橋本樹理のドバイワールドカップ取材記

2021/04/07

カテゴリ:馬のはなし / 色々なはなし / 人のはなし / Pacallaオリジナル

昨年、直前になってコロナウイルス感染拡大防止のために一年延期となった第25回ドバイワールドカップデイ。コロナ禍の厳しい状況で昨年の20頭には及ばないものの、“仕切り直し”の一戦に以下の12頭もの日本馬が参戦を決めました。

 

ドバイワールドカップ=*チュウワウィザード

ドバイシーマクラシック=クロノジェネシスラヴズオンリーユー

ドバイターフ=ヴァンドギャルド

ドバイゴールデンシャヒーン=*コパノキッキング、*ジャスティン、*マテラスカイレッドルゼル

UAEダービー=タケルペガサス、*ピンクカメハメハフランスゴデイナ

ゴドルフィンマイル=デュードヴァン

*はサウジアラビアからの転戦、下線は中止になった昨年も遠征していた馬

 

私は日本を発つ際に課される出国72時間以内の陰性証明書を用意して出発。ドバイに到着すると、入国審査前に陰性証明書を見せ、入国審査ではパスポートを見せて顔写真を撮影されるという、意外にあっさりしたものでした。しかし、主催者であるドバイレーシングクラブのコロナ対策は厳格。常にマスクを着用し、メイダン競馬場到着初日、そしてレースの48時間以内にもPCR検査を義務付けるということでした。

調教が行われるメイダン競馬場行きのメディアバス、調教場脇にある休憩所のベンチ、そして競馬場の中など至る所にソーシャルディスタンスを呼びかけるステッカーがありました。そして、コロナウイルス感染拡大地域であるイギリスから馬の遠征はあったものの報道陣はゼロ。メディアの全体数も例年の3分の1程度にとどまったような印象を受けました。

▲メイダン競馬場

▲メイダン競馬場のコース

▲メイダン競馬場のスタンドの観覧席も間隔を空けられている

 

日本馬の関係者も、帰国時に3日間の強制隔離+11日間の自主隔離が必要なため例年に比べて少数。いつも以上に苦労があったことは想像に難くないですが、遠征に同行している人たちがお互いをカバーしながら愛馬の調整に力を注いでいました。

チュウワウィザード、クロノジェネシス、デュードヴァン、タケルペガサスは23日に、残りの馬たちは翌24日に最終追い切りを消化。コパノキッキングは精神面を考慮して追い切り日以外は馬場に出ず、厩舎周りでの調整を重ねました。ラヴズオンリーユー、ジャスティンの矢作厩舎2騎も追い切り以降は馬場に出ない調整と、それぞれの馬の特性に合わせた調教が続きました。

▲併せ馬を行うタケルペガサス(左)とデュードヴァン

 

チュウワウィザードの追い切りで感触を確かめた戸崎騎手は「サウジの時より行きっぷりが良くて状態の良さを感じます。いい意味での前向きさが出ていますね。距離も延びますし、(サウジのワンターンから)2ターンになるのはいいと思います」と上昇気配を感じ取っていました。

▲中間は上昇気配を漂わせていたチュウワウィザード

 

クロノジェネシスの北村友騎手も追い切りにまたがり、「思ったよりいい状態で持ってこられました。メンタルもしっかりしているし、初めての飛行機の輸送で本当にタフですね」と相棒に頼もしさを感じていました。

▲クロノジェネシスは落ち着いた様子で調整

▲アブダビのメディアに取材される北村友騎手

 

ラヴズオンリーユー、ジャスティンの2頭使いで共同会見に呼ばれた矢作調教師は、ラヴズオンリーユーのインタビューからジャスティンのインタビューに変わるタイミングで、ラヴズの帽子からジャスティンの帽子に変えるパフォーマンス。このサービス精神にはインタビュアーも大喜びでした。

▲共同会見に臨む矢作調教師

 

ラヴズオンリーユーは16年にドバイターフを制したリアルスティールの全妹とあって注目度は大。「昨年は中止になったけど、早くから世界で戦いたいと思ってきました。非常にドバイは合うと思っているし、大きなチャンスだと思っています」と、矢作調教師は手応えを口にしていました。ジャスティンに関しても「リヤドダートスプリントで1、2着だった日本馬よりも日本での実績は上。幸運さえあればチャンスはあると思います」と、前走6着からの巻き返しに力を込めていました。

▲マーフィー騎手を背に追い切りを行ったラヴズオンリーユー

 

