馬の進化 ~ヒラコテリウム(エオヒップス)からエクウスまでを辿る~

2020/07/20

カテゴリ:馬のはなし / 色々なはなし / Pacallaオリジナル

ヒラコテリウム(エオヒップス)

 

皆さんは『馬の祖先』についてご存じですか?
今回は、私たちが普段見ている馬とは似ても似つかない姿形をしていた『最古の祖先』ヒラコテリウム(エオヒップス)から、エクウス(現在の馬たちの学名)に辿り着くまで、実に5500万年の間の進化の過程についてお届けしたいと思います。

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有蹄類の祖先といわれる『顆節目』からエクウスへ

顆節目イメージイラスト顆節目のイメージイラスト

馬が蹄を持つ有蹄類の仲間だということは、これまでPacallaでもお伝えしている通りですが、この有蹄類の祖先だったといわれているのが『顆節目(かせつもく)』という目に分類される絶滅した哺乳類です。顆節目は恐竜たちが衰退する白亜紀の末期に現れた動物で、蹄を思わせる角のように硬い5つの爪を持っていました。決定的な馬の祖先とはいえませんが、ここから馬の進化の歴史がスタートしたといってもいいでしょう。

有蹄類についてはこちら>

そして、始新世(約5500万年前)に入ると決定的な馬の祖先である『ヒラコテリウム(エオヒップス)』が出現し、その後は大まかに『メソヒップス』⇒(パラヒップス)⇒『メリキップス』『プリオヒップス』『エクウス』と進化していきました。

 

 

馬の最古の祖先。ウサギと間違えられた『ヒラコテリウム(エオヒップス)』

今から約5500万年前(始新世)の北アメリカやヨーロッパに出現したのが『馬の決定的な祖先』『馬の最古の祖先』であるヒラコテリウム(Hyracotherium)です。ヒラコテリウムは私たちが知っている馬とは程遠い見た目でした。ウサギのようだと書かれている本もあれば、イヌまたはキツネのようだと書かれているものもあります。

ヒラコテリウム(エオヒップス)

<ヒラコテリウム 進化のポイント>

・体高は35cm前後
・アーチ形の背骨
・前足の指は4本、後足の指は3本で厚い爪で覆われている
・目は現代の馬のように顔の側面ではなく、正面についている
・草ではなく木の芽などを食べる葉食性
・歯冠※1が低く、木の芽を押しつぶすのに適した歯を持つ

このように馬とは似ても似つかない容姿だったため、発見したイギリスの解剖学者サー・リチャード・オーウェンはヒラックス(Hyrax)※2という、ウサギに似た哺乳類(イワダダヌキ科)の仲間だと思い、ヒラコテリウム(Hyracotherium)という学名をつけてしまいました。その後、1876年のアメリカで、ヒラコテリウムの骨格が遺伝的に馬に近いということがわかり、馬の最古の祖先であると判定されます。アメリカの古生物学者は、ヒラコテリウムのことを「エオヒップス」と呼びました。これは「始新世の馬」※3という意味で、俗称ではありますが、一般的にはこちらの方が浸透しているようです。

※1 歯肉から萌出している部分。
※2 ハイラックスともいう。
※3 始新世は英語でEocene(エオシーン)という。また和名は「アケボノウマ」

体重増加で指が変化?脳も著しく発達した『メソヒップス』

3500万~4000万年前(漸新世)には、すべての足の指が3本へと進化したメソヒップス(Mesohippus)が出現します。メソヒップスはヒラコテリウムと比べると体高も大きく、それに伴って体重も増加。3本の指の中央の指に体重がかかるようになってきました。また脳も大きくなり、著しく発達していたといいます。

メソヒップス

<メソヒップス 進化のポイント>

・体高は50cm前後
・全ての足の指が3本となり、中央の指に体重が多くかかりはじめる
・目は現代の馬のように顔の側面ではなく、正面についている
・ヒラコテリウム同様、葉食性であるが木の芽よりも繊維が多い植物を好む

その後、メソヒップスはパラヒップスへ進化していきます。パラヒップスになると、小さいポニー程度の大きさで、現在の馬に似た頭蓋骨と顔の構造を持つようになりました。

 

葉食性から草食性へ。歯が変化した『メリキップス』

2000万~2500万年前(中新世)には、木の葉などを食べる葉食性から草を主食とする草食性に進化したメリキップス(Merychippus)が出現します。メソヒップスと同様に足の指はいずれも3本ですが、体重を支える中央の指への依存度はさらに高まり、左右の指は地面についていなかったといわれています。

