It’s a showtime!!!
2018/03/18
カテゴリ:馬のはなし / Pacallaオリジナル
史上7頭目の三冠馬に君臨し、日本競馬の夢である凱旋門賞制覇に最も近づいたオルフェーヴル。
怒られるかも知れないけど、記録にも記憶にも残るこの優駿を、私は面白い馬、コメディアンホースと思っている。
セントライト、シンザン、ミスターシービー、シンボリルドルフ、ナリタブライアン、ディープインパクトの先輩三冠馬は、挑む者を泣かせるような強さからくるヒーロー的な要素があった。
オルフェーヴルも強い馬だ。しかし、彼には彼しか持っていない愛すべき要素があった。それが面白さである。
新馬戦Vを決めた直後、鞍上の池添謙一を振り落とし単独でウイニングラン。まだまだやる気出えへんわ。と、2歳後半から3歳の春先は燻っていたが、ヨッシャ。ヤルで!と、本気を出し、三冠制覇。最後の菊花賞では、またまた池添を振り落とし、やはり単独で三冠の美酒に酔いしれた。
この歩みに、ブライアンやディープと同じ名馬像を見出すことは出来ない。
俺が勝った!人やない!俺が勝ったんや!と、自我を貫き通す姿は、日本競馬史上初のサラブレッド像である。
三冠、そして有馬記念も勝って古馬になったオルフェーヴル。目指すは花の都、パリのロンシャン競馬場。この馬ならやってくれるかも知れないという人々の期待を背に、彼は始動戦の阪神大賞典に挑んだ。
ヤンチャな少年を卒業し、時代を牽引するリーダーになるだろうと誰もが思い、レースを見守った。
1周目4角で主導権を奪ったナムラクレセントがマイペースに持ち込む。長距離戦の醍醐味である静かに燃える時間が流れようとし始めた時、一頭ブレーキが壊れたスポーツカーのような走りを見せる馬が現れる。8枠、ゼッケン番号12、栗色の馬体、オルフェーヴルだ。
俺が!俺が!と喚き散らかした彼は、池添謙一の制止の合図も聞かず、そのまま先頭に立つ。しかし、このまま押し切れる力を持っている馬、ゆえにファンはバケモノじみた圧勝劇を確信した。
ところが…。3角前で急失速。嘘やろ…と思い、嫌な汗が止まらなかったことを覚えている。
オルフェーヴル消える。それは戦前描いたパリの夢もクソも全て泡沫の如く消えることを意味した。
戻って来たぞー!!!
突然、サイレンを鳴らしたのはオウケンブルースリ騎乗の安藤勝己。
“カラスが鳴かない日はあっても、アンカツが勝たない日はない。”
と、まで言われた百戦錬磨の男が見た光景は、消えたはずのオルフェーヴルが、馬群を目掛けて迫ってくる信じられない光景だった。
驚く出走馬とジョッキー、テンパるマイクロフォン前の実況アナウンサー、やんやの喝采を送るファン。平和な阪神競馬場が、ハリウッドも霞む名劇のロケ地に変わった。
オルフェーヴルが、獲物を見つけた猛獣のような迫力で先頭に立とうとする。そこへ内をロスなく見事に立ち回ったギュスターヴクライ。
さしもの四冠馬も大外ブン回しのロスは痛かった。結果、半馬身差届かず2着に敗れたが、トンデモナイものを見てしまった…。という、騒めきが阪神競馬場に漂った。
悲しいかな勝ったギュスターヴクライのことはあまり触れられていない。私は、彼こそが一番勇気のある馬だと思う。
獣が迫り来る恐怖。動物研究家でも、そうそう味わえない恐怖を、サラブレッドの彼は体験し、それを見事に振り切って勝利した。実に天晴れなものである。
この第60回阪神大賞典の衝撃は海を渡り、世界中の競馬ファンに伝播した。
信じられない…。
誰だ!競馬場で猛獣を走らせたのは⁈
と、ジャパンのホースレーシングに、彼らは驚きを隠せなかった。
一旦消えて、次現れた時は猛獣。
こんな走りを見せてくれる馬は、もう現れないだろう。
いや、彼のDNAを受け継いだ子孫なら、ひょっとしたら…。