日本馬の追い切りが全て終わった24日、朝から悲しいニュースが飛び込んできました。ドバイ首長・モハメド殿下の兄で、ドバイの副首長、そして89年の英ダービー馬ナシュワンなどを所有した世界的なオーナーブリーダーでもあるハムダン殿下が逝去。昼の枠順抽選会では冒頭に1分間の黙とうが行われました。

▲騎手たちは腕章型の喪章をつけ、ハムダン殿下に哀悼の意を示した

 

G1レース以外は22日に出走馬が決まるとともに枠順も決まっており、UAEダービーのタケルペガサスは7番、ピンクカメハメハは14番、フランスゴデイナは10番、ゴドルフィンマイルのデュードヴァンは15番。

この日はG1レース5競走の枠順抽選が行われました。アルクオーツスプリントからドバイシーマクラシックまではレースごとに関係者がそれぞれボタンを押すと、メンバーと枠順が一気にビジョンに表示されます。ドバイゴールデンシャヒーンのコパノキッキングは11番、ジャスティンは3番、マテラスカイは4番、レッドルゼルは13番に決定。ドバイターフのヴァンドギャルドは5番枠。ドバイシーマクラシックのクロノジェネシスは8番、ラヴズオンリーユーは9番に決まりました。

メーンのドバイワールドカップはまず出走馬名が隠された馬の置物を選んで、その馬の関係者が枠番の隠されている置物を選ぶといった有馬記念と似たような方式。チュウワウィザードは2番目に登場。3番枠を引き当てました。「いい枠だと思います」と、自ら引いた大久保調教師は納得の表情。戸崎騎手も「極端に内とか外じゃなければと思っていました。サウジではスタートで後手を踏んでいるので、その辺気をつけたい」とイメージしていました。

▲ワールドカップの枠順抽選会の様子。チュウワウィザードは3番枠に

 

枠順が決まり、徐々にムードが高まってきました。

そして、いざレースの日―。

今年は無観客で行われましたが、オーナー、関係者、メディアや競馬場で従事するスタッフなど入場する全ての人に48時間以内の陰性証明書が必要。ゲート前での陰性証明書のチェックが済めば、腕に赤いリストバンドが巻かれて入場を許可されます。実際に、レースまでに私が行った検査は渡航前のものも含めて4回でした。

 

直前にハムダン殿下が他界したことから全騎手は腕章型の喪章を左腕に着用。例年行われる花火などの華美な演出もなしと決定。いつもより静かなドバイワールドカップデイが始まりました。

12頭の日本勢の先陣を切ったのは2R・ゴドルフィンマイル(ダート1600メートル)出走のデュードヴァンでした。五分のスタートから後方で待機。しかし、3コーナーあたりから手応えは鈍く、13着での入線。手綱をとったデットーリ騎手は「道中、ずっと右側にもたれて走っていました」と、不可解な表情を浮かべていました。良績のある左回りのマイルでしたが、本来の力を出せなかったよう。勝ったのは地元の8歳馬、シークレットアンビション。過去2度の成績は10、5着でしたが、逃げ切って6馬身差の圧勝とリベンジを果たしました。

▲ゴドルフィンマイルで13着に敗れたデュードヴァン

 

5R・UAEダービー(ダート1900メートル)にはタケルペガサス、ピンクカメハメハ、フランスゴデイナと3頭の日本馬が出走しました。ピンクカメハメハは好位の3番手、タケルペガサスはムーア騎手が押して中団へ。フランスゴデイナはスタートダッシュが鈍く、後方から。レースが動いたのは3コーナー過ぎでした。外のレベルスロマンスがスパートをかけると、そのまま直線も独走して5馬身半差で圧勝しました。

タケルペガサス、フランスゴデイナは追い上げてそれぞれ4、6着。ピンクカメハメハは4コーナーあたりから手応えが怪しくなって10着。タケルペガサスのムーア騎手は「よく走ってくれたが、もう少し距離があった方がいいかも。勇敢で、ビッグハートを持っている馬。スタミナがあるので、もう少し緩いペースの方が走りやすいと思う」と健闘をたたえました。

フランスゴデイナのロザリオ騎手は「ゲートの中でナーバスになったが、落ち着かせようとしたら大丈夫だった。ただ、進んでいかなかったね」と発馬後のロスを指摘。ピンクカメハメハの戸崎騎手は「状態は良かったと思いますし、レースの形も悪くなかったけど、結果的に距離が長かったですね」とコメント。サウジダービーを勝って今回も期待された1頭でしたが、距離延長が響いたようでした。

