ差退け、初のタイトルを手にしました。

 

 

「ずいぶん早くから動くなと思いました。その後、一回中団に入って、さらにスパートして…。まさかあれで差せると思っていなかったので、『やっぱりデムーロ騎手ってすごいな』ってすごくびっくりしたんですけど」

杵臼牧場の代表取締役、鎌田正信さんは2段スパートの勝ちっぷりに目を丸くしていました。

 

昨秋の東京。軽く追っただけで完勝した新馬戦は、正信さんをはじめ牧場のスタッフが将来へ心躍らせるものとなりました。

「みんなで見ていて、『ノーステッキだし、強いね!』と。期待はしていたけど、ここまでのパフォーマンスをしてくれるとは。思った以上で、みんなびっくりしていました」

 

それだけに期待が膨らんだラジオNIKKEI杯京都2歳Sが8着と残念な結果となりましたが、阪神への輸送前から馬運車を嫌がり、パドックやゲート入りもごねるなど気持ちが全くレースの方へ向かなかった様子でした。

今回は初めてレースでメンコを着用。

「前走と違ってパドックも落ち着いていましたね」と正信さんが振り返ったように、集中力が戻り、持てる力を余すことなく出し切りました。

 

▲杵臼牧場の放牧地

▲放牧地で草を食む繁殖牝馬

 

牧場にいた最初のころは難しい面を全く見せなかったライラックですが、離乳して中間育成に入ったあたりから父のオルフェーヴルを思い起こさせるような面を見せてきたそうです。

「普段はそうでもないんですけど、スイッチが入るとうるさくなったり、新しいこととか嫌がることをすると突然うるさくなったり。オルフェもそうだったと思いますけど、たぶん頭がいいんですよね。ブラックホールも最初そうでした」と正信さん。

ステイゴールド系特有の難しさは兄との共通点だったといいます。

 

▲ライラックの父オルフェーヴル

 

ヴィーヴァブーケの産駒はここまで4頭がデビューしていますが、ミラクルブラッド(2勝、父ドリームジャーニー)、ブラックホール(2勝、父ゴールドシップ)、コニャック(0勝、父エイシンフラッシュ)、ライラック(2勝、父オルフェーヴル)と、勝ち上がった3頭は全てステイゴールド系で、抜群の相性を誇ります。

前回の取材時にお腹にいたサトノダイヤモンドとの子、ディアマンテブルー(牡2歳)が初めてのディープインパクト系となりました。

「育成の方では評判が良さそうですね。きょうだいで一番馬格があって、見栄えがいいんです。ずっと本当に優秀で、1歳になってもうるささを見せなくて、(ほかのきょうだいと違って)逆におとなしいから大丈夫?って(笑い)」と正信さん。

 

▲ヴィーヴァブーケ

▲ライラックの母ヴィーヴァブーケ

 

額から鼻先まで派手に伸びた流星が特徴のヴィーヴァブーケ2021(牡1歳)は、父がゴールドシップでブラックホールの全弟となります。

「お母さんと一緒にいた時はおとなしくてかわいかったけど、離乳してからだんだんそういう面を出してきました。ほかの馬とかに嚙みついたりして、負けず嫌いな感じがすごいです」。

きょうだいで初の重賞馬となった全兄を彷彿とさせる一面がまた楽しみな思いを膨らませてくれます。

 

▲ヴィーヴァブーケ2021。流星の鼻近くに茶色い部分がある特徴的な顔立ちです

▲ヴィーヴァブーケ2021立ち写真

▲ブラックホール、ヴィーヴァブーケ2021の父であるゴールドシップ

 

2年前の2020年。札幌2歳王者のブラックホールは皐月賞(9着)、日本ダービー(7着)、菊花賞(5着)とクラシック3戦に全て出走しました。生産馬のクラシック皆勤は1999年のテイエムオペラオー以来です。

「久しぶりに重賞を勝ったからというよりも、クラシックに生産馬が出るということで気持ち的に変わりましたね。しかも、徐々に着順を上げてくれて…。やっぱりクラシックは特別です」と正信さんはかみしめます。

3歳の半年間にわたって繰り広げられる生涯唯一のクラシック戦線。
大一番が近づくごとに増してくる高揚感は、日々の仕事を地道に、丁寧に重ねていく牧場の生活のなかで、元気や張りを与えてくれるものだったことでしょう。

 

▲繁殖牝馬の放牧地(左から2頭目がヴィーヴァブーケ)

▲日高山脈が美しい放牧地

 

クラシックが終わり、「来年こそは!」と思ったブラックホールは左浅趾屈腱脱位のため、志半ばにターフを去りましたが、半妹のライラックが思いをつなぐようにクラシックへの視界が明るく開けるタイトルをつかみました。

「距離は長い方がよさそうです。先生(相沢調教師)もどちらかというとオークスの方が向いていると言っていました。逆にマイルは短いと思うんです。だから、フェアリーSでロングスパートがきいたのかな」

桜花賞に出走すれば牧場からは初。オークスは2016年のペプチドサプル(5着)以来です。桜花賞2着馬の祖母ブルーリッジリバーが届かなかった牝馬クラシックに期待が高まります。

「府中は直線が長いですからね。オークスは(地元だし)安心しています。桜花賞は輸送をクリアしてくれると、これから先の選択肢が広がりますよね」

牧場全体が活気づく、クラシックの季節がまた杵臼にやってきます。

 

▲杵臼牧場の厩舎

▲看板猫のおひげちゃん

▲看板猫のもこちゃん

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