Pacalla、血統評論家と牧場をつないでみた(後編)
2018/06/07
カテゴリ:たのしい広告
読者の皆さん、こんにちは。
Pacalla編集部です!
『Pacalla、血統評論家と牧場をつないでみた(後編)』では、いよいよ血統評論家の望田潤さんとトウカイテイオー号、サイレンススズカ号、スズカフェニックス号等の歴史に残るG1ホースを育成してきた『二風谷ファーム』専務、稲原稔久さんの対談をお届けします。
》Pacalla、血統評論家と牧場をつないでみた(前編)はこちら
対談といっても、あまりかしこまるのはPacallaらしくないな…ということで、今回はPacallaをいつも応援してくださっている養老乃瀧・静内店でお酒を楽しみつつ、ざっくばらんにお話していただくことに!
<お二人のプロフィール>
【望田潤】血統評論家
日高大洋牧場での勤務経て、92年~02年まで競馬通信社編集部に在籍。
その後はフリーランスとなり、多数の競馬メディアで執筆、多くの生産者や馬主の依頼を受け、配合診断などを行う。
【稲原稔久】二風谷ファーム 専務
牧場の次男として生まれる。静内農業高校馬術部主将を務め国体出場。
東京農業大学でも馬術部主将を務め全国団体3位。その後静内農業高校職員となり、母校の後輩たちを指導。在職時には数度インターハイ出場させる。現在、二風谷ファーム専務として生産、育成業務を行っている。
血統評論家の仕事について
稲原)望田さん、今日は貴重な機会をいただきましてありがとうございます。
前々から一度お会いしたいと思ってたんですけど、なかなかPacalla編集部が会わせてくれなくって(笑)。
望田さんが監修されている『パーフェクト種牡馬辞典』はいつも拝見させていただいております。
質問ばかりになってしまいそうですが、よろしくお願いします。
望田)こちらこそよろしくお願いします。
いつもは(メディアで)一方的に発信をすることが多いのですが、あんまり文章がうまくないのでね。
本当はこうやって面と向かい合ってお話するのが、一番言いたいことが伝わると思っているので。
稲原)さっそくで恐縮ですが、血統評論家のお仕事は基本的に馬主さんの依頼を受けることが多いんですか?
望田)馬主さんも生産者もいらっしゃいますよ。
『パーフェクト種牡馬辞典』を共著している栗山求が運営する『血統屋』でも仕事を請け負ってまして、そこ経由の依頼も多いです。
オーダーをメールや電話で受けて、さまざまな形の要望に応えられるようにしています。
競馬ファンに向けた一口馬主やPOGに関する情報発信もしています。
まあいろいろやっていますが、僕は生産者さんとのお仕事が多い方かもしれません。
稲原)血統だけで馬を購入される人もいるんですか?
望田)それはあまりありませんね。
血統は検討材料のうちのひとつですから、あとは実際に馬を見たり、他の人の意見を聞いたりして決める方が多いですよ。
稲原)生産者からの依頼はどんなものなんでしょう?
望田)牧場さんからの依頼で多いのは、やっぱり「この繁殖牝馬に何の種をつけたらいいか」という相談です。
もちろんその場合は、お母さんのほうを基軸にして配合を考えていきます。
母馬の写真や現役時のレース動画を見たり、産駒の出来や特徴を具体的に聞いたり。
あと牝が生まれたら後継として残したいとか、そういうのも生産者ならではのオーダーですよね。
生まれてからは、生産者やオーナーがその馬の配合のポイントをわかりやすくお客さんに説明できるように、キャッチコピーというか、言語化するお手伝いなんかもしていますよ。
「母父○○で、△△のクロスは重賞勝ち馬●●と同じ」とかね。
そういうセリのときのセールストークを、種牡馬辞典からヒントを得ているという話も聞きます。
稲原)キャッチコピー!なんだかアイドルみたいですね(笑)。
種牡馬候補を出していく時はどういう範囲で考えるんですか?種付け料の予算とかもありますよね。
望田)できるだけ条件をつけてもらうようにしています。
そのほうが考えやすいです。
予算はもちろんですが、例えば南関東のオーナーであれば、まずはダートのマイラーを意識して考えますよね。
望田潤が思う『配合論』
稲原)お仕事で静内に来られることはあるんですか?
望田)セリなどで来たりしますよ。
稲原)セリの名簿をみて、配合についてこれはよく考えられた配合だな、とか思うこともあるんですか?
