武蔵野美術大学 UMARTs 2018 ~馬をテーマにした教育プログラム~

2018/08/16

カテゴリ:馬のはなし / 色々なはなし / 人のはなし / Pacallaオリジナル

読者の皆さん、こんにちは。
Pacalla編集部です。

『UMARTs』という美術展をご存じでしょうか?
UMARTsは武蔵野美術大学 芸術文化学科の学生がプロデュースを手がける、馬をテーマにした若手作家の作品展示やワークショップを行うアートプロジェクトです。
今年で第6回目を迎えるこのプロジェクトは、現在、JRA競馬博物館(東京競馬場)にて開催されています。

実は、当初わたしたち編集部は、今年開催されるUMARTs 2018のプロジェクトをJRA競馬博物館のイベントのひとつとして紹介させていただこうと考えていました。

ところが実際にお話を伺うと、このアートプロジェクトは馬事文化財団と武蔵野美術大学の博学連携プログラム、体験型授業として、大学生の皆さんにも非常に意義のあるプロジェクトであることを知りました。

Pacallaが愛してやまない(!)『馬』をテーマに、たいへん興味深い学びの場が存在していることに嬉しさを覚え、また学生の皆さんの生き生きとした姿に刺激をいただき、今回は、このUMARTsプロジェクトがどんな教育プログラムなのかをご紹介させていただこうと思います。

 

プロジェクト型授業の一環として

馬と馬文化の魅力を美術展示とワークショップで伝える『UMARTsプロジェクト』は、武蔵野美術大学 芸術文化学科で美術館教育やアートマネジメントを教える、杉浦幸子教授のプロジェクト型授業の一環として行われています。

同学科では、年度初めに学生に向けて、教授たちが自分の担当するプロジェクト型授業のプレゼンを行い、参加学生を募る形をとっています。
1年生から大学院生まで参加を希望することができますが、今年のUMARTsプロジェクトへの参加者は全員1年生(全15名)だったそう。
毎年参加メンバーの年齢や関係性も違うので、プロジェクトの中身にも年度ごとに、想像できない変化があるのも面白いところです。

「芸術文化学科は、社会と芸術文化をつなぐプロフェッショナルになるための学びの場ですから、学生には“学芸員として”それぞれ担当作家と組んで、美術展を作り上げていく…という経験を絶対にしてほしいと思っています。
また、作家やアートに詳しい以上のことが、これからの学芸員には求められます。
学生はどうしても『アート』に目がいきがち。 コンテンツを支える運営面の仕事も理解していることが、実際に現場に出たときに大きな強みになるため、本プロジェクトでは学芸と運営両方の業務をしっかり経験してもらいます」(杉浦教授)

さらに、UMARTsプロジェクトに参加できるのは、基本的に一度だけ。
仕事ともサークルとも違う『大学の授業』だからこそ、ここを通過地点として、UMARTsをやり切ったら、まったく別のものに挑戦するなど、どんどん外に出ていってほしいと杉浦教授は言います。

 

プロジェクト発足の経緯 ~なぜ馬だったのか?~

そもそも、なぜこのアートプロジェクトの作品テーマが『馬』になったのか。
杉浦教授に伺うと衝撃の答えが返ってきました。

「もともとわたしは大学で美術史を専攻していたのですが、就職活動を考え始めたとき、一般企業にはあまり興味が向きませんでした。
それで、就職雑誌の『特殊法人』のページを見ていたら、日本中央競馬会の求人を見つけました(笑)。
ちょうど、日本中央競馬会が総合職採用を始めて2年目というタイミングだったこともあり、これは何か新しいことができるのでは! と思って就職しました。
日本中央競馬会には4年ほど勤め、美術教育について勉強をするためにイギリスの大学院に留学。
その後は美術館に関わる仕事をずっとしていましたが、6年前にムサビにきたときに、日本中央競馬会時代の上司である畑山光伸氏が、ちょうど馬事文化財団の理事長になられて。
これは一緒に何か新しいことができるのではと考えました」と杉浦教授。

『競馬博物館』という名前から、いわゆる古い競馬の道具や歴史などが展示されているのをイメージしがちですが、畑山理事長は「競馬ファンが競馬に来たついでに寄って、1回来たらもう来ない博物館ではなく、現代アートやワークショップを取り入れて競馬博物館を活性化させたい」という熱い思いを持っていたそうです。
そこにUMARTsプロジェクトの構想がピッタリとはまりました。

もともと美術史を専攻していた杉浦教授が、たまたま日本中央競馬会と出会い、それが今や6回も続く人気のアートプロジェクトに成長し、学生たちにも大きな影響を与えていることは、単なる偶然とは言いえないような気がします。

 

『UMARTs 2018 うまからうまれるアート展』のみどころ

さて、現在開催中の『UMARTs 2018 うまからうまれるアート展』に話を戻しましょう。
今年の見どころについて、前述のいわゆる『運営面』の仕事に自らチャレンジした、広報担当の小林果奈さんにお話を伺いました。

「目玉はやはり、武蔵野美術大学にゆかりのある若手のアーティストが馬にインスピレーションを受けて制作した作品の展示です。
特別出品の中西瑛理香さんの作品を除き、今回展示している作品は、昨年UMARTs2017で制作されたものです。
作家さんが本物の馬と触れ合う機会を設けるなど、実際に『馬』を感じていただいた上で制作していただいています。
その作品を再度お預かりし、UMARTs2018の新しいメンバーがひとり一人、作家さんとタッグを組んで、二人三脚で準備を進めてきました」(小林さん)