▲UAEダービーで4着に追い上げたタケルペガサス(ゼッケン12番)

▲後方から6着まで差を詰めたフランスゴデイナ

▲距離延長がこたえて10着に敗れたピンクカメハメハ

 

日本馬出走ラッシュは続きます。6R・ドバイゴールデンシャヒーン(ダート1200メートル)にはコパノキッキング、ジャスティン、マテラスカイ、レッドルゼルと史上最多4頭の布陣。リヤドダートスプリント時にゲートでイレ込んだジャスティンは、パドックを周回せず、先出しで万全の態勢を取りました。

▲中間はメリハリの利いた調教をしてきたレッドルゼル

▲坂井騎手が手綱をとって軽快な動きを見せたジャスティン

 

大外枠から飛ばしてハナを切った米国馬ゼンデンに食らいつくジャスティンとマテラスカイ。コパノキッキングとレッドルゼルは後方のポジションに収まりました。道中もスピードを緩めないゼンデンに先行勢は苦しくなり、ジャスティンとマテラスカイは直線で失速。そして、ラスト200メートルを切ってグングン脚を伸ばしてきたのがレッドルゼルでした。1分9秒1のレコードという圧巻の脚力で押し切ったゼンデンには3馬身1/4差離されましたが、ムーア騎手の豪快なアクションに応えて2着と健闘。コパノキッキングも5着まで追い上げました。

▲圧倒的なスピードでゴールデンシャヒーンを押し切ったゼンデン

 

ムーア騎手は「1200メートルは少し忙しいかもしれない。それでもいい走りをしてくれた」と海外初参戦で銀メダルをつかんだパートナーをたたえました。「あまり出さない競馬をしていたからそこだけですね。でもしっかり脚を使ってくれましたし、力のあるところは見せてくれました」と藤巻助手。1600メートルのフェブラリーSからの距離短縮のため、前走後はメリハリを利かせるような調教をしてきましたが、見事好結果に結びつきました。

▲鋭い脚で2着に食い込んだレッドルゼル(ゼッケン10番)

▲2着と健闘したレッドルゼル

 

コパノキッキングのビュイック騎手は「サウジアラビアとは違う馬場で、前半はスピードに乗って行けなかった。砂をかぶる位置取りになってしまったが、最後はよく伸びてきた」と堅実な走りを評価。逆に、展開に泣いたのはジャスティンとマテラスカイ。それでも「やりたい競馬はできました。悔いはないです」と、11着のジャスティンの坂井騎手と矢作調教師は声をそろえます。もちろん悔しさはあるでしょうが、サウジアラビアでは本来の力を見せることなく敗れただけに、今回は納得の表情を浮かべていました。2年前に2着と好走したマテラスカイはリベンジならず12着。戸崎騎手は「周りの馬が速かったので、自分の形を取れませんでした」とハイペースに敗因を求めていました。

▲コパノキッキングは直線で外から追い上げたものの5着

▲ジャスティンはハイペースに泣いて11着

 

圧倒的なスピードを見せてくれたゼンデンはゴール直後に左前脚を故障し、残念ながら安楽死に…。関係者のいない表彰台には心がとても痛み、無事が一番であることを改めて思い知らされました。

 

7R・ドバイターフ(芝1800メートル)にはヴァンドギャルドが参戦。週中のパドックでのスクーリングで少しうるさい面を見せていたためか、こちらもジャスティンと同様に先出しで馬場入りしました。スムーズにスタートを切って中団のインを追走。直線で馬と馬の間を割って先頭に立ちかけましたが、外から勢いよく伸びてきたロードノースに屈して2着。3馬身差をつけられましたが、こちらも海外初遠征で立派な走りを見せました。

▲ターフに出走したヴァンドギャルドは2着に好走。優勝は英国馬ロードノース

▲ロードノースでターフを圧勝したデットーリ騎手はフライングディスマウント

 

バルザローナ騎手は「とてもリラックスして走れました。道中の手応えもポジションも良く、ペースが上がってもついて行ってパーフェクトなレース運びでしたが、直線ではスペースがなかなか開かなかったですね。勝ち馬はヨーロッパでもG1を勝っている馬ですし、強かったです」と、ロードノースの貫禄の走りに脱帽。「3回連続(18年ドバイターフ=リアルスティール3着、19年ドバイターフ=ヴィブロス2着)で日本馬に騎乗させていただき、感謝していますが、結果を出せず残念です」と悔しい思いも口にしていました。

