重賞制覇レポート『タイトルホルダー』岡田スタッド 編(菊花賞)

2021/12/01

カテゴリ:馬のはなし / 人のはなし / Pacallaオリジナル

 

長きにわたって夢見てきた美酒は格別でした。

タイトルホルダーがクラシック最終戦の菊花賞を圧勝。1972年に岡田蔚男さんが岡田蔚男牧場を創業。そして、1984年に岡田牧雄さんが引き継いだ岡田スタッドが、ついに生産馬初のクラシック制覇という悲願をかなえました。

 

 

皐月賞よりも、ダービーよりも、菊花賞が向いている。

タイトルホルダーが弥生賞ディープインパクト記念を制した時のインタビューでも牧雄さんが力強く話していた言葉が現実のものとなりました。

前哨戦のセントライト記念で13着に敗退。控える競馬で不完全燃焼に終わった一戦が菊の大輪への布石となりました。

「ハナを切ってほしかったのに控えてしまって…。1番人気に支持されていたのにファンに失礼な競馬になってしまった。運動神経がめちゃくちゃいい馬だから、ゲートを(普通に)出れば1馬身くらい前に出られる。もし万が一、出遅れたり、ワールドリバイバルが何が何でもという感じだったら、2番手に控えて、向正面でハナを取って3コーナーから仕掛ける感じで…と思っていた」

岡田スタッド代表、岡田牧雄さんはそうイメージしていたと振り返ります。

お祝いの花に囲まれて笑顔を見せる岡田牧雄氏_s.jpg▲お祝いの花に囲まれて笑顔を見せる岡田牧雄氏

 

実際、ゲートが開くと横山武騎手は押して押してハナを主張。3000メートルの距離ながら1000メートル通過を1分ジャストで刻みました。そして、次の1000メートル通過が1分5秒4とペースを落として息を入れます。まだ22歳の若手ながらベテランのように落ち着いた騎乗でラスト1000メートルを迎えました。3コーナーすぎ。ペースを落として後続を引きつけたタイトルホルダーは一気にスパートをかけていきました。直線に向いたタイトルホルダーとライバルたちの手応えの差は歴然。リードをさらに広げ、一人旅のまま5馬身差をつけてゴールへ飛び込みました。

「ハナを切って1000メートル1分で行ってくれと思っていた。だから、ジョッキーはすごいなって。次の1000メートルを1分5秒に落としたのがちょっと驚いたけどね。あれはジョッキーの腕だろうな。最後の1000メートルが59秒6だからすごいよね、武史は。頭で考えたんじゃなくて、彼の体がそういうふうにできている。セントライト記念で負けたから、こういうレースができたんじゃないかってすごく感じているよね」

 

京都競馬場の改修によって、42年ぶりの阪神開催。例年の菊花賞は3コーナー手前からの上り坂、そして4コーナーにかけての下り坂で慎重な騎乗が必要とされますが、牧雄さんは「3コーナーから(スパートして)行ってほしい」と頭に描いていたそうです。

「そう思っていたのも阪神開催だったのが大きかったよね。京都だとなかなか…。でも、彼は追ってなかったよね。4コーナーを回るまで引っ張りきりで、ほかの馬は追っていたから”これは勝った”と思ったけど。やっぱりこの馬は心肺機能が違うんだなというのは、4コーナーのこの馬とほかの馬の手応えの差を見てすごく思った」

まさに牧雄さんがイメージしていた通りの競馬で”有言実行”。1年半も前から目標にしていたタイトルを手中に収めました。

▲タイトルホルダー 2020年4月撮影

タイトルホルダーの父ドゥラメンテ。急逝が惜しまれる▲タイトルホルダーの父ドゥラメンテ。急逝が惜しまれる

 

岡田スタッドグループとしては昨年、デアリングタクトで牝馬3冠の大偉業を達成。セリで購入した所有馬でのクラシック制覇はすでに手にしていましたが、より喜びがはじけたのは自らが生産した馬だったからです。

