【今さら聞けない競馬学】意外なあの国も? 海外の競馬事情を知る!

2023/02/17

カテゴリ:色々なはなし / Pacallaオリジナル

 

こんにちは、Pacalla編集部の鑓です。皆さんは『海外競馬』といったらどんな競馬を想像しますか? やっぱり、フランスの凱旋門賞のような華やかな貴族のイメージでしょうか? …かく言う私も、実は海外の競馬のことって全然わからないんです…‼ そんなわけで今回は世界の競馬事情について調べてみました。

 

競馬が盛んな国とそのレベルは?!

 

まずは、競馬が盛んな国を知ろうじゃないか!ということで、2022年のブルーブック※1を見てみることにしました。ブルーブックとは競走馬セリカタログ表記国際基準、各国の対象レースおよび統計・技術情報がまとめられた年刊書籍。各国の平地競走レベルをパートI、パートII、パートIIIの3つに分けた国際格付けを調べることができます。下表は2022年の格付けをまとめたものです。

※1INTERNATIONAL CATALOGUING STANDARDS and INTERNATIONAL STATISTICS の通称

 

競馬 国際格付け 2022年

表を見てみると、格付けに入っている国だけで50以上も。ジャマイカやモロッコなどあまり競馬のイメージがなかった国でも競馬が開催されていました! また障害競走はパートⅣとされ、アイルランド、イタリア、日本、ニュージーランド、スイス、アメリカが記載されています。

加えて上記の格付けには記載がないものの、モンゴル、トルクメニスタン、セルビアなど国際競馬統括機関連盟(IFHA)には加盟しているという国もあり、60以上の国でサラブレッドを使った競馬が実施されているようです。

 

各国の競馬の特徴は?

 

さて、本当なら60カ国(?)すべての国の競馬について書いていきたいところですが、文字制限のないWEB記事といえど、それはなかなか難しいので、今回は競馬先進国の中からいくつかピックアップしてご紹介したいと思います。さっそくいってみましょう!

 

★アメリカ(国際格付け パートⅠ)

▲ケンタッキー州 チャーチルダウンズ競馬場

【歴史】
アメリカでは1620年頃から、地域の催しとして競馬が始まりました。イギリスの競馬関係者の移住によりアメリカの競馬は発展していきますが、開墾後の土地は狭く、初期のレースは、なんと一般道路を利用して少数の馬で行われました! そのため、しばらくの間はヒート競走※2が主流だったそう。競馬場や法律などが整備され、現在のスタイルに近づいたのは南北戦争が終わってからのことです。

【特徴】
2018年の時点では、31の州、100を超える数の競馬場が存在し、ダートレースが中心となっています。また、管理や運営を州ごとに行っているため、ルールも州によってそれぞれ異なります。ヨーロッパの競馬が貴族的なイメージだとすると、地域の催しとして始まったアメリカの競馬は、お祭り的な娯楽要素が強いようです。また、競馬場内にドッグレースやスロットなどのカジノを導入し、売り上げを競馬産業に還元する『Racino(レーシノ)』というという仕組みも! ちなみにRacinoとは『Race(レース)』と『Casino(カジノ)』を合わせた造語だそう。

【豆知識】
アメリカの競馬場は全て左回りで平坦。内側のトラックが芝で、外側がダートとなっています。前述の通り、アメリカ競馬はダートが中心のためダート馬場が『メイントラック』と呼ばれ、「ダート」という言葉は使われません。

\アメリカの馬産事情/
サラブレッド生産数は世界1位。年間2万頭前後を生産。ケンタッキー州、カリフォルニア州、ルイジアナ州、フロリダ州などで馬産が行われている。

※2 競馬において同一の組み合わせの競走馬によって複数回の競走を行うことにより、優勝馬を決定する方式の競走

 

★イギリス(国際格付け パートⅠ)

