重賞制覇レポート『ブラックホール』杵臼牧場 編(札幌2歳S)

2019/09/09

カテゴリ:馬のはなし / Pacallaオリジナル

歓喜の瞬間は予期せぬ形で訪れました。ブラックホールが札幌2歳Sを勝ち、故郷の杵臼牧場にプレゼントしたJRAの重賞タイトルは2001年の京都大賞典(テイエムオペラオー)以来、実に18年ぶり。
「いやあ、こんなに嬉しいことはなかったよね。ましてや、地元でさ。勝つとは思わんかったね」

こう何度も繰り返したのは社長の鎌田信一さん。レース当日、札幌競馬場を訪れていた信一さんは久々の口取りに喜びを噛みしめました。その日の夜、信一さんは札幌に残りましたが、近所の人たちが杵臼牧場に集まり、祝勝会が開かれたそうです。次々に届くお祝いの花は40を超え、玄関に収まらなくなりました。

ブラックホール 札幌2歳S玄関を埋め尽くすお祝いの花

テイエムオペラオーの写真やレイが保管されるオペラオーハウス

サトノゴールドが2着に入り、新種牡馬ゴールドシップ産駒のワンツーフィニッシュが話題になりましたが、信一さんは2代父のステイゴールドの姿が浮かんできたと言います。
「4コーナーで外に振られたけど、直線で抜けてきた。楽なレースじゃなかったよね。体は小さいけど根性があるね。ステイゴールドっぽい」

父のゴールドシップは現役時代に幾度となくファンの注目を集めた超個性派。しかし、ブラックホール自身は生まれた当初から手がかからなかったそうです。信一さんの息子で、3代目となる代表取締役の鎌田正信さんは「超優等生。困った記憶がないんです。ゴールドシップは気性がやんちゃでしたけど、その産駒にしては素直ですよ」と振り返ります。

桜花賞2着馬ブルーリッジリバーの子であるヴィーヴァブーケは芹澤精一オーナーの預託馬。これまでドリームジャーニー(ミラクルブラッド、牝4歳)、ゴールドシップ(ブラックホール)、エイシンフラッシュ(牝1歳)、オルフェーヴル(当歳の牝馬)と全て違う種牡馬と交配し、今はサトノダイヤモンドの子を宿しています。配合はオーナーのアイデアだそうです。

母ヴィーヴァブーケ

母ヴィーヴァブーケと当歳のオルフェ産駒母ヴィーヴァブーケと当歳のオルフェーヴル産駒

テイエムオペラオーが一時代を築いた頃はまだ学生だった正信さん。26歳まではシステムエンジニアとして働いていましたが、「後を継がないか」という父の願いもあって、他の牧場勤務を経て7年ほど前に杵臼に戻ってきました。牧場出身の名馬が逃した競馬の祭典が、今の大きな夢となっています。

「オペラオーが取れなかったダービーを取りたいんです。石川(裕紀人騎手)くんも最初から重賞を勝つと言ってくれていましたが、まさかこんなに早く勝つとは。ゴールドシップも早熟かと言われれば、そうでもないし、伸びしろはあると思うんです」

早めに賞金を加算できたことで日本ダービーの文字が見えてきました。父の信一さんも将来に期待感をにじませます。
「オペラオーもそうだったけど、この馬は余計なエネルギーを使わない。ひとつ勝つことも夢だけど、グレードレースっていうのはやっぱり華だから。重賞は簡単には取れない。力がなかったら取れないよ」

2人が思いをはせる来年の初夏の府中。黒鹿毛の小さな馬体に杵臼の親子2代にわたっての夢を託します。

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