▲バルザローナ騎手とともにゲート練習を行うヴァンドギャルド

 

さて、残すは注目度ナンバーワンのドバイシーマクラシック、そしてメーンのドバイワールドカップです。

8R・ドバイシーマクラシック(芝2410メートル)は、現地でも日本でも大いに注目が集まっていました。当日にバークシャーロッコが取り消して9頭立ての小頭数になりましたが、昨年、宝塚記念と有馬記念のグランプリ2勝を挙げたクロノジェネシス、優勝賞金1000万米ドルのサウジカップを制したミシュリフ、香港ヴァーズ圧勝のモーグル、京都記念で勢いを取り戻したオークス馬ラヴズオンリーユーなど好メンバーがそろいました。

日本の2頭は落ち着いてパドックを周回。どちらもパドックで着けていたメンコをゲート裏で外してゲートインしました。

▲シーマクラシックのスタート直後

 

クロノジェネシスは中団の外へ。その後ろにラヴズオンリーユー。ミシュリフは後ろに下げて脚を温存しました。予想通りチャンネルメイカーが先手を取りましたが、ペースはそれほど上がらず、ターフビジョンに示された800メートル通過は51秒13。3コーナー過ぎから馬群が凝縮し、クロノジェネシスも中団の外からポジションを上げていきました。連れてその後ろにいたラヴズオンリーユー、ミシュリフもペースアップ。直線に入ると、外からミシュリフ、クロノジェネシス、ラヴズオンリーユー、少し離れた内のウォルトンストリートと4頭の追い比べになりました。

残り200メートルでウォルトンストリートが脱落。一瞬、先頭に立ったラヴズオンリーユーを、イーガン騎手の無駄のないアクションに呼応したミシュリフが外から差し返します。さらに真ん中のクロノジェネシスもひと伸びして、ラヴズオンリーユーをパス。しかし、ミシュリフにはクビ差届かず2着でフィニッシュ。直線で長く続いた叩き合いの軍配は、英国の4歳馬に上がりました。

▲3頭の見応えある叩き合いが続いたシーマクラシック

 

口を真一文字に結んだクロノジェネシスの北村友騎手の表情から悔しさがうかがえました。「スタートは五分に出てくれて、馬のリズムで行ったらあの位置取りになりました。3コーナーからペースが流れていい感じで流れに乗れましたが、そこからすぐ反応できず、最後は疲れてしまいました」。14年ジェンティルドンナ以来となる日本馬のシーマクラシック制覇にはわずかに届かず、肩を落としました。

▲クロノジェネシスで2着に惜敗し、悔しそうな表情を見せる北村友騎手

 

ラヴズオンリーユーのマーフィー騎手は「道中は落ち着いていて、直線に向いたときは勝てると思いました。タフで素晴らしいレースをとても一生懸命に走りました。勝った馬はスーパーホースですね」とパートナーと勝者をたたえるコメント。矢作調教師は「もう少しペースが流れてくれればよかったですが、これがこちらの競馬ですね。最後の最後で止まってしまいました。いいレースをしてくれましたし、これで負けたら仕方ないと思います。次走の香港が楽しみです」と、次走に予定するクイーンエリザベス2世Cに期待を寄せていました。

▲小差の3着に敗れたラヴズオンリーユー

 

ミシュリフは仏ダービー、サウジカップに続くG1・3勝目。芝、ダート不問の二刀流で、マイルから2400メートルまでこなす万能型。昨年、エネイブルが去ったJ&Tゴスデン厩舎からまた新たなスターホースが誕生しました。

まだ21歳の若きイーガン騎手は、注目の一戦を制して目を輝かせます。「最後の2ハロンはすごい叩き合いでした。いい脚を使うことはわかっているので落ち着かせるように乗りました。自分の仕事をこなせてうれしい。もし2400メートル以上の距離で控えてリズムよく走れれば、今年のヨーロッパではものすごい存在になるかもしれません」

▲イーガン騎手を背に芝コースで調整するミシュリフ

 

J&Tゴスデン厩舎はドバイターフのロードノースに続いて連勝。ミシュリフはサウジカップ後、英国ニューマーケットまで戻り、中5週で改めて遠征してきましたが、ゴスデン厩舎のその手腕には改めてうならされます。

今季から共同経営者となった息子のタディ・ゴスデン調教師は「レース前には、もしもスイッチが入った状態になるのであれば、ポジションを取るのは良くないし、最悪の結果にもなるだろうと考えていました。デビッド(イーガン騎手)はミシュリフがリラックスできるポジションに置いて、スイッチをオフにしてくれました。タフで多彩な馬。素晴らしいし、本当に才能のある馬です」と、鞍上の好騎乗にも言及していました。秋には凱旋門賞を目標にするそうで、再び日本馬との対決が見られるかもしれません。