▲イギリス アスコット競馬場
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【歴史】
近代競馬発祥の地であるイギリスでは、1539年にはすでに常設の競馬場が作られており、17世紀の初頭には国内十数カ所で競馬が開催されていたといわれています。近代競馬としてルールなどが制定され、ジョッキークラブができたのが1750年、スタッドブックができたのが1790年のこと。この頃にはヒート競走からダッシュ競走※3に変わり、マッチレースからステークス方式※4に移行していきました。

【特徴】
世界最高峰の競走水準をもつイギリス競馬。年末の数日を除いて、一年中レースが行われています。芝レースが中心となっており、障害レースも非常に人気が高いのが特徴です。貴族競馬から発展したため、社交場としての役割も持っており、富裕層の多くは馬券を買わず、レースも見ないことが多々あるそう。また社交場と一般競馬ファンの観覧場所は区別されています。発売金はブックメーカーが支配していて、そのシェアはなんと約99%! そのため、競馬産業としての収入は低く、運営もスポンサーに頼って行われています。

【豆知識】
イギリスの競馬場は、日本同様に左回りも右回りもありますが、トラックの形状はかなり独特…! 三角に近いコース、台形に近いコースなどもあれば、ホイッスルのような形、楕円の中にX字が入ったような形など日本ではまず見ない形状のコースがたくさんあります。

\イギリスの馬産事情/
イギリスの馬産地はサフォーク州の町、ニューマーケットに集中している。イギリスでは隣国アイルランドの生産馬が走ることも多く、種牡馬の成績はふたつの国を合わせてのデータがスタンダード。

※3 複数回勝負ではなく1回勝負のレースのこと
※4 複数の馬主がお金を出し合って賞金とする方式

 

★フランスの競馬(国際格付け パート

▲パリ ロンシャン競馬場(撮影:橋本樹里)

【歴史】
もともと競馬は大衆娯楽のような位置づけだったそう。都市を構成する市民は商人や職人が多く、草競馬で馬に乗っていたのは職人たちでした。フランスで近代競馬が始まる兆しが見えたのは17世紀に入る頃。しかし、当時のフランス貴族の間では、狩猟が人気だったために、馬産といえば狩猟用の馬でした。サラブレッドへの関心はまだまだ薄く、本格的に競馬が開催されるようになったのは19世紀前半になってからのことです。

【特徴】
イギリスやアイルランドとともに欧州競馬をけん引してきたフランス。パリの華やかな競馬と地方競馬の格差が大きいといわれています。また速歩で行うトロッター競馬(繋駕速歩競走および騎乗速歩競走)も盛んです。1995年以降はフランスギャロという、日本でいうところのJRAのような機関が統括しており、馬券は投票券を購入した人同士で、購入額に応じて配当金を分け合う日本と同様の方式(パリミュチュエル方式)を採用。また、レースはスローペースで行われ、最後に仕掛けるパターンが多いのだとか。言わずと知れた凱旋門賞は世界最高のレースレーティングを獲得しています。

【豆知識】
日本で一般的な平地競走よりもトロッターを用いた速歩のレースの方が人気があり、ヴァンセンヌ競馬場で行われるアメリカ賞は売り上げも、観客動員数も凱旋門賞を上回っています。 

\フランスの馬産事情/
フランスの馬産地といえば、穀倉地帯であるノルマンディー地方が有名。サラブレッド生産数が年間5千頭前後なのに対し、トロッターの生産が年間1万頭前後となっている。

 

過去のPacalla記事)ギャロップ禁止の競馬って? 繋駕速歩競走について調べてみた>

 

★アラブ首長国連邦の競馬(国際格付け パートⅠ)

▲2019年ドバイワールドカップ
Fars Media Corporation, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

【歴史】
アラブ首長国連邦の競馬が始まったのはこれまで紹介してきた強豪国と比較すると割りと最近。1969年にドバイに競馬場ができたのが最初となりますが、これは非公式なレースでした。正式なルールのもと西洋式のレースが行われたのは1981年のこと。JRAの公式サイトによれば、この時使われたコースはラクダレース用のコースを借りたものだったそう…。実にドバイらしいですね!

