重賞制覇レポート『ディープボンド』村田牧場編(阪神大賞典)

2021/04/15

カテゴリ:馬のはなし / 色々なはなし / Pacallaオリジナル

今回も重賞レポートピンチヒッターとして、望田 潤が担当させていただきます。

村田牧場の村田康彰さんとは旧知の仲ということで、通常の重賞制覇レポートとは違う、対話形式の取材、記事にさせていただいております。

また、前回(京都新聞杯)と同じディープボンドということで、ディープボンドの話に限らず、村田牧場さん全体の話をお伺いしたいと思います。どうしても私の専門の血統の話中心になってしまいますがご了承ください。

読者の皆様、よろしくお願いします

 

 

望:ディープボンドの阪神大賞典優勝おめでとうございます。京都新聞杯につづく二つ目の重賞タイトルですね。今回は2着に5馬身差をつける圧勝で、天皇賞・春でもかなり注目されることになりそうですが。

村:「ありがとうございます。今回も、コロナ禍ということで牧場からの応援になりました。京都新聞杯のときは格上げ挑戦でしたが、今回は重賞勝ち馬として3番人気で臨んだレース。結果、強い内容で勝ってくれました。プラス10kgでの出走も馬体がさらにパワーアップしたように見受けられましたし、重馬場になっても力強く伸びて後続を引き離した姿からは、彼の成長を感じました。京都競馬場の改修の関係で、今年の天皇賞・春は阪神大賞典と同じ阪神競馬場で開催されます。今回の内容ならば、プラス200Mの長距離戦になっても期待したいです。」

 

 

―ゼフィランサス(ディープボンドの母)の産駒は、1歳は父キタサンブラックの牝、当歳は父ドゥラメンテの牡ですね。産駒の出来などはどうでしょうか?

「ゼフィランサスの2020は父キタサンブラックの牝馬で、現在はローレルクラブさんにお世話になって同クラブから一口募集中です。母ゼフィランサスは父似の馬体に産むことが多く、この1歳牝馬も父キタサンブラックに似て馬格があります。牝系由来の緩さがありますが、骨格の成長が比較的早いのでデビューはそれほど遅くならないと見ています。気性的にどっしりした面がある一方で、活気があってキツい面もあるのはモガミヒメ牝系らしい気性ですし、半兄ディープボンドも1歳時はそういう気性でした。

今年生まれた当歳牡馬のゼフィランサスの2021(父ドゥラメンテ)も好馬体で、当場の当歳世代のなかでもトップクラスの出来です。骨格がしっかりとしていて、やや脚長に見せる馬体は父ドゥラメンテ譲りだと思います。ディープボンドの活躍や人気種牡馬ドゥラメンテの牡馬ということもあり、すでに多くの方々にご注目いただいてます。」

【ゼフィランサスの2020 牝 父キタサンブラック 1月30日生】
【ゼフィランサスの2021 牡 父ドゥラメンテ 1月16日生】

 


―そして大阪杯ではモズベッロが、並み居るG1ホースたちを相手に2着に食い込みました。返し馬で全くノメっていなかったので、宝塚記念ぐらい走りそうな予感はしたのですが、これもキズナと同じディープインパクトとストームキャットの組み合わせですね。ストームキャット使いの村田さんとしては会心作といえるのでは。

「まあ、ストームキャットStorm Catの血は好きなんですけど、「ストームキャット使い」というのは要らないです(笑)

モズベッロに関しては、昨年の宝塚記念が3着になったときから重馬場を苦にしないタイプだと思っていました。父ディープブリランテは、ディープ産駒らしいしなやかさに加えて力強さも兼ね備えた馬体をしています。彼の産駒は、モズベッロのように重馬場で好成績を上げる印象がありますし、おそらく彼のパワーが産駒に伝わるのでしょう。先日、大阪杯後に調教師の先生とお話しする機会があったのですが、モズベッロの馬体が最近になってさらに幅が出てきたと仰っていました。そのパワーアップした馬体が、今回の重馬場でも好走につながった要因の一つなのかもしれません。

