橋本樹理の凱旋門賞取材記 Vol.1

2021/10/15

カテゴリ:馬のはなし / 色々なはなし / 人のはなし / Pacallaオリジナル

街路樹からマロニエの実が落ちてくる頃、パリロンシャン競馬場ではフランス競馬の総決算、凱旋門賞が行われます。
凱旋門賞は第一次世界大戦後、フランス競馬の復興のシンボルにと期待を込められて1920年に創設。100回目を数える大きな節目の今年、日本からクロノジェネシス、ディープボンド、そして武豊騎手が参戦しました。

日本のエース、クロノジェネシスは宝塚記念を圧勝後、ここへ直行。オーナーのサンデーレーシングはオルフェーヴル(2012年2着、2013年2着)の時には前哨戦の前から滞在。フィエールマン(2019年12着)ではイギリスのニューマーケットを拠点にし、レース直前にロンシャン競馬場入りと、他のノーザンファーム生産馬も含めてさまざまな手を打ってきました。そして今回は、レース9日前に出国してフランス入りという異例のプランでの挑戦が決定。今春に参戦したドバイシーマクラシック(2着)でもレース9日前に現地入り。これまで間隔が空いても好走してきたこともあり、ギリギリまで手元に置いて調整するメリットを選びました。

9月24日に帯同馬イカットとともに仏シャンティイのパスカル・バリー厩舎に入り、エーグル調教場のウッドチップの坂路で調整。「輸送による発熱はなく、こちらに着いてからもおとなしくて、落ち着いています」と斉藤崇調教師は納得の表情でした。

▲シャンティイで調整するクロノジェネシス

▲クロノジェネシスが使用していたシャンティイ調教場のウッドチップ

一方、ディープボンドはトライアルのフォワ賞を経由して凱旋門賞へ。そのため、エントシャイデンとともに8月20日には仏シャンティイの清水厩舎に到着。これまでノースヒルズが送り込んできたキズナ(2013年4着)、クリンチャー(2018年17着)と同様に、アークトライアルを使ってパリロンシャン競馬場のコースも経験できる1か月半の滞在です。フォワ賞の週に現地入りし、指揮を執る大久保調教師は「フランスに輸送してからの状態が良かったので、フォワ賞にもとてもいい状態で出走できました」と、すっかり環境に慣れたことを教えてくれました。

▲シャンティイで調整するディープボンド

▲ディープボンドが使用していたシャンティイ調教場のダート

▲シャンティイで調整するディープボンド(右)とエントシャイデン(左)

▲エントシャイデン

追い切りはどちらも9月29日の水曜。クロノジェネシスには新コンビを組むオイシン・マーフィー騎手が騎乗。ディープボンドは当初、フォワ賞で勝利に導いたクリスチャン・デムーロ騎手が騎乗予定でしたが、凱旋門賞で地元ルジェ厩舎のラービアーに騎乗することになったため、追い切り、レースともにミカエル・バルザローナ騎手にスイッチすることになりました。

▲マーフィー騎手

▲バルザローナ騎手

追い切り当日。エーグルの芝周回コースにバルザローナ騎手を背にしたディープボンドが登場。鞍上は6ハロン地点からスタートし、ラスト1ハロンを伸ばして感触を確かめました。「初めて乗りましたが、非常に状態はいいと思います。追っての反応やフォームも良く、ソフトな馬場も合いそうだと感じました」とバルザローナ騎手は好感触でした。大久保調教師は「日本ではレースまでに2週間というのはあまりないですが、出来落ちもなく、前回と同じくらいの状態」と好調キープを強調していました。

▲追い切りを行ったディープボンド

直後に続いたエントシャイデンは馬なりで4ハロンの追い切り。「いつも調教でいい動きをする馬ですが、今回は特にいい状態です」と坂井瑠星騎手。前哨戦のパン賞は5着でしたが、凱旋門賞と同日に行われるフォレ賞に向けて調子を上げてきました。

▲追い切りを行ったエントシャイデン

その1時間後、マーフィー騎手が騎乗したイカットが同じエーグル調教場の芝周回コースに姿を現しました。単層で約1500メートルの追い切り。ラスト1ハロンはやや強めに覆われました。

▲追い切りを行ったイカット

そして、マーフィー騎手がクロノジェネシスに乗り替わり、芝周回コースへ。イカットと同様に、約1500メートル地点からスピードを上げ、ラスト1ハロンでさらに加速しました。「とてもいい動きで、順調にきていると思います。日本からの輸送後も馬体は維持できています。今日の馬場はソフトでしたが、しっかりと走ることができていました」。マーフィー騎手は初コンタクトに好感触を得たようでした。斉藤崇調教師は「とてもいい動きだったと思います。初めての環境でしたけど、いい走りができていたんじゃないかと思います」と安堵の表情でした。
この日、調教場に集まった英仏のメディアは約20人。凱旋門賞馬バゴを父に持つ日本の最強馬の一頭に前哨戦覇者という組み合わせに高い注目度がうかがえました。

▲追い切りを行ったクロノジェネシス

追い切りが終わると、フランスギャロ主催のZOOMによるプレスカンファレンスが行われました。ラインアップはディープボンドの大久保調教師、ラービアーのルジェ調教師、クロノジェネシスの斉藤崇調教師、そしてスノーフォール、ラブ、ブルームと3頭出しとなるエイダン・オブライエン調教師の4人。欧州の名トレーナー2人に日本の2陣営と、ここでも注目度の高さを感じました。

大久保調教師の会見では45人がログイン。凱旋門賞は日本の悲願と世界で周知されていますが、改めて問われた大久保調教師は「(もし勝てば)たぶん大騒ぎになると思います。今まで日本の一番の馬が挑戦してきて2着まではあるけど、勝ったことがずっとなくて、日本の競馬の悲願になっているんです。それが自分の手で実現できたらこんなにうれしいことはないですね」と、穏やかに闘志を燃やしました。

▲オンラインで会見した大久保調教師

クロノジェネシスの斉藤崇調教師の会見でログインしたのは36人。凱旋門賞は3か月以上の休み明けで勝った馬は1965年のシーバードまでさかのぼりますが、その点は地元メディアも気になるようで話題に上りました。「間隔を詰めて使うと良くない馬だとすごく感じていたので、なるべく2、3か月に1回でずっと使ってきました。今回に関しても前走が6月の終わりに走ってから3か月ですけども、彼女にとって普通のことだと思いますし、前哨戦を使わないとか、間隔が空いているとかは気にしなくていいのかなと思います。なるべくレースに出る回数を少なく、と思って使っています」と斉藤崇調教師。これまで間隔を空けながら実績を積み上げ、G1を4勝。日本の代表の座に上り詰めたスタイルで世界の頂を目指すことを発信しました。

▲オンライン会見に出席した斉藤崇調教師(中)

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