重賞制覇レポート『メイショウムラクモ』高昭牧場編(レパードS)

2021/08/24

カテゴリ:馬のはなし / 色々なはなし / Pacallaオリジナル

空を埋め尽くす群雲のように、新潟のダートを制圧しました。3歳馬による夏のダート重賞、レパードSはメイショウムラクモが3馬身差で圧勝。柴田善臣騎手の55歳0か月10日というJRA最年長重賞制覇というおまけつきでした。

 高昭牧場の看板

これが4勝目となったムラクモは2019年のサマーセールにおいて松本好雄オーナーが330万円で落札。祖母には阪神ジュベナイルF3着のブランピュールがいる血統ですが、非常にお値打ち価格でした。生産、育成をした高昭牧場の上山貴永専務取締役は当時を振り返ります。

「前脚が開いていたので、1歳の時は見栄えが良くなかったんです。1勝してくれるかな、というくらいでした。それが、あとからになって伸びてきたんですよね。BTCで調教している頃には、これは走るんじゃないかと期待がだんだん大きくなりました」

上山専務が特に印象深いのは、2歳時に調教を見に行くたびに良化していたこと。楽に坂路をこなす姿が鮮やかによみがえります。

メイショウムラクモ(1歳9月撮影)

トレセン入厩前に急激に上昇カーブを描いたムラクモですが、昔から変わらない一面があります。それが勝気な性格です。これまでノースパストラルの子はおとなしい馬が多かったようで、性格が勝負事向きのネオユニヴァースを配合したそうです。

「うまくはまりましたね。ブランピュールも血統がいいので走る子を出すんじゃないかと思っていましたが、孫になって走ってくれました。ムラクモは大きなケガや病気を一回もしていないんですが、喧嘩っ早いのですり傷みたいなのはありました(笑い)」と上山専務。その勝気な性格は競馬に行くと重要な勝負根性となり、レースでは常に前へ、前へと体が動きます。最初の頃は控えて末脚を生かすという競馬をしていましたが、5戦目から前向きな性格を生かした先行策にスイッチすると4戦3勝と軌道に乗りました。

母ノースパストラル

2走前のいわき特別は初の古馬相手で2番手から抜け出し、7馬身差Vと圧倒的パフォーマンス。それもあってレパードSでは重賞初挑戦ながら1番人気の支持を集めました。しかし、日本全体が酷暑に見舞われ、レース1週前に熱中症のような症状を見せていたそうです。さらに、大外枠を引いたために上山専務がレパードSの外枠のデータを調べると「絶望的」(上山専務)。そのため、過度の期待はしていませんでしたが、やはり当日になると自然とソワソワしてしまいます。14時頃までは我慢していましたが、ちらちらオッズを見て、馬体重も確認。12キロ増の482キロという数字を見て「増えていたので回復が早いなと思いました。タフな一面がありますね」と少し安心したそうです。

 

そして、ソワソワしながら迎えた15時45分。大外枠からじわっと3番手につけたムラクモは4コーナーでは馬なりのまま2番手へ。残り300メートルを切ってから柴田善騎手がステッキを落とす場面がありながら、スウィープザボードに3馬身差をつける圧勝で初タイトルを手に入れました。

 

多くのファンが「あっ」と思った、ムチを落とすシーンでしたが、ちょうどレプンカムイ(3着)と馬体を併せた場面。上山専務も、一緒にテレビで見ていた牧場のスタッフも興奮のあまり気づかなかったといいます。

「誰も気づかなかったんですよね。人からそのことを聞いてリプレイを見た時に、鳥肌が立ちました。いい位置につけるか不安でしたが、だいぶ前の方に行けてあの馬らしい競馬展開。途中までは不安でしたが、4コーナーあたりから勝つんじゃないかと謎の安心感がありました(笑い)。寒気やら興奮やら、恐ろしいレースでした」

上山さんの口調から興奮が伝わってきます。

 

長きにわたって日高の馬産地を支えてくださっている松本好雄オーナーも非常に大喜びで、すぐに電話がかかってきたそうです。楽しみが減っているコロナ禍で、オーナーにとっても大いに元気の出る1勝だったに違いありません。高昭牧場出身でオークスなどG1・3勝を挙げ、今は繫殖牝馬として暮らすメイショウマンボにも会いに来る頻度は高く、ムラクモのいわき特別の発走直前にも来場されたそうです。

「ちょうど到着してテレビをつけたら今から走るところで、圧勝したからすごく喜んでくれましたね。会長が喜んでくれたら、僕たちもうれしい」と上山専務。ムラクモの活躍は、長きにわたって日高の馬産地を支えてくださっているオーナーへの恩返しにもなっていることでしょう。

メイショウマンボのゼッケン(2017年3月撮影)

メイショウマンボ(2017年3月撮影)

 

上山専務にはこんな夢があります。

「ムラクモがレースで走っているところを生で見てみたい」

仕事柄、そしてコロナ禍でなかなか競馬場に行くことはできませんが、視線の先には大きな舞台があります。

「ムチを落としても圧勝ですし、底が知れない。同世代では一番強いと思っていますし、これから古馬とやってどこまでやれるか本当に楽しみです」

携わってきた人たちの夢を背負い、メイショウムラクモはダート王への道を歩み始めたばかりです。


メイショウムラクモが調教を積んだ荻伏共同育成場(左)、荻伏共同育成場の厩舎(右)

荻伏共同育成場の周回コース(左)、荻伏共同育成場の坂路コース(右)

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