モズベッロの血統は、ディープインパクト×ストームキャット牝馬という成功配合の派生形です。ストームキャット牝馬は簡単には手に入らないし、ディープインパクトを種付するとなると高額の種付料が必要になります。そこで、当場が種牡馬シンジケートに参加しているディープの息子ディープブリランテと、ストームキャットのひ孫にあたるハーランズルビーとの配合を試みたわけです。結果としては大成功でした。

望田さんのほうが詳しいと思いますが、ディープインパクトの母父アルザオAlzaoとストームキャットは互いにノーザンダンサーNorthern Dancerの血を持つほかサーゲイロードSir Gaylord≒セクレタリアトSecretariatもあるなど、その血統的な親和性からアルザオ≒ストームキャットというニアリークロスが成り立つ関係にあります。馬体的にも、筋肉量が豊富で丸みを帯びた馬体のストームキャットのような体質に対して、しなやかで素軽い馬体のディープインパクトとの組み合わせは、剛と柔のバランスという意味では絶妙なのだと思います。

ストームキャットという血は素軽いスピード、力強いスピードどちらのスピードも伝えることができる血脈です。そのため、芝・ダートいずれのスピード競馬にも適性が高い。実際、ストームキャットの血を引くロードカナロアやキズナは種牡馬として主に芝路線で活躍馬を出していますし、ヘニーヒューズはダートのチャンピオンサイアーになっています。早いタイムで決着する日本の競馬においては、非常にマッチする血脈なのだと思います。」

 

 

―ハーランズルビー(モズベッロの母)の1歳は父ドゥラメンテの牝で、当歳は父ディープブリランテの牝なのでモズベッロの全妹になりますね。ディープブリランテ産駒は牝もよく走るので楽しみですね。

「ハーランズルビーの2020については、ターファイトクラブさんに提供していて一口募集中です。やや脚長に見せるドゥラメンテ産駒らしい馬体ですが、父よりは素軽い作りをしていて、半兄モズベッロのように芝に適性がありそうです。ドゥラメンテのような超良血の種牡馬は、牡駒のみならず牝駒でも多くの活躍馬を出す傾向にあります。実際、本馬と同じドゥラメンテ×Harlan’s Holiday牝馬の配合から生まれたアヴェラーレ(牝3歳)がオープン馬として活躍していることからも、将来が楽しみな一頭です。

ハーランズルビーの2021については、モズベッロが日経新春杯を制した後に、全きょうだいを生産しようという流れになって配合した馬です。品のある馬体の牝馬で、全兄の活躍から競走馬としても非常に楽しみですが、ディープブリランテの血統には質の高い血が多く含まれていますから、そういう血を次世代に向けて取り込んだことで将来の繁殖牝馬としても期待できます。」

【ハーランズルビーの2020 牝 父ドゥラメンテ 2月2日生】

 

 

―そしてソリストサンダーも今や堂々のオープン馬ですね。ディープブリランテの代表産駒とトビーズコーナーの代表産駒を出しているのは素晴らしいと思います。それと村田さんのところは、ソリストサンダーやラインルーフなど、スペシャルウィークの肌もよく走ってるイメージがあります。

「先日、ソリストサンダーが昨夏に過ごした育成場の社長と話す機会があったのですが、以前に比べて随分とうるさくなっていたそうです。ただ、そこから本格化したと。実際、北海道シリーズで3勝目を挙げたあたりから、競馬の内容がどんどん良くなっていきました。今年はオープン勝ちもして、重賞制覇まで手が届くところまで来ているので、馬主様のためになんとか重賞を勝ってほしいですね。