メリキップスメリキップスのイメージイラスト

<メリキップス 進化のポイント>

・体高は90cm前後
・全ての足の指は3本で、中央の指への依存度がさらに高まる
・目の位置は正面から後方に変化
・葉食性から草食性へ移行し、それに伴い歯冠が高くなる
・頭の構造が現代の馬に似ている

メリキップスは『最初の草食性』という点で、非常に重要な馬の進化の過程といえます。草をすりつぶす際には歯が摩擦ですり減るため、葉食性のときのように歯冠が低いと歯がなくなってしまいます。そのため高い歯冠を持つようになりました。

 

現代の馬と同じ1本指へ進化した『プリオヒップス』

1200万~700万年前(中新世~鮮新世)には、現段階では※4私たちが普段目にしている馬の直接的な祖先と考えられているプリオヒップス(Pliohippus)が出現します。最大の特徴は、すべての足の指が1本となったこと(左右の指は消失)。そして、長い肢を持ち、速く走ることが可能になりました。

プリオヒップス

<プリオヒップス 進化のポイント>

・体高は120cm前後
・現代の馬、エクウスと似た容姿を持つ
・全ての足の指は1本で、肢が長く速く走る
・草食性
・頭の構造が現代の馬に似ている

このプリオヒップスの「1本指への進化」は馬の進化の過程の中で、最も画期的なものだったと考えてもいいでしょう。またプリオヒップスは、馬の直接的な祖先であるだけではなく、シマウマや野ロバの祖先でもあるといわれています。

※4 プリオヒップスは現代の馬、エクウスに非常に近い見た目であるが、頭骨には深い窪みがあり、歯が曲がっている。この点でエクウスと相違があることから、プリオヒップスは現代の馬の直接的な祖先ではないという説もある。

 

現代の馬の体裁をすべてそなえた『エクウス・カバルス』

プリオヒップスからいくらかの時が経ち、私たちも聞き覚えのある『エクウス』が出現します。エクウス最古の種といわれるのはエクウス・ステノニス(Equus Stenonis)※5です。
約150万年前(更新世)になると、馬としての体裁をすべてそなえた最初の動物と考えられている『エクウス・カバルス(Equus caballus)』が現れました。エクウス・カバルスの首は長く、目は顔の側面につき、はっきりと識別できる蹄に加えて、蹄叉(ていさ)※6もそなえていました。現在、世界に存在する馬たちはすべて、このエクウス・カバルスに分類されます。

※5 出現年は定かではない/エクウス・スコッティ(Equus scotti)とも呼ばれる
※6 衝撃吸収効果のある足の裏の三角形のくぼみのこと


<エクウス・カバルス 進化のポイント>

・体高はさまざま
・現代の馬のすべての体裁をそなえている
・全ての足の指は1本で、足が長く速く走る
・目は顔の側面についており、視界が全方向
・首が長い
・草食性
・はっきり識別できる蹄を持ち、蹄叉(ていさ)がある

このように馬はヒラコテリウム(エオヒップス)からエクウス・カバルスまで、約5500万年をかけて進化しました。ウサギの仲間と間違えられるような動物が、長い長い月日をかけ、体が大きくなり、足が速くなり、私たちが知っているあの“馬”になったのです。


 

 

今回は馬の進化の歴史の中でも、とりわけ重要な進化の過程と考えられる5つの馬の祖先をご紹介しました。これだけを見ても、今日日私たちが目にしている馬たちは、想像以上の進化を遂げていたのではないでしょうか。また、今回は触れられなかった少しマニアック(?)な馬の進化のお話についても、今後どこかでご紹介できればと思っていますので、こうご期待ください!

 

 

馬の足の進化

<2020年10月22日追記>
最近ではヒラコテリウムはウマ類ではなく、ウマ類の前に存在していた草食の哺乳類パレオテリウム類と考える説もあるようです。現段階ではまだ情報が少ないため、本記事ではウマの最古の祖先はヒラコテリウムとして記載しております。

【参考文献】
・図説 馬と人の歴史全書 (日本語) 単行本/キャロライン デイヴィス
・馬の百科 (「知」のビジュアル百科)/ ジュリエット クラットン=ブロック
・JRA競馬学校教科書「馬学 上巻」
・生物の進化大事典/スティーヴ・パーカー 編 (2020年10月22日追記)

【協力】
復元模型の写真提供:馬の博物館

 

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