望田)その配合が意図的なものなのか、偶然なのか、わからないときありますけど、例えば知り合いの生産者さんの馬を見て、その方の癖とか好みを感じることはありますね。「ああ、●●さんらしい配合やな」とか。
稲原)具体的に『ベター』と思う配合はありますか?
望田)例えば、最近人気の高いヘニーヒューズの話でいえば、母父クロフネとか、クロフネのお父さんのフレンチデピュティとか、その系統が合いやすいです。
面白いもので、血統をあまり気にしない生産者が、体形や体質で選んだ場合でも結果的にそういう(血統的に合った)配合になっていたりするんですよ。
稲原)なるほど~!確かにそういうのはありそうですね。
ちなみにクロフネ産駒のタイプ、傾向ってハッキリしていないと思うのですが、クロフネ産駒って二刀流ですよね?
ヘニーヒューズの子だとダート馬が多いと思うのですが。
望田)はい、クロフネの産駒は芝・ダート両方出ますが、ヘニーヒューズとクロフネ繁殖牝馬の組み合わせだと、両者のダート適性が伝わりやすいというふうに考えます。
稲原)でも、クロフネ自身は芝で勝っていますよね。
うちの牧場にもお父さんがクロフネの繁殖牝馬が2頭いますが、両方とも現役の時は芝でした。
サンデーサイレンスの血が入っている、入っていないでも違ってくるんでしょうけど。
ヘニーヒューズをつけるとダートに寄るのは不思議なんですよね。
望田)クロフネの繁殖にヘニーヒューズをつけた場合は、ヘニーヒューズとフレンチデピュティのダート適性が伝わりやすい、という考え方です。
これは配合を考える時にある程度計算が立ちます。
稲原)なるほど。あえてちょっと意地悪な質問をさせていただくと(笑)、ヘニーヒューズ(ダート)の子ども、アジアエクスプレスは芝で勝っていますよね。
そういう場合、ホントはダートで使えばもっと良かったってことなんでしょうか?
望田)馬って古馬になって競走馬として完成すると、体つきや体質も変わってくるじゃないですか。
アジアエクスプレスが芝でG1を勝った時はまだ2歳。
アジアエクスプレスも古馬になってからはダートを走っています。
アジアエクスプレスに限らず、若い時と古馬になってからでは適性が変わったりします。
稲原)本来はアジアエクスプレスもダート寄りの血統なんですね。
そういう風に考えていけば生産者もある程度計算して配合をしていけるのは大きいですね。
新たな『変化』をもたらす配合を考える
稲原)そうやってちゃんと計算をして配合をするっていう観点からいうと、芝2000~クラシックディスタンス(芝2400m)の繁殖牝馬にアジアエクスプレスをつけるのはナシでしょうか?
目指す先がわからないってことになりますかね?
望田)もちろんケースバイケースではありますけど、僕はアリだと思います。
例えば、ディープインパクト産駒のG1馬なんて、お母さんはスプリンターとかたくさんいます。
配合は足して2で割るような発想とは限らないので。
稲原)ケイアイノーテックのお母さんは代々ダートの血統ですけど、ディープインパクトをつけたら子ども(ケイアイノーテック)は芝のG1(NHKマイル)を勝ってますよね…。
あれ…ってことは、何をつけてもいいってこと⁈(笑)
望田)ディープインパクトみたいな牝馬に、ディープインパクトをつけても変化がないじゃないですか。
どっちにしても親とまったく同じ馬にはならないわけなので…。
稲原)ディープのような牝馬にディープをつけた場合の問題はなんでしょうか?
望田)体形も体質も。
そうすると馬に限らずですけど、良いところだけではなく、体が小さいとか、力が弱いといった弱点も遺伝しやすい。
それだったら、ディープとは全く違う、ダートとか短距離とかを走っていた牝馬につけて、全体的にはディープに似ているかもしれないけど、お尻は大きくて、ディープよりもしっかりしているとか、お母さんに似ているけど、体が柔らかいからより大きく走れるとか。
もちろん、ディープと全く同じ馬ができれば苦労しないんでしょうけど(笑)。
何か変化してしまうわけですから、『どう変えるか』を考えるのが配合を考えることやと思うんですね。
トウカイテイオーの血を残したい
稲原)そういえば、望田さんは牧場で働かれていたこともあるとお聞きしています。
いつ頃働いていたんですか?