 

非常に見応えのあったシーマクラシックにより気分が最高潮となったところで、9R・ドバイワールドカップ(ダート2000メートル)を迎えました。

しかし、各馬のパドック周回後にアクシデントが起こります。デットーリ騎手鞍上のグレイトスコットがうるさい面を見せて馬場入りの際に放馬。ダートコースを走り回ったのちに確保されたと思ったら、今度はミリタリーローがゲートを潜って放馬してしまったのです。かなり長い時間、待たされていた各馬ですが、チュウワウィザードは落ち着きを保っていたように見えました。

発走予定時刻から13分が経過し、ようやくゲートが開きました。

チュウワウィザードは戸崎騎手が押して押して、4番手に誘導しました。サウジカップの時は滑るようなスタートで流れに乗り切れませんでしたが、今回はリズムよく追走。レースの流れが変わったのは3コーナー。持ったままの手応えでミスティックガイドが上がっていき、4コーナーでは早や先頭に立ちました。チュウワウィザードも離されないように食らいついていきます。一瞬、手応えが鈍くなったかのように映りましたが、残り200メートルあたりから加速。ミスティックガイドには3馬身3/4差遅れましたが、前にいたハイポセティカルをかわして2着をしっかり確保しました。

▲ワールドカップは米国のミスティックガイドが圧勝でG1初制覇。2着はチュウワウィザード(ゼッケン3番)

▲ドバイワールドカップで優勝したミスティックガイドの関係者

▲ミスティックガイドでワールドカップを制したサエス騎手は手を胸に当て空を見上げる

▲好位で流れに乗るチュウワウィザード

▲2着に健闘したチュウワウィザードをねぎらう戸崎騎手

 

昨年のJRA最優秀ダート馬の鮮やかな巻き返しに戸崎騎手の声も弾みます。「前回よりも追い切りの動きも良く感じましたし、力を見せてくれてよかったです。発走まで待たされましたが、逆に落ち着きが出て、スタートをうまく切って本来の競馬ができました。いいペースでついて行って、最後もしっかり伸びているので、またリベンジしたいです」。

大久保調教師も同様の表情でした。

「頑張りました! 前回のレースがあんなもんじゃないと思っていた半面、日本馬と世界のダートではこんなに差があるのかなとくじけた自分もあったけど、違うっていうのを信じながら次こそはリベンジしたいと思っていたので、それを証明できてよかったと思います。勝った馬との差が大きかったので、まだもっともっと勉強して強くしていく余地はあるんですけど。これからもチャレンジしていきたいです」

今回、チュウワウィザードは両後肢にトゥーアウターリムという外側が2ミリ高くなっている蹄鉄を当日だけ装着しました(日本では禁止されています)。コーナーが2つのサウジカップからコーナーが4つに増えるため、コーナーでしっかりグリップが利いて回りやすくするのが狙いでした。「サウジの時は直前の雨でグリップが足りなくなり、蹄鉄が合わなかったと思ったんです」と、大久保調教師が振り返ったように前回の敗戦を糧にした変わり身でした。

▲チュウワウィザードがレース当日に装着したスパイク鉄(大久保厩舎提供)

 

「あきらめなかったからです」

この言葉は2011年、日本調教馬として初めてドバイワールドカップを制したヴィクトワールピサの角居調教師が「なぜ勝てたと思いますか」と聞かれて答えたひと言です。世界各国で名をとどろかせた角居調教師も、ドバイでの初勝利はのべ10頭目でした。

▲ドバイワールドカップの覇者であるヴィクトワールピサをたたえる馬像

 

競馬に携わっていると、この言葉を思い出す場面が何度もあります。今回もこの言葉が頭をよぎりました。
この中間はサウジカップ9着という結果に心が折れる時もあったかもしれません。それでも続戦し、「こんなもんじゃない」と陣営の愛馬を信じる思いがこの結果を引き寄せたように思えてなりません。

 

全レース終了後、ハムダン殿下追悼の動画がターフビジョンに流れ、殿下をしのぶ光を使ったショーが厳かに行われました。

満足感、手応え、そして悔しさ。さまざまな感情が込められた4つの銀メダルを日本勢が手にした第25回ドバイワールドカップデイは静かに幕を閉じました。

 

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