日高町厚賀に居を構える浜本牧場の貴重な血脈がうれしい重賞タイトル獲得です。
０４年安田記念優勝馬ツルマルボーイの４代母でもあるジャヌワ（牧場の歴史Vol.2浜本牧場編を参照）から血をつないできたウェルドーンが、関東オークスを快勝。浦和の南関東２冠牝馬ケラススヴィアに２馬身の差をつけ、重賞初制覇を果たしました。

浜本牧場の看板

関東オークスの優勝ゼッケンは武豊騎手のサイン入り

近所の人たちとテレビの中継を見ていた４代目の浜本雅俊さん。１番人気に支持されていたことで落ち着きません。ソワソワしながらパドック、レースを見守りました。
スタート直後は行き脚がつかず、前半もかかり気味の追走。それでも、４コーナーでは余力十分。逃げる南関の女王を直線で軽くパスしたレースぶりは強さを際立たせました。

「最初遅れた時はアラっと思いましたが、すぐ追いつけたから何とかなるかなと、最後のコーナーを回ったあたりで勝てるかなっていう感じでした。直線に向いた時は安心しましたね」

レース終了から１時間、雅俊さんの携帯電話は祝福の電話やメッセージでコールが鳴り続けました。

お祝いの花

順調にタイトルを獲得したウェルドーンですが、実は1歳の８月まで買い手が決まっていませんでした。１歳春に手を挙げた人とはうまく折り合わず、牧場の名義で走らせることも視野に入れていたところ、サマーセールの際に牧場に来場した安原浩司オーナーと話がまとまりました。

「芝馬だと思っていて、安原さんに『桜花賞へ行きましょう』という話をしたんですよね。オークスでしたね。関東オークスでした（笑い）」

ダートでもうれしいタイトルには違いありません。１７年の関東オークスでアンジュデジールの２着があった安原オーナーにとってはリベンジ、浜本牧場にとっては初の交流重賞制覇となりました。

生後間もないウェルドーン

ウェルドーン（2019.7.3）

ウェルドーンの一族は芝馬が多く、ダートでの活躍は父ヘニーヒューズによるところも大きいでしょう。実は、このヘニーヒューズとも不思議な縁がありました。

母のツルマルオジョウはうるさい気性の持ち主で、ずっと鎮静を打って種付けを行っていました。そのため繁殖入り当初から継続して社台スタリオンステーションを訪れていましたが、ウェルドーンのひとつ上の姉の交配時からおとなしくなったといいます。これで違う場所でも種付けできると考えた雅俊さんは、他の繁殖牝馬エアルーヴルの仔が死産したことで発生したヘニーヒューズのフリーリターン（不受胎、流産、死産などの場合、翌年度に再度種付けできる権利）をツルマルオジョウに使うことにしました。こうして生まれたのがウェルドーンだったのです。

仔が死産してしまったエアルーヴルにはディスクリートキャットを配合し、生まれたのが牧場名義のテンシノエア。こちらは４月に未勝利を勝ち、１勝クラスでも３着とめどを立てました。
「何か全てがうまく回った不思議な年でしたね」と雅俊さん。残念ながら死産してしまった子が、天からうまく導いてくれたのかもしれません。

ツルマルオジョウ

ツルマツオジョウ

放牧地でのツルマルオジョウ

放牧地でのツルマルオジョウ（右）

母のツルマルオジョウは、浜本牧場の名繁殖牝馬ツルマルガールの子。ツルマルボーイの全妹でもあります。現役時代は小倉のデビュー戦の１勝のみでしたが、それが非常にインパクトのある勝ち方でした。４コーナーを大外で回ると、外ラチに向かって斜めに伸びて差し切り。しかもゴール後に鞍上を振り落とした“おてんば娘”の姿は、今でも脳裏に焼き付いています。

そのツルマルオジョウは、離乳前に母のツルマルガールがこの世を去ってしまうという不運な幼駒時代を送りました。乳母にもつかず、他の馬たちよりもひと足早い離乳になってしまいましたが、それでも立派に育ち、そして１勝を挙げて、ツルマルガールの唯一の後継牝馬として牧場に戻ってきました。母となった今は子煩悩。今となってはしませんが、種付けの時には汗をかくほど仔馬の周りを回って隠そうとしていたのだそうです。

ツルマルガールの朝日チャレンジC優勝の記念写真。当時の鞍上も武豊騎手でした

浜本牧場の功労馬ツルマルガールのお墓

ツルマルガールのお墓の横には生産馬カノヤザクラのものも

そんなツルマルオジョウの孝行娘、ウェルドーンは生まれた時から骨格がしっかりしていて雅俊さんは出産時に「これだけ立派なのはオトコ馬かな？」と思ったそうです。
半姉のジェイケイオジョウ（父ハービンジャー）は小さくて素軽いタイプ。一方、ウェルドーンは大きな馬体で生まれました。同じ母から生まれた姉妹でもタイプは違います。

「小さい馬はおいて行かれるからダーッと前まで行くんです。でも、ウェルドーンはいつでも前に行けるから本気で走らないのか、後ろをトコトコついていくんですよね。思い切り先頭を走っている姿は記憶にないですね」と雅俊さん。牧場時代は目立つ感じではなかったといいます。

ウェルドーンの半姉にあたるジェイケイオジョウ

ジェイケイオジョウ

ジェイケイオジョウの当歳は父カルフォルニアクローム譲りの大流星が特徴的

ジェイケイオジョウの当歳

カメラに興味津々のジェイケイオジョウの当歳

ダートで使われながら頭角を現してきたウェルドーンは、ジャパンダートダービーを次のターゲットにしています。

「生ませた子がこんなに走るなんてうれしいですよ。走っている姿は励みになります。勝ってくれればすごくうれしい。ケガなく、迷惑をかけずに、元気に走ってくれれば」と雅俊さんは願いを込めます。

２年前の８月に安原オーナーとともに夢見た頂点。関東オークスのウェルドーンに続いてファストフォースでもＣＢＣ賞を制したオーナーの勢いにも乗って、砂上で世代の頂へ一気に駆け上がることができるでしょうか。