【特徴】
アラブ首長国連邦では、ドバイ、アブダビ、そしてシャルジャと3つの首長国で競馬が行われています。その中で最も中心的となっているのが、皆さんもよくご存知のドバイです。ドバイは、夏は暑すぎるため10月~3月ないし4月上旬の期間限定で競馬を開催。天然資源から観光資源への切り替えを目指し、競馬は観光資源のひとつとして国を挙げて開催されています。宗教上の理由で賭け事は禁止されているため、スポンサーや王室から運営資金を集めて行われており、開催期間をドバイワールドカップで締めくくります。ドバイワールドカップデーでは1日に5つのG1、8つの重賞がメイダン競馬場で行われます。

【豆知識】
賭け事が禁止されているため、馬券の発売はありませんが、「コンペティション」という予想ゲームのようなものがあり、参加費用は無料だそう。意外と人気があるようです。

 \アラブ首長国連邦の馬産事情/
ほとんどサラブレッドの生産は行われておらず、年に数頭生産される程度。

 

★香港の競馬(国際格付け パートⅠ)

▲香港のレースの様子

【歴史】
公式な記録では1846年に現在のハッピーバレーで開催されたものが最初とされています。当初の競馬は、入植したイギリス軍の兵士が騎乗して行われましたが、当時はサラブレッドではなくアラブ種からポニーまでさまざまな馬が使われたようです。サラブレッドで競馬が行われるようになったのは戦後に入ってから。またパート1国となったのも割と最近で、2016年に認定されました。

【特徴】
香港の競馬はジョッキークラブが圧倒的な権限を持っています。その勢いは競馬だけにとどまらず、賭け事、宝くじの管理や運営を一手に担っており、その売り上げは2兆9千億円(2018年実績)を超えることも。そこからの納税額は香港政策の年間国家予算の5%にもおよび、社会福祉事業への財政的な貢献も大きいそうです。
もうひとつの特徴としては、『生産を伴わない』ということが挙げられます。世界有数の売り上げを誇る競馬先進国でありながら、海外の馬産地から馬を購入するスタイルを貫き、現役競走馬のほとんどがセン馬です。牡馬は若干数走っていますが、牝馬は基本的に使われていません。

【豆知識】
雨が多く、湿度が高い気候のため、開催時期は9月~7月の約10か月間となっています。また芝コースの水はけの良さと適度な保水性は世界でも抜きんでており、パドックは開閉式の屋根を完備するなど、天候への配慮が素晴らしい競馬場でもあります。 

\香港の馬産事情/
前述の通り、海外から馬を輸入するスタイルのため、自国での生産は行われない。

 

★オーストラリアの競馬(国際格付け パートⅠ)

▲2014年のメルボルンカップの様子
Chris Phutully, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

【歴史】
1810年にニューサウスウェールズ州で、イギリス軍人が主催する近代競馬が行われたのが始まりです。1842年には同州の競馬統括団体として、オーストラリアンジョッキークラブ(現オーストラリアンターフクラブ)が設立され、1864年にはビクトリア州における競馬統括団体として、ビクトリアレーシングクラブが設立されました。

【特徴】
南半球を代表する競馬先進国で、競馬場の数は世界一多いといわれています。1年の間に平地及び障害競走が行われた競馬場の数は370を超え、これまた世界最多! サラブレッド競馬の他、トロッターによる競馬も行われています。

全国的な組織としては、基本的なルールを制定したり、血統を管理したりするレーシングオーストラリアがありますが、州ごとにも統括する団体が存在します。レースはその規模感によって、メトロ、プロヴィンシャル、カントリーという3つの区分に分けられており、さらにアマチュア騎手しか参加できない「ピクニック」という区分も。アマチュアでもレースに参加できるシステムは、競馬の裾野を広げそうですね! また町中の至るところにTABと呼ばれる場外馬券発売所があり、手軽に馬券を買うことができるようになっています。

【豆知識】
日本では、サラブレッドの年齢は1月1日に一斉に更新されますが、オーストラリアの更新日は8月1日。そのため、シーズンは8月1日から7月31日までとなります。また、国民的行事となっているメルボルンカップの日は州の休日になっています!

