重賞制覇レポート『カツジ』岡田スタッド編(スワンS)
2020/11/19
カテゴリ:馬のはなし / 色々なはなし / 人のはなし / Pacallaオリジナル
デアリングタクトで牝馬3冠を成し遂げた岡田スタッドグループの勢いが止まりません。生産馬のカツジがスワンSをV。単勝1・4倍のデアリングタクトが秋華賞を制した2週間後、今度は単勝143・7倍の11番人気が大波乱を演じました。
勝ち星から2年半以上も遠ざかり、人気を落としていましたが、新たにコンビを組んだ岩田康騎手は手応えをつかんでいたようです。
「この馬はG1馬だよ。この馬がこんな成績でいるのはおかしい」
追い切りでコンタクトを取った鞍上はそう話したといいます。
驚いたのはその大胆なレースぶりでした。これまでの脚をためるスタイルから一転、馬なりで先行すると、3コーナー手前ではハナへ。直線ではセーフティリードを取り、そのまま1馬身差をつけて押し切りました。前半3ハロンは35秒5と、1400メートルにしては遅い流れ。レースの流れを読み切った鞍上の手腕が光りました。
「スタートしてポンと2番手にいる。ペースが遅いから行っちゃえって。やっぱりあの辺が相当熟練で、優秀なジョッキーだよね。前半3ハロンが35秒台だったから、あれ?って思った。このレース、1400メートルだぞ?って。これ勝つんじゃないのかなくらいに思ったよ、3ハロンで」
岡田スタッドグループ代表の岡田牧雄さんは笑顔を浮かべながら、復活に導いた岩田康騎手をたたえました。
この勝利は改修前の京都で最後の重賞勝利でもあり、牧雄さんは感慨深い表情を見せました。
「京都は競馬場としてのイメージがすごくいいんだよ。舞妓さんが表彰式に出るなんて日本の競馬場という感じ。外国から見に来た人も感動するって言うもんね。だから、2年半も京都で競馬を見られないのはすごく寂しい」
生産馬のスマートレイアーやプラチナムバレットがタイトルを手にした淀。今年はデアリングタクトも牝馬3冠最終戦の秋華賞で快挙を達成しました。
カツジの全妹となる父ディープインパクトの牝1歳(岡田スタッドグループのブログより)
カツジの母メリッサは現役時代、牧雄さんの所有馬。レースを重ねながら地力強化を図り、勝ち星を積み重ねました。重賞初制覇は6歳夏の北九州記念。33戦目の遅咲きでした。繁殖2年目からはディープインパクトと5年連続で交配し、2番子が京成杯AH、関谷記念を制したミッキーグローリー、そして4番子がカツジという名繁殖馬です。血統背景からカツジへの期待の高さもがうかがえます。
「いいお母さんだよな。ニュージーランドTを勝った時はかなり期待したんだけど、NHKマイルCは出負けして内々で残念な競馬。一昨年のマイルCSの時に上がり最速で4着に来た時、やっぱりこの馬は走る馬なんだよなって思った。そのあと、追い切り時計はいいのに結果が伴わないレースが続いていたけど、どこかで復活するだろうと思っていた。そのくせ、馬券を買っていなかった自分が悔しいけど(笑い)」
自虐的な言葉を口にしながらも牧雄さんの表情には喜びがあふれていました。
カツジの母であるメリッサ(岡田スタッドグループのブログより)
デビュー時は472キロでしたが、スワンS出走時は500キロ。30キロ近く馬体を増やしてきました。「それくらい増える馬って強くなるはずなんだ。もっと増えてもいいと思っているくらい。全兄弟のミッキーグローリーは550キロあったから。脚元が弱くて引退しちゃったけど、無事だったらもっと使えていた。カツジは早くから活躍したけど、ミッキーグローリーがそうだったように、この牝系はおくてなんだ。だから、これからもまだ期待しているし、マイルCSも期待している」。牧雄さんはこれまで悔しい思いをしてきたG1の舞台に思いを馳せます。
オーナーであるカナヤマホールディングスの会長、金山政信氏のお世話になった方から名付けられたカツジ。暗いトンネルに入った時期もありましたが、スワンSをきっかけに再び加速し始めました。天国にいる“カツジ”さんへ、悲願のG1タイトルを届けるために。