ソリストサンダーの父トビーズコーナーは、ダンジグDanzigやインリアリティIn Reality、カロCaroやダマスカスDamascusといった質の高い血脈を複数持つ種牡馬なのですが、自身がアウトブリード配合で近い世代にクロスを持ちません。こういう種牡馬に対しては、5代内に複数クロスを持つか、自身の特徴をストレートに伝えるタイプの繁殖牝馬が合うと思っています。ソリストサンダーの母ラヴソースウィートは、自身がヘイルトゥリーズンHali to Reason4×4に加えてニジンスキーNijinsky4×4も持つ血統なので、トビーズコーナーのような血統は合うと思って配合しました。

トビーズコーナーはスラリとして体高のある馬体をしていますが、ラヴソースウィートのほうは彼女の父スペシャルウィークとは異なり、肉付きの良いコロンとした馬体です。馬体面からも合いそうな配合でしたし、実際に生まれたソリストサンダーは期待通りの好馬体でした。

【ソリストサンダー(1歳時)】

ソリストサンダーの母父スペシャルウィークに関しては、当場がスペシャルウィークの種牡馬シンジケートに参加していて、その関係で当場にはスペシャルウィークを父に持つ繁殖牝馬が多かったんです。

スペシャルウィークは、シラオキに遡る日本の名牝系出身です。ディープボンドなどが属するモガミヒメの牝系も、遡れば名牝クリヒデに辿り着きます。最近は海外の血が重宝される傾向にありますが、当場においては「日本在来の血統でも良いものは良い」という社風のようなものがあります。

スペシャルウィークは父が名種牡馬サンデーサイレンスであることに加えて、母方にはマルゼンスキーやセントクレスピン、さらにはヒンドスタンやプリメロなど質の高い血脈がずらりと並んでいます。こういう質の高い血を母方に多く抱えている種牡馬は、母父として成功することが多いですよね。

当場からもソリストサンダーとラインルーフというオープン馬を出しましたが、やはり母父スペシャルウィークというのが効いてると思います。最近では、スペシャルウィーク産駒の名牝シーザリオが良い例です。彼女の息子たちは競走馬としてG1を勝つだけでなく、種牡馬としてもエピファネイアがデアリングタクトを、リオンディーズもピンクカメハメハを出すなど成功しています。この流れからすると、サートゥルナーリアもほぼ間違いなく種牡馬として成功するでしょうね。」

 

 

―3歳では2戦2勝のノースブリッジ(もくしっ子一期生でもある)が楽しみですね。爪の不安があったそうで、青葉賞からダービーをめざすとか。

「もくしプロジェクトに参加することになってから、プロジェクトを盛り上げるためにも「一期生から勝ち馬になるような産駒を対象馬にしなければ」と勝手に使命感に駆られて参加していました(笑)結果、一期生のノースブリッジとフロムディスタンスがそれぞれJRAで勝ち上がってくれたのでホッとしています。
ノースブリッジのほうは葉牡丹賞を勝った後に挫石でしばらく出走を控えていますが、調教師の先生と先日話したところ、次走の青葉賞に向けては順調に来ているそうです。

【ノースブリッジ(1歳時)】

母アメージングムーンは1歳はドゥラメンテの牡、当歳はキズナの牝ですね。

1歳のアメージングムーンの2020(牡、父ドゥラメンテ)については、すでにセレクションセールに申込済です。実馬検査はこれからということになりますが、体高が152cmで馬体重は420kg(3月末時点)ほどあります。骨格がしっかりとした立派な馬体の持ち主ですし、放牧地では他馬を威嚇する仕草も見せるなど、ドゥラメンテ産駒らしい特徴を持った馬です。半兄ノースブリッジのようになんとかセレクションセールに合格して、多くの方々に評価していただきたい一頭です。

アメージングムーンの2021(牝、父キズナ)も楽しみです。特に同父、同牝系のディープボンドが京都新聞杯に加えて阪神大賞典も勝ちましたからね。牝馬ながらキズナ産駒らしいやや筋肉質の馬体である一方、小さな顔つきは2代父のディープっぽさも感じさせます。サンデーサイレンス3×4のインブリードを持った馬で、馬体の雰囲気からも程よい早熟性を備えていると見ています。競走馬として大変楽しみですが、将来の繁殖という意味でも価値のある血統なので、牧場に残す方向で調整するかもしれません。」

