橋本樹理の凱旋門賞取材記 Vol.2

2021/10/16

カテゴリ:馬のはなし / 色々なはなし / 人のはなし / Pacallaオリジナル

追い切り翌日の木曜にはメンバーと枠順が確定。仏、英、愛、独、日本の5か国から15頭が名を連ね、クロノジェネシスは14番枠、ディープボンドは内寄りの5番枠、武豊騎手が騎乗するブルームは7番枠から栄冠を狙います。

週中は晴れの日が多かったのですが、例年と同様に今年も週末にかけて下り坂。金曜から本格的に雨が落ちてきました。凱旋門賞が行われる週末は“Arc Weekend”(アークウィークエンド)と呼ばれ、土曜にG1が3レース、日曜にはG1が7レース行われます。

土曜は夕方からの雨予報。レース中に雨がちらつくことはありましたが、競馬が行われている間はそれほどの降雨ではありませんでした。午前10時の時点で馬場の硬度を示すペネトロメーターは3・9。馬場状態はTRES SOUPLEで、日本でいうところの重馬場です。

凱旋門賞前日のメーンは芝4000メートルのG1、カドラン賞。2018~2020年のアスコット開催・英ゴールドC(芝3990メートル)を3連覇した長距離界のスターホース、ストラディバリウスが注目を集めましたが、勝ったのはトゥルーシャン。中団追走から、2着のストラディバリウスに4馬身半もの差をつけて突き抜け、世代交代をアピールしました。「ストラディバリウスを負かせると思っていたし、自信もあった。この馬場が合っていたようで、スムーズに運んですごく良く反応してくれた」。手綱を執ったジェームズ・ドイル騎手はこの日3勝の固め勝ちで満面の笑み。トゥルーシャンは英国調教馬ですが、生まれはフランス。馬場の巧拙でも分がありました。

▲カドラン賞を圧勝したトゥルーシャン

▲カドラン賞を制したドイル騎手は笑顔

牝馬限定の長距離G1・ロワイヤリュー賞(芝2800メートル)にはノースヒルズの前田幸治氏がイギリスで所有するビリーヴインラブ(牝4歳、ヴェリアン厩舎)が出走。道中は中団やや後方で脚をため、直線で一気に爆発。ラスト1ハロンからは逃げたデットーリ騎手騎乗のラヴィングドリームとのマッチレースになりましたが、ゴール前でわずかに前に出られ、短クビ差という非常に惜しい2着でした。「素晴らしいレースをしてくれたが、わずかな差だけに嬉しいのと残念なのと複雑な気持ち。勝ち馬とは3キロの差もあった」とヴェリアン調教師。勝ったラヴィングドリームが56キロだったのに対し、ラヴィングドリームは59キロ。能力の高さはしっかりと示しました。

▲ロワイヤリュー賞で2着だったビリーヴインラブ(奥)

▲ロワイヤリュー賞で惜しくも2着だったビリーヴインラブ

土曜のレース終了後、内から17メートルの位置に置かれていた仮柵を撤去。凱旋門賞当日は幅の長いグリーンベルトが出現します。特に、内から12メートルは7月15日から使用しておらず、しっかり保護していたということでしたが、土曜のマイルG2、ダニエルウィルデンシュタイン賞の勝ちタイムが1分41秒72という時計のかかるコンディション。この日の夕方からまとまった雨が降るということで、これ以上の馬場の悪化は避けられず、グリーンベルトが出現してもタフなレースとなるのは間違いなさそうと憂慮していたところにニュースが飛び込んできました。
デットーリ騎手騎乗のラブが土曜の午後に発熱したため、出走を取消。凱旋門賞は14頭で覇を争うことになりました。

そして、迎えた10月3日。前日の夕方から雨は降り続き、朝になっても土砂降り。お昼ごろに雨は上がり、晴れ間が差した時間帯もありましたが、午前10時発表のペネトロメーターは前日より0・3増えて4・2。24時間の降雨量は23ミリで、馬場状態はCOLLANTになりました。JRA基準で重に分類されますが、10区分で悪い方から3番目。芝コースで人の出入りがある所は水が浮いているような場所もありました。

凱旋門賞デーは9レースあり、1RからG1が7戦続けて行われます。凱旋門賞はその真ん中の4R。日本だとメーンは11Rに行われることが多いですが、凱旋門賞はあっという間に始まってしまう感覚があります。
今年は100回目という大きな区切りで、前日から至る所に100回を記念した装飾がありました。過去の勝ち馬99頭の勝負服のデザインでかたどったものが場内に置かれ、歴代優勝馬の写真でデザインされた「100」の数字のオブジェはフォトスポットとして人気を集めていました。
昨年はコロナ禍のため無観客で行われましたが、ワクチン接種が進んだ今年は有観客となりましたが、関係者も含めて全ての入場者が入り口でワクチンの接種証明となる衛生パスか陰性証明書を見せる必要がありました。


午後2時15分。いよいよ凱旋門賞デーの始まりです。
1Rの2歳牝馬によるG1、マルセルブーサック賞(芝1600メートル)はマーフィー騎手騎乗のゼリーが鮮やかに差し切り。フランスの名トレーナー、ファーブル調教師の管理馬です。勝ちタイムは1分42秒67。馬が後肢を蹴り上げるたびに芝の大きな塊が飛んでいく、タフなコンディションです。

▲1Rのマルセルブーサック賞を制したゼリーとマーフィー騎手

2Rのジャンリュックラガルデール賞(2歳、芝1400メートル)はエンジェルブルーがゴール前で差し切り、G1初制覇。鞍上のデットーリ騎手がファンの声援に応えてフライングディスマウントを披露すると、場内のテンションも高まってきました。


▲2Rのジャンリュックラガルデール賞を勝ったデットーリ騎手はフライングディスマウント

凱旋門賞直前の3RはアラビアンワールドC(3歳以上、芝2000メートル)。アラブによるG1です。こちらはオガールラルデュとレディプリンセスの追い比べ。このあと日本馬に騎乗するバルザローナ騎手とマーフィー騎手の白熱した叩き合いでしたが、バルザローナ騎手に軍配が上がりました。

3Rの表彰式終了後、恒例の凱旋門賞に騎乗するジョッキーの集合写真の撮影が行われます。今年は、直前で騎乗馬がなくなったペリエ騎手(ヴェルメイユ賞Ⅴのティオーナは道悪を嫌って回避)、デットーリ騎手も含めた過去の優勝ジョッキーも加わりました。イヴ・サンマルタン元騎手、フレディ・ヘッド元騎手(現調教師)、ティエリ・ジャルネ元騎手など豪華なメンバーが並ぶ粋な演出。日本でもこんなことができたら…と頭に思い描いてしまいました。

▲パドック内にあるウィナーズサークル

▲凱旋門賞に騎乗するジョッキーと過去の優勝ジョッキー

凱旋門賞出走馬がパドックを周回し、14人のジョッキーが騎乗。一番印象的だったのは武豊騎手がブルームに乗る際、エイダン・オブライエン調教師に足を上げてもらっていたこと。日本人として誇らしく感じました。日本馬2頭を含めて全馬がスムーズに馬場入りし、いよいよ決戦の時です。

▲パドックでエイダン・オブライエン調教師に足を上げてもらう武豊騎手

▲パドックを周回するクロノジェネシス

▲パドックを周回するディープボンド

▲気合十分に馬場入りしたクロノジェネシス

▲馬場入りしたブルームの武豊騎手はスタンドを見上げる

▲馬場入りするディープボンド

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