アーティストは基本的に、他学科の教授の推薦から決まるため、クオリティーが高く、非常に幅の広い作家の作品が並びます。
また6回と回を重ねたことによって、UMARTsプロジェクトそのものの認知度も上がっており、作家自身から出品したいと申し出があるなど、プロジェクト全体の成長も感じられます。

ここで、いくつかPacalla編集部お気に入りの作品をご紹介しましょう。

 

夜明けの使者/橘つづり夜明けの使者/橘 つづり
⇒馬の博物館で、馬をモチーフにした植木鉢の中にたくさんの花が咲いているのを見たところからインスピレーションを受けた作品。この馬は希望が込められたガーベラと夜明けを運んでいる。

cognized (horse)/赤羽 佑樹cognized (horse)/赤羽 佑樹
⇒想像している馬のイメージは、実際のそれとどのくらいの差があるのか? 小学生に馬の写真を見て絵を描いてもらい、その絵を見て写真を加工したという作品。

乗/セン ブンヒン乗/セン ブンヒン
⇒乗馬の鞍をモチーフにして、スツールに再構築したという作品。 底に絶妙なカーブをつけることで、座った時に、馬の背に乗ったときのような揺れを感じることができる。

 

正統派の絵画から、実験的な要素があるもの、目で楽しむだけでなく体全体をつかって感じることができるもの。
日本画・油絵・版画・彫刻・ガラス・金工・木工・テキスタイル・陶磁・写真といった10ジャンル、全18作品が展示されています。

「アーティストの作品展示のほかに、8月4・5日には『つくってウマれる!』をテーマにした、勝負服カラーのミサンガ・張り子うまのお守り・こまくらべの馬を作るワークショップを開催しました。
また、今年度初の試みとして、国立音楽大学1年生の金山優羽さん作曲、UMARTs 2018メンバーの守時茉耶さん作詞のテーマソングも製作しました」(小林さん)

 

作って、つけて、応援しよう!ミサンガづくり作って、つけて、応援しよう!ミサンガづくり

つくってトコトコ! UMARTs こまくらべつくってトコトコ! UMARTs こまくらべ

願いをこめて~うまもり&張り子うま~願いをこめて~うまもり&張り子うま~

 

ワークショップは現在終了していますが、当日は子どもから大人までたくさんの人が訪れており、小さなお子さんが楽しそうにこまくらべをしている様子や、レース開催日にも競馬場内でやってほしいといった声が聞こえてきました。

また、ワークショップについても、今回の開催が真夏に行われ、競馬博物館の前にある公園の噴水にたくさんの子どもたちが集まること。
博物館に無料で入場でき、真夏の暑さから博物館に避難してくる子どもたちが多いであろうこと。
これらの条件を踏まえて、彼らにどのようなワークショップが受け入れられるのか、学生たちが企画を出し合ってデザインしたものだそうです。

「4月に大学に入学したばかりで、どんなところに向けて広報活動をしたらいいのもわからなければ、宣伝ツールの制作をするためのIllustratorの使い方もわからない…。
それどころか、まだ大学生活にも慣れない1年生15名でしたが、UMARTs 2018の成功を目指して走ってきました。
開催開始から数日が経ち、お客様の反応に胸をなでおろしています。
本当に見ごたえのある作品ばかりですので、まずは競馬場に訪れた方に気軽に立ち寄っていただき、『馬』をきっかけに、アートに触れていただけたら嬉しいです」と小林さん。

UMARTsの取材を通して、素晴らしい馬アート作品に出会えたことはもちろん、Pacalla編集部にとっては未知の領域であるアートマネジメントの世界に触れることができ、本当に充実した時間を過ごすことができました。
(まさか、馬を通じて、農学系大学より先に美術大学と交流させていただくことになるとは…!)

『UMARTs 2018うまからうまれるアート展』は9月1日(土)まで開催しています。
夏休み、東京競馬場にお越しの際は、JRA競馬博物館にふらっと寄ってみませんか?

 

【取材協力】

武蔵野美術大学 杉浦幸子教授杉浦幸子
武蔵野美術大学 芸術文化学科 教授。’90年お茶の水女子大学文教育学部哲学科美学美術史専攻卒業。’95年ウェールズ大学院教育学部修士課程修了。ギャラリーエデュケイター、プロジェクトデザイナー。

武蔵野美術大学 小林果奈小林果奈
武蔵野美術大学 芸術文化学科 1年(2018年度入学)。UMARTs 2018 広報担当のほか、アーティストのマネジメントを担当。高校では音楽科に通い、声楽を専攻。

 

【開催情報】

『UMARTs 2018 うまからうまれるアート展』
展覧会期:2018 年 8 月 1 日(水) – 9 月 1 日(土)
場 所:JRA 競馬博物館
休館日:月曜日・火曜日
入館料:無料
開館時間:10:00-17:00(土・日曜日)、10:00-16:00(その他の平日)
主 催:公益財団法人馬事文化財団 JRA 競馬博物館
〒183-8550 東京都府中市日吉町 1-1 東京競馬場内
URL:http://www.bajibunka.jrao.ne.jp/keiba/
Facebook:https://www.facebook.com/umarts2018/
Instagram:https://www.instagram.com/umarts2018/
Twitter:@Ts2018Umar
共 催:武蔵野美術大学 芸術文化学科
※ワークショップの開催は終了しておりますのでご了承ください。

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