望田)20年以上前ですね。競馬ブームで、日高も若い人が多くて活気がありましたよ。
稲原)そうですよね。とても活気があった。
うちの育成場にもトウカイテイオーがいて、夏はファンがたくさん押しかけて、観光牧場みたいでした(笑)。
そういう良い時代があって…。だからやっぱり、私としてはトウカイテイオーの種をつけて(産駒を)走らせたかったんだけど、なかなか難しくて。
望田)産駒のトウカイポイントやヤマニンシュクルはG1を勝ちましたね。
稲原)そうですね。
でもテイオーは母父になった時にすごくゆるい。
独特の感じがでるんですよ。
今、テイオーの子でトウカイオスカーっていう繁殖牝馬がうちにいまして、ドゥラメンテをつけています。
望田さんだったら何をつけるのが良いと思いますか?
望田)テイオーの血統は何がすごいって、母馬トウカイナチュラルがすごいんですよね。
産駒がほとんど走っている、すごいお母さん。
ただ、昨今の主流の血、サンデーサイレンスとかサドラーズウェルズとかデインヒルとかミスタープロスペクターとか、そういう血と脈絡するような血を持ってないので、そういう意味での配合の難しさはあります。
トウカイオスカーはオープンまで出世した馬だし、牝系も優秀なので、こちらのロベルトとかネヴァーベンドとかインリアリティといった血を狙った配合を考えたほうがいいでしょうね。
ロードカナロアが一番合う配合とは
稲原)ちょっと話は変わりますが、ここのところロードカナロア産駒が絶好調ですよね。
望田さんからみてロードカナロアにぴったりの配合ってありますか?
望田)一言でいうならば、ロードカナロアの子はみんな体質が柔いので、がっちりゴツゴツ系のパワー型の繁殖牝馬と合うと思っています。
二冠馬アーモンドアイもカナロア産駒ですが、お母さんはまさにゴツゴツ系のフサイチパンドラ。
これまではフサイチパンドラに似たようなパワー型のキングカメハメハをつけていて、ちょっとパワーに振れすぎたような馬が出ていましたよね。
稲原)ディープ系統の牝馬にカナロアはまずいですか?
望田)最初は良いと思っていたんですけどね。
カナロアもディープも同じような体質(細身で柔らかい)を伝えるので、牝馬だった場合に華奢になりすぎるかな…という傾向は見られます。
稲原)なるほど。
ちなみに、今、アーモンドアイがあれだけ走っているわけですけど、カナロアの子が海外に行った場合の適性はどうなんでしょうか?
望田)キングカメハメハの系統はオールラウンドです。
社台スタリオンの人と、「キングカメハメハは世界のどこにいってもリーディングを争うぐらい成功しただろう」と言ってますが、だから向こうの競馬に向いた馬も出ると思いますよ。
生産者がすべきでない配合の仕方
稲原)最後に、生産者がいちばんしてはいけないと思う配合の仕方を教えてもらえますか。
望田)すべきでないと言い切るのは難しいですけど、何も考えずに同じ種牡馬を何回もつけるのはどうかなと思います。
僕が繁殖牝馬の相手を考える場合には、基本3頭を提案しますが、どうしてもこの種で後継牝馬を取りたい、というときは、牡が生まれたらもう一年同じ種をつけることもありますね。
稲原)なるほど。タイミングなどもあって、希望の種牡馬がつけられないこともあるし、そういう意味でも候補は複数あったほうがいいですね。
種牡馬の人気が一極集中してますし。
望田)「この種馬がつけられない場合の候補も出して」とか「これつけにいって断られたときの第二希望を考えて」とか、そんなオーダーもありますね。
稲原)そういうオーダーができるのは馬主さんも生産者もありがたいですね。
望田)今日はいろいろお話させていただいたんですけど、やっぱりオーダーや馬によって考え方も変わってくるので、一概には言えないですけどね。
稲原)望田さん、今日はありがとうございました。
血統の話をたくさんおうかがいできて、本当に勉強になりました。
もちろん血統も大事なんですけど、競走馬の場合は生まれてから、ずっと我々人間が介在するわけですから、血統を生かすも殺すも馬を育てる人間…生産、育成、厩舎次第ということを改めて肝に銘じて、私たちは日々精進しないといけないですね。
稲原さん、Pacalla編集部が聞きたかったことを汲んでいただき、本当にありがとうございました。
プロのインタビュアーもびっくりの取材力です…!
初対面とは思えない盛り上がりを見せた本対談、いかがでしたか?
普段どんなお仕事をされているのか、なかなかわからない血統評論家の仕事や血統に対する考え方。
生産牧場の思いなどを知ることができたのではないでしょうか。
冒頭でご紹介した『パーフェクト種牡馬辞典』は馬主さんや生産牧場の方だけでなく、POGや馬券の参考にも広く読まれている書籍ですので、興味を持った方はぜひご覧になってみてくださいね!