永久不滅の大記録

2018/04/20

カテゴリ:馬のはなし / 人のはなし / Pacallaオリジナル

天才。

今一度この言葉の意味を調べてみると、「生まれつき備わっている並み外れた優れた才能。」と出た。
オンギャー、或いはヒヒンと生まれた段階から才を有した者達を、怠けることにかけては天才な私は色々見てきた。
天才ジョッキー。と言えば福永洋一と武豊。1997年の皐月賞。内ラチを走って来たとしか思えない手綱捌きで、ハードバージを皐月賞馬に導いた洋一氏。このレースを見て、遅まきながら福永洋一のファンになった。

現在進行形で伝説を築いている豊氏は、1989年のシャダイカグラの桜花賞。
大外枠の不利をわざと出遅れてやり過ごした。と噂されたあの技術には、テレビで解説していた大川慶次郎氏も感嘆の声をあげていた。当時、デビューしてまだ3年目。こんなアンちゃんジョッキーは、もう2度と現れないだろう。
馬の天才だとスティンガーがいの一番に思い浮かぶ。デビューしてわずか1ヶ月足らずで、1998年の阪神JFを制し2歳女王に君臨。確かな才能が無ければ成し得ない偉業である。

この様に競馬界という世界は天才の宝庫だ。一般世界では、そうそうお目にかかれない天才を、週末に容易く目撃出来る我々競馬ファン。彼らから何かを学び取ることが出来れば、我々も天才になれるだろう。競馬は人生を変える教科書也…。

今週は京都でマイラーズカップが行われる。すっかりオールドファンになってしまった私は、いまだに『マイラーズカップ=春の阪神。』というイメージが抜け切らない。早く時代に適応せねば…と思うのだが、1997年、第28回マイラーズカップを思い出すと、それが進まなくなる。

1997年。
武幸四郎がジョッキーとしてデビューしたのはこの年だった。
父はターフの魔術師、兄は天才ジョッキー。この偉大な肉親の威光をギンギンに浴びて、ジョッキーとして競馬場に赴く。想像するだけでも、身が縮むプレッシャーである。
もしも、自分が幸四郎の立場なら、緊張のあまり調整ルームの便所で閉じこもるだろう。

初騎乗初勝利も期待されたが、デビュー日は未勝利。どの世界でもそうだが、ペーペーが百戦錬磨の連中を相手に、のっけから名乗りを上げる。なんてことはそんなに容易く出来ることではない。
しかし。武一族の血を受け継ぐ、この丸坊主の少年は違った。
デビュー2日目。この日、幸四郎は6鞍騎乗。その中にはマイラーズカップの乗鞍も含まれていた。
朝から5鞍騎乗し未勝利のまま迎えた、初めての重賞騎乗。相棒はオースミタイクーンという7歳の牡馬だった。
父ラストタイクーン母Doff the Derby。
兄に1991年の英ダービーなどを勝ったジェネラス、7歳下の妹イマジンは2001年愛1000ギニー、英オークス勝った。
幸四郎と同じく、タイクーンも超良血の駿馬だ。
それでもこのレースでは11番人気とあまり評価はされていなかった。この辺りに競馬の厳しさを垣間見ることが出来る。良血であろうと何であろうと結果が出なければ認められないのだ。

前年の最優秀短距離馬、フラワーパークが引っ張ると予想されたレースは、ドージマムテキが主導権を握る展開となった。春よ早く来い!と言わんばかりに風を巻き起こす14頭の熱気は、激流を生み出す。
オースミタイクーンは絶好位の中団外目。勝負所の手応えもあった。しかし、昨日ジョッキーになったばかりのアンちゃんが勝つとは誰も思わなかった。
最後の直線。伸び一息な最速女王の花園に後続が襲いかかる。かつてフジキセキと並びバケモノと評されたヤマニンパラダイスが脚を伸ばし始めた時。内から山路秀則氏の服を纏った長身の男が突っ込んで来た!

間違いない、オースミタイクーンだ。鞍上は武幸四郎だ。

息を合わせた良血コンビは、そのまま坂を力強く登り切り、先頭でウイニングポストに飛び込んだ。
オースミタイクーンにとってこれが嬉しい初重賞タイトル。兄もイギリスで喜んでいただろう。
そして幸四郎である。初勝利と初重賞制覇を同時に成し遂げた。改めて記すがデビュー2日目である。父も兄も成し得なかった記録を、丸坊主の彼はやってのけたのだ。
ほぼ同時刻、中山では兄がランニングゲイルを駆り弥生賞制覇。早く走らせろ!と騒いだ栗色の少年、サイレンススズカらを置き去りにする強い勝ち方だった。
東西の重賞勝利ジョッキーの欄に武の苗字。1997年3月2日の中央競馬は武兄弟によって支配されたのだった。

あの日と同じ驚きが阪神競馬場に巻き起こったのは、今年の3月3日。朝の1Rでグアンという馬が初勝利を挙げた。背に武豊を乗せたグアンと記念撮影に収まるホースマン達の中に、スーツを着た長身の男がいた。
鞭を置き、調教師となった武幸四郎。彼が率いる厩舎は、初出走初勝利という華々しい船出を飾った。
まさか調教師としてのデビュー戦でもやるとは…。先生になっても、この男には驚かされる。

武幸四郎先生の将来にサプライズと幸あれ!

 

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