Pacalla馬図鑑 クライズデール編

2023/04/25

カテゴリ:Pacallaオリジナル

 

こんにちは! Pacalla 編集部のやりゆきこです。この『Pacalla 馬図鑑』シリーズでは、さまざまな馬の品種を紹介しています。その歴史や特徴だけでなく、品種にまつわる逸話や伝説、私の個人的なエピソードなども織りまぜながらお話させていただく、ちょっと変わった図鑑です。

 


 

ランピットの牝馬から続く、スコットランドの馬車馬『クライズデール』

今回ご紹介する『クライズデール(Clydesdale)』はスコットランドのラナークシャー地方原産の重種馬です。ラナークシャー地方は、かつてクライズデール地方と呼ばれていたことからこのような品種名がついています。

▲スコットランドのラナークシャー地方はこの辺です

 

クライズデールの起源は諸説あるのですが、有史以前の野生馬に遡るといわれています。またスコットランドには10世紀ごろまで、ピクト人という農耕民族が定住していました。彼らは家畜によって個人の冨や力を示していたので、立派な家畜を持つために馬や牛などの人為選択(選択交配)をしていたといわれています。加えて、スコットランドはローマ帝国の支配を受けていた時代もあり、この地の在来馬もその影響を多く受けました。 

122年頃には10年ほどをかけて、スコットランドとイギリス北部の境界線の近くにハドリアヌスの長城が作られました。その建設の際に、現在のオランダ北部、フリースラントから派遣された労働者たちが連れてきた『フリージアン』とスコットランドの在来馬が交配され、クライズデールの基礎となる馬が誕生したそうです。

Pacalla馬図鑑 フリージアン・ホース編はこちら≫

17世紀にはベルギーから多くのフランドル馬、ブラバンソン馬の種牡馬を連れてきて交配に用いたり、スコットランド南西部のエアシャーから連れてきたブレイズという名の在来馬が改良に使われ、その後のクライズデールという品種に大きな影響を与えました。

クライズデールという品種が確立したのは18世紀に入った頃。ランピッツ・メアという牝馬がブリーダーの手に渡り、本品種の基礎種牡馬となるグランサーという牡馬を生みました。ランピッツ・メアは後に「ランピットの牝馬」と呼ばれ、現在のクライズデールのほとんどがこの牝馬を祖先に持っています。

 

<ミニコラム>

謎の在来馬ブレイズ:ブレイズは体高165cm程度の血統不明の馬だったそう。この馬は荷馬だったとも、ホースショーのチャンピオン馬だったともいわれている。青毛に白徴のある歩様の美しい馬で、それらの特徴は現代のクライズデールにも受け継がれていると考えられている。

 

改良を重ねてどんどん大きく…!? クライズデールの身体的特徴

 

Bonnie U. Gruenberg, CC BY-SA 3.0 , via Wikimedia Commons

 

クライズデールはスコットランドの厳しい気候に耐えられる体、地形があまりよくない足場の悪い場所でも安定した歩様で歩ける脚(あし)を持っています。

体高は163~183cm、平均170cmほど。一般的に牡馬の方が牝馬よりも大きいようです。昔はシャイアーやペルシュロンといった他の重種馬と比べると小柄だとされていましたが、徐々に大きな馬が求められ、繁殖にあたって人為選択が行われ始めました。現在では成長した牡馬だと1tを超えるクライズデールもいるのだとか…!

 

また、頭部は額が広く、大きくて優しそうな目は左右離れています。横顔は直線またはきれいにカーブしています。耳も大きくて可愛らしいです。

首は太く上に長く伸びていて、肩はなだらか。太くてパツパツ(?)した胴体に短い背。力強くて、他の重種馬よりもやや長い脚を持っています。隣り合った左右の脚は互いに接近していて、飛節から繋部(球節から蹄までの部分)までの距離が長く、飛節の上に脛(すね)がないことが良いクライズデールだとされます。クライズデールの脚についてはこれ以外にもいろいろと望まれることがあるのですが、それは大きな体ででも小回りがきいて、常歩でも速歩でも自由自在に動くことができる、独特の美しい歩様につながるからです。

ほかの動物よりも独特らしい? 馬体の各部名称50!≫

毛色については圧倒的に鹿毛が多く、次点で青鹿毛が多いようです。そのほか、青毛・粕毛・芦毛・栗毛も存在します。顔や脚には白徴が見られ、幅が広く、やや平たい蹄は白い距毛で覆われています。まるでルーズソックスみたいですね。

 

<ミニコラム>

図鑑では粕毛の写真が使われる?:圧倒的に鹿毛が多いにも関わらず、馬の品種図鑑などでは粕毛の写真もよく見かける。個人的な見解ではあるが、クライズデールはシャイアーとよく似ているため、シャイアーにはいない粕毛を編集側がセレクトしがちなのではないだろうか。

 

Just chaos, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
▲よく似ているシャイアー種

 

使役馬としてのクライズデール。米ではバドワイザーのシンボルにも!