【アメージングムーンの2020 牡 父ドゥラメンテ 1月11日生】

 

 

―取材に際して当歳の名簿を見ていましたが、メリオールの2021(牝、父シルバーステート)も村田さんらしい好配合だと思いました。シルバーステートにはキングマンボやヌレイエフ≒サドラーズウェルズの血を合わせたくなります。シルバーステートは底を見せずに引退したディープインパクト産駒で、現2歳が初年度産駒となりますが、馬産地でも人気を博していますね。

「シルバーステートは、当場が役員牧場を務める優駿スタリオンに繫養されている期待の種牡馬です。胴に厚みがあるシルエットは、父ディープインパクトよりも母父シルヴァーホークSilver Hawkの特徴が出ているのかもしれません。現役時のレースを見てもスピードの絶対値が抜きん出ていたので、そのスピードがうまく産駒に伝わってほしいですね。

そして、メリオールの2021の配合を褒めていただいてありがとうございます(笑)。シルバーステートがディープ系種牡馬なので、この系統と相性の良いフレンチデピュティやストームキャットの血を持つメリオールは合うと思いました。

また、望田さんのご指摘通り、私もシルバーステートにキングマンボKingmamboの血を持つ繁殖は合うと思っています。シルバーステートの母方にはロベルトRobertoやニニスキNiniskiといった血がありますが、これらの血がメリオールの持つキングマンボと脈絡すると考えています。具体的にはキングマンボがミスタープロスペクターMr.ProspectorやヌレイエフNureyevの血を持っていて、この2つの血脈がロベルトRobertoやニニスキNiniskiと相性が良い。結果として、今年生まれた当歳は牝馬とはいえ華奢な感じもなく、生まれた当初から骨格がしっかりしています。このあたりは、当場が飼養管理の改善に取り組んできた成果も出ている印象です。」

 


―優駿スタリオンといえば、今年から新供用のミスターメロディには特に注目しているんですが、村田さんは今年種付されましたか?

「世界的に成功しているスキャットダディScat Daddyの直仔ということで、馬産地でも注目度の高かったミスターメロディを優駿スタリオンで繋養できることは非常に光栄です。ミスターメロディに関して言えば、現役時に芝・ダートそれぞれで勝ち鞍があるように、種牡馬としても配合次第で芝、ダートどちらからも勝ち馬を出せると予想しています。

もちろん、当場も初年度から種付しています。G3ファンタジーS2着の実績があるメジェルダ(父ディープインパクト)に種付して、すでに受胎を確認済です。メジェルダは初年度産駒のメディーヴァル(牡、父アジアエクスプレス)がJRAで勝ち上がっていますが、このメディーヴァルの配合をモデルにしました。また、世代を遡って調べると、血統的にはミスターメロディとメジェルダの母メリュジーヌによるミスターメロディ≒メリュジーヌのニアリークロスと見なせるほど、2頭の血統的な親和性が高いのがわかります。2頭とも現役時は短距離で結果を残した馬ですが、そこにディープインパクトの血を挟むことで、スピードやパワーに偏り過ぎない配合にしたつもりです。来年どんな産駒が生まれるか今から楽しみです。」

 

取材を終えて

2016年~2021年4月までJRA出走500回以上の生産者の「1走当たり獲得賞金額」をTARGETで出してみると、並み居る大牧場・中堅牧場のなかで、村田牧場はノーザンファーム、ケイアイファーム、ヤナガワ牧場に次ぐ4位でした(1走当たり218万円)。この数字ひとつとっても、村田牧場の最近の大活躍ぶりが実感できます。その成功につながっている血統的な秘訣や蓄積を、今回も余すことなく語ってくださり感謝の言葉もありません。春のG1でも村田牧場に大いに期待したいですね!(望田)

 

【村田牧場1歳分場の風景】

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