「やっぱり違うよね」

根っからのブリーダーである牧雄さんは滑らかな口調で語ります。

「デアリングタクトは1歳の7月からうちにいて、それが思いもよらぬ成長を遂げて、これは走る馬なんだというのが途中からわかって、確信に迫ったんだけど、何か人ごとのような感じがあった。でも、お母さんも自分で競馬を使って、自分で配合して全部わかっていて、生まれる子はこうで…というのとはやっぱり違うよね。思い入れも違うだけでなく、理解度も違う」

購入した馬の場合は、母馬から配合してつくるなどずっと血を紡いできたわけではないため、種牡馬のイメージしかなく手探りの状態。自らが携わった部分からいろんなことを頭にめぐらせ、「この馬はこういう馬だ」と位置づけをしていくといいます。しかし、生産馬は生まれる前から携わることができるため、「こういう馬だ、ああいう馬だ」と自分の中での位置づけが楽にできるのです。

「だから、タイトルホルダーに関しては迷うことなく、超のつく長距離馬だよというのはずっと言い続けてきた」

 

2歳3月にはビッグレッドファームに連れて行き、ビッグレッドファームの馬たちと”対外試合”を行いました。

初めて対外試合に連れて行ったのがのちの有馬記念馬マツリダゴッホで、タイトルホルダーは3頭目。坂路でのレースはビッグレッドファームの急坂に慣れている馬たちの前に6頭立ての6着に終わりましたが、そこまで離されなかったことに牧雄さんは手応えを抱いたといいます。

「マル外について行ってバテちゃったけど、連れて行くくらいウチの中では抜けていた存在だったということ。その時から菊花賞を取るんだ、菊花賞をって言っていた」

連れて行った3頭のうち、マツリダゴッホとタイトルホルダー以外の1頭は1勝馬ですが、前述の2頭がビッグレースを制し、やはり牧雄さんは慧眼の持ち主だとうならされます。

「自分の生産馬で確信を持って、これだ!と思ったのがこの3頭。5年、10年に1頭しか生まれないんだろうね。だから、この馬は大事にしたい」とタイトルホルダーに熱い思いを注ぎます。

 

そしてその翌週、半姉のメロディーレーンが3勝クラスの古都Sを快勝。オープン入りを果たし、弟のタイトルホルダーと同様に有馬記念出走を目指します。

「同じ阪神の3000メートルを走ってどっちも勝つんだからえらいよね。メーヴェにミルリーフの血も入って、本当の長距離馬なんだよね」

母のメーヴェは不受胎が続き、現在登録されている産駒はメロディーレーンとタイトルホルダーの2頭しかいませんが、どちらもオープン馬。岡田スタッドを支える名繁殖牝馬に間違いありません。

メロディーレーン 11月12日撮影▲メロディーレーン 11月12日撮影(画像提供:レックス)

メロディーレーンの父オルフェーヴル_s▲メロディーレーンの父オルフェーヴル

 

牧雄さんが何度も長距離を強調するのには、メジロ牧場の存在があります。

「オーナーブリーダーを目指して20代、30代で、メジロ牧場さんがやっていることをやろうと考えていた。賞金体系がいいし、頭数も少ないし、芝の長距離馬をつくりたいというのがずっとあった。だから、菊花賞を取れたのはうれしいなあ。ダービーを取れたよりうれしいんじゃないかなあ。ずっと菊花賞と言っていたしね」

メジロパーマー、メジロライアン、メジロブライト、メジロラモーヌ、メジロドーベル、メジロマックイーン、メジロデュレン(マックイーン、デュレンは吉田堅氏に母メジロオーロラを預託)…。芝の中長距離でスターホースを送り出し、一時代を築いたメジロ牧場を手本にやってきました。

 

タイトルホルダーも、「春天を取りたいよね」とメジロ牧場の馬たちが何度も名を刻んだ天皇賞・春を目標のひとつに入れています。

「今年よりも来年、来年よりも再来年の方がしっかりして強くなるんじゃないかな。長距離馬はおくての馬が多いし。まだポテッとしていて体形的にもまだ完成形じゃない。研ぎ澄まされて、ムダ肉のない体になるのは来年、再来年だと思う」

完成途上ながら菊花賞で圧倒したタイトルホルダー。同世代のライバルやグランプリホース、そして半姉と対決する有馬記念が楽しみでなりません。

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