 

 

クライズデールは穏やかで優しい気性、素朴で飼育しやすいといわれますが、パワフルでダイナミックな馬でもあります。

かつてのスコットランドでは、炭田から石炭を運ぶためにクライズデールが利用されていました。それ以前は、馬に直接荷物を括り付けて運ぶ駄載(ださい)という方法が用いられることが多かったのですが、炭田が開発される頃にはスコットランドの道が整備されていたため、馬車で一度にたくさんの石炭を運ぶようになったそう。そのために馬たちは大きな体に改良されていったともいわれています。現在は、観光馬車を引いたり、農耕馬として使われたり、パレードなどに使われているクライズデールですが、スコットランドでは緑地維持にも一役買っているようです。

また、クライズデールはアメリカのビールの銘柄『バドワイザー』のシンボルとして、長年起用されていることも有名。ビールを積んだ8頭立ての馬車を引いたり、CMに出演したりしています。しかも、バドワイザーを生産しているアンハイザー・ブッシュ社はクライズデールを自社で生産しているというから驚きです!

(ちなみに『東京リベンジャーズ』の実写映画では、主人公のタケミチ君がバドワイザーの8頭立ての馬車のTシャツを着ています。)

 

▲アンハイザー・ブッシュ社の牧場の様子。

 

<ミニコラム>

クライズデールは日本でも会える?:その昔…北海道のノーザンホースパークでクライズデールとウエディングフォトなるものを撮ったことがある。撮影のために調教されている馬ではないので、あまり近くに寄って撮れない可能性があるとプランナーさんから言われていたが、さすが穏やかさに定評のある品種だけあって、かなりの近距離で、終始静かに落ち着いてモデル業務をこなしてくれた。

 

クライズデールのこれまでとこれから…

 

馬車が車にとって代わられ、使役馬としての需要が減ってしまったことにより、1970年代には絶滅危機とまでいわれていたクライズデール。現在は多少状況が改善されてはいるものの、世界の数カ国で飼育されているのみで、その数は依然として少ないようです。

ですがその美しい歩様などが改めて注目され、パレードなどでの活躍が望まれるようになっているそう。またアメリカでは穏やかな気性が警察騎馬隊に向いているのでは?という意見も出ているようです。

やさしくて力持ちのクライズデール、日本でも彼らと触れ合える場所が増えていくと嬉しいですね! クライズデールのような重馬馬の活躍の場が、今後で増えていくことを願っています。

 

 

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<参考文献・参考サイト>

・図説 馬と人の歴史全書 (日本語) 単行本|キャロライン デイヴィス(1997年発行/東洋書房)
・世界で一番美しい馬の図鑑 | タムシンピッケラル(2017年発行/エクスナレッジ)
・ウマの博物図鑑|デビー・バズビー/カトリン・ラトランド(2021年発行/原書房)
・世界の美しい馬 チャンピオン馬のポートレートと特長|リズ・ライト(2015年発行/グラフィック社)
・Horses of the World (Princeton Field Guides) | エリス・ルソー(2017年発行/プリンストン大学出版局)
・馬 (手のひら図鑑) | キム デニス‐ブライアン (2016年発行/化学同人)
・ウマ用語集 2003(英和・和英)| (2003年発行/日本ウマ科学会)
・<英国桟橋調査の余録> ハドリアヌスの長城(Wall)|布施谷寛(2015年調査/PIERS 研究会)
・セウェルス朝と属州ブリタンニア |脊戸里央(2015年発行/京都女子大学大学院文学研究科研究紀要. 史学編収録)
・主要家畜品種成立史(44)ベルジアン種 | 柏村文郎(2006年発行/畜産技術に収録/帯広畜産大学)
・<論 文> 中世スコットランドのピクト王国 |久保田 義弘(2013年発行/札幌学院大学経済論集 第6号収録)
・International Museum Of The Horse 公式サイト(2023年4月閲覧)
・THE CLYDESDALE HORSE SOCIETY 公式サイト(2023年4月閲覧)

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