ブラックVSダイヤモンド

2018/04/27

カテゴリ:馬のはなし / Pacallaオリジナル

ボクの馬と君の馬、果たしてどちらが強いのだろうか?

その昔、貴族紳士が嗜む娯楽としてイギリスより誕生した競馬はサシの勝負、一対一の対決が主だった。
明確な距離は定かではないが、2日間かけて勝負をしたレースもあるらしい。競技に参加する馬と騎手はもちろん、見守るオーナーや群衆も大変である。さぞかし長閑で平和な時間が流れていたのだろう。

日本競馬でも、たまにこの様な情景が見られる。古くは1992年の天皇賞春。テイオーとマックの対決で盛り上がった年だ。
誰が言ったか知らないけど「馬券を買うより双眼鏡を買ってレースを見る。」という名言には痺れるものがある。結果はマックの勝ち。テイオーは5着だった。

時は流れ、世紀も変わった2017年。
どっちが強いんや⁈論争が再び、春の盾舞台に巻き起こった。

サトノダイヤモンドとキタサンブラック。

2歳時から古馬みたいな風格を漂わせていたサトノダイヤモンド。このオーラに惚れた私は、早々と彼をダービー馬と決め付けた。無事に成長して迎えたそのダービーで単勝10万円一点勝負を敢行。
しかし、結果はマカヒキにハナ差及ばず2着。真っ白な灰となり、マカヒキの上で号泣する川田将雅を見ていた。
馬友達からは「お前が買ったから負けたんや!」と非難を浴びた。10万溶かして意識が遠退く最中での罵詈雑言。泣きっ面に蜂である。
ダイヤモンドは、そんなチンケな我が友と違い大人だった。秋を迎えて菊花賞、有馬記念を制覇。ダービーと同じく単勝で買わせてもらい、お寿司をご馳走してもらった。
古馬初戦は阪神大賞典。ここをあっさり勝った姿に、過去の王者達の姿が重なった。

一方のキタサンブラック。
バクシンオーの孫が菊花賞なんて….という血の常識を覆し、北村宏司と2015年の菊花賞を制覇。武豊に手綱が変わると、2016年天皇賞春、ジャパンカップをV。ウイナーズサークルには北島三郎の名調子が響き、全てのファンに愛される王者として君臨していた。

買えば来ない。という愛くるしい馬達が多い中、私にとってキタサンブラックは”買えば必ず来る”という神の様な馬だった。天皇賞春では馬の骨格標本のプラモデル、ジャパンカップでは腕時計を買って貰った。
2017年はGI昇格初年度の大阪杯を制覇。鞍上共々、つくづく華のある馬だ。

この2頭が春の天皇賞で相見える。
レースの1週間前から、久しぶりに真面目に悩んだ。
私は普段、「知らへん。分からへん。どうでもエエ。」で、全ての事象をやり過ごしている。それで案外、どうにかなるのだから、浮世の生活は簡単である。何も大したことあらへん。悩む必要もない。

しかし、世の天才達が束になっても敵わない競馬という難題はそれでやり過ごせない。
何をしていても「どっちやろ…?」と一人問答。終始俯向き、食も細くなり、側からみればさぞかし深刻な悩みを抱えている人に見えたのだろう。
どないしたんや?と、色んな人に声をかけられた。いや、馬のことでね…と言えば、ただでさえ腐っている人間性が、より悪化する様に思われたので、大丈夫、大丈夫ですから…と周りの優しさをシャットダウンした。

ブラックはGIを3つ。鞍上は盾男の武豊。買えば必ず来る。
ダイヤモンドはGIを2つ。数は負けているが、2016年の有馬ではブラックを負かしている。鞍上はクリストフ。久々にデビューからゾッコンになった馬。

選べない…。マジで双眼鏡を買いに行こうかと思った。シッカリと彼らの勇姿を見て、後世に語り継ぐ役目を俺が担う。と考えた。しかし、それは逃げ口上だ。決断を下せない、という情けなさをテメェ勝手に美化しているだけだ。これはダイヤモンド、ブラックはもちろんその他の馬達にも失礼な行為である。

行為を決断する人は、たいていまた勝利も手に入れる。(エウリピデス)

私は決断した。緑のマークカードを取り、単勝3番に赤ペンを入れた。

テイオーとマックの時もそうだったが、競馬というのは、我々が望んだ通りの世界をあまり見せてくれない。
熱い競り合いが期待された最後の直線。追い縋るサトノダイヤモンドに影すら踏まさせず、キタサンブラックは駆け抜けた。その堂々たる立ち振る舞いは王者の二文字が相応しいもので、誰もが平伏せざるを得ない走りだった。
ブラックは2つ目の春の盾を手に入れ、私は財布がパンパンになるくらいの利益を手に入れた。祭りだ、祭りだと夕方からやった勝利の美酒の味は一生忘れないだろう。

ちなみにこの時の払い戻し金は、封筒に入れて机の引き出しの奥深くに閉まっている。
近い将来、同じ舞台でキタサンブラックとサトノダイヤモンドの血を分けた子孫達が、しのぎを削る熱い日が必ず訪れるはず。
その時、この払い戻し金を使って上等な双眼鏡を買うつもりだ。もちろん馬券も買う。

今年の天皇賞には出ていないが、サトノダイヤモンドの復活を切に願う。この駿馬の物語はまだ終わってない!

 

    記事をシェアする

    pagetop