\オーストラリアの馬産事情/
アメリカに次いで世界第2位の生産頭数を誇るオーストラリア。南半球のオーストラリアと北半球の日本では出産期が異なるため、日本の種牡馬がシャトルスタリオンとしてオーストラリアに行くことも。

 

びっくり? 世界の一風変わった競馬

ここまでは、サラブレッド競馬の強豪国についてご紹介しましたが、続いては日本人の私たちからするとちょっと珍しく思える、海外の一風変わった競馬を紹介したいと思います。

 

★クォーターホース・レース(アメリカ)

アメリカでは、サラブレッド以外にクォーターホースを使った競馬も行われています。日本ではクォーターホースというとカウボーイなど西部劇のイメージが強いかもしれませんね。クォーターホースの競馬はアメリカの東側ではあまり行われておらず、西側で人気のようです。実は、「クォーター」とはクォーターマイルレース(1/4マイル競走、約400m)に由来しており、この距離では一番速く走れる馬とされています! アメリカでは、他にもアパルーサやペイントホースを使ったレースなども行われており、曜日によって走る馬の品種が違うというスタイルの競馬場もあるんだとか。

 

★ポニー競馬(韓国)

▲体高は120cm前後でカラーバリエーションが豊富な済州馬たち
제주마육성팀.CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

ポニー競馬というと、日本では子どもたちが騎乗する「ジョッキーベイビーズ」のようなものを想像しますが、韓国の馬産地である済州島の済州競馬場では、大人の騎手(しかも結構な体重の騎手もいるらしい)がポニーに乗る本格的なレースが行われています。このレースに登場するポニーたちは韓国の在来種である済州馬という品種です。済州馬は天然記念物にも指定されていて、種の保護や育成も兼ねてこのような競馬を開催しているそう!

 

★ビーチ競馬(スペイン)

スペインのサンルーカル・デ・バラメダの海岸では、毎年8月に砂浜でレースが行われています。もともとは地元の人々が港から魚を運ぶための馬を使った地域の催し的なレースでしたが、1845年に公式なレースとなりました。現在は1400~2000mの距離を3歳以上のサラブレッドで競い、毎年80頭近くの馬が参加しています。賞金も総額160000ドルととっても豪華なレースで、ゴール地点には有料の観覧席もあり、社交場のような雰囲気が漂います。

 

★雪上競馬(スイス)

最後にご紹介するのは、スイスのサンモリッツ競馬場で、毎年2月の日曜日に3週連続で開催される「ホワイトターフ(雪上競馬)」。凍った湖の上に雪を敷き詰めて行われるというこのレースは、1907年から続いており、毎年3万人近くの観客が世界中から集まります。競技としては平地競走、繋駕速歩競走の他、スキーを履いた騎手が長い手綱で馬に曳かれる「スキージョーリング」というレースがあります。雪の上という特別な環境でのレースのため、馬たちは通常とは異なる、蹄鉄の両端部と中央の3箇所に滑り止め(突起)をつけた蹄鉄を履いてレースに臨むそう。また、コース上でのバンド演奏やアーティストの作品展示などフェスティバル要素も満載です。

 

◆◆◆

 

世界の競馬事情、いかがでしたか?

ひとことに競馬といっても各国いろいろな特色があって面白かったですね! 今回は各国の競馬場の特色や注目のレースまでは、あまり触れることができませんでしたが、また改めて記事にできたらと思っていますので、乞うご期待ください!

 

<参考文献・参考サイト>
世界の馬 伝統と文化(緑書房:2019/5/17) スサンナ・コッティカ (著), ルカ・パパレッリ (著), 末崎真澄 (監修)
世界の中心で馬に賭ける-海外競馬放浪記(中央公論新社 :2022/4/7) 須田 鷹雄 (著)
グリーンファーム会報 2021年11月号

国際競馬統括機関連盟(IFHA) 
INTERNATIONAL CATALOGUING STANDARDS and INTERNATIONAL STATISTICS 2022
JRA海外の競馬

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