重賞制覇レポート『ザダル』新冠橋本牧場編(京都金杯)

2022/01/28

カテゴリ:馬のはなし / 色々なはなし / 人のはなし

一年の計は金杯にあり―。
競馬界で古くからこう伝わる重要なG3、京都金杯を突き抜けたのはザダルでした。

2022年の開幕日に、いきなり絶好のスタートを切った新冠橋本牧場の橋本英之社長が笑顔で口取り写真に納まる姿がありました。

 

 

弾丸の日程で名古屋へ応援に飛んだ英之社長はレース直前に中京競馬場に到着。レースは馬主席から観戦しました。スタートを遅れて出たザダルは中団からやや後方を追走。直線に入ったところで、英之社長は「あれ? あれ?」と目をキョロキョロさせました。3~4コーナーまでしっかりと追っていたザダルの姿が見えなくなってしまったのです。

「道中は割と後ろの方から進んでいったと思うんですけど、上から見ていたので馬を見失ってしまったんです。4コーナーまで後ろだったので、直線も後ろを見ていたんですけど…」

横に広がった馬群の中からザダルを探しているうちに、先頭の馬がゴールを駆け抜け、レースの決着はついていました。

「結局、何着だったんだろうな」とゴールの方を見ると、先頭を走っていたのは青い帽子、キャロットの勝負服。キャロットファームはヴィジュネルとの2頭出しでしたが、青帽はザダルの方。

「あれ? 勝ってるんじゃないの?」
愛馬の姿を確認できたのは勝負がついてからでした。

「たぶん馬群を縫ってきたと思うんですけど、直線で馬を探していまして、気づいたのがゴール後でした。目の前で重賞を勝ったのは初めてだったんですけど、実感がわくのがめちゃくちゃ遅かったです(笑い)」

3年連続で金杯制覇となった松山弘平騎手の巧みなリードに応え、ザダルは馬群を切り裂いて自ら2つめのタイトルをつかみました。

 

▲京都金杯のパドック(新冠橋本牧場提供)

▲ザダルの父トーセンラー(2013年マイルCSでは武豊騎手のG1・100勝となりました)

 

レースの興奮は少しそがれてしまいましたが、それでも芝コースで口取りができる特別感が英之社長を包みました。重賞初制覇となったエプソムC時は新型コロナの感染拡大防止のために口取りが中止。初めての重賞の口取りで、しかもG3ではなかなかない芝コース上。

「ちょっと違いましたね」

 

▲今回もお祝いの品がたくさん届きました

▲あふれそうなほどのお花で事務所が一気に華やかになりました

 

エプソム後は新潟記念13着、富士S7着と振るいませんでしたが、7番人気の低評価を見事に覆して2度目の重賞勝利。

「前走は内の馬場が悪くて脚を取られたという状況で原因がはっきりしていましたからね。しばらく雨が降っていなくて馬場もパンパンでしたし、期待していました」と英之社長は変わり身を信じていました。

 

明け6歳で今回が13戦目と大事に使われてきただけに、伸びしろはまだまだありそうです。

「筋肉質になってきて、マイル寄りの体になっていると、パドックで見て思いました。横の馬との比較でもトモの筋肉量が多くて、ようやく本格化しそうな感じもします」と英之社長。今回は57・5キロのハンデ、菊花賞以来となる西日本圏での競馬をクリアし、さらに成長を遂げた姿を見せました。

 

▲ザダル当歳10月

 

年初に絶好のスタートを切った新冠橋本牧場ですが、実は2021年最後のレースとなったファイナルSもローレルアイリスで制し、最高の年末年始となりました。
英之社長は「これはめちゃくちゃ嬉しかったです」と声を弾ませます。

 

ローレルアイリスは中央デビュー前に順調さを欠き、3歳9月にホッカイドウ競馬でデビュー。門別、名古屋で3勝を挙げて中央に“戻って”きました。中央でも地道に力を蓄え、わずか7戦でオープン入り。ファイナルSもハナ差で競り勝ち、遅まきながら秘めていた素質が開花しました。

「もともとすごく期待していた馬だったんです。締めくくりのレースを勝てたということも嬉しいですが、デビュー前に苦労したこの馬にはめちゃくちゃ思い入れがあるので。勝ったときは本当に感動しましたね。ザダルが勝ったときより嬉しさは大きかったかもしれません。ザダルのときは、直線で馬を見失っていたので(笑い)」

 

 

重賞、条件クラス、未勝利。競馬にはさまざまな1勝がありますが、家族と同じか、それ以上に長い時間を過ごしながら愛情をかけて馬たちに携わってきたホースマンにとっては、レースの格に関係なく、どれもが大事でかけがえのない1勝だと、英之社長の言葉から改めてそう感じます。

「やっぱり勝った時が一番嬉しい瞬間ですね。生産者は生産馬が牧場にいた時から2年くらいかな。タイムラグがあるんですよね。なかなかパッと結果が出ない職業で、長い年月をかけて答え合わせができるという感じですね」

 


▲縦長の放牧地は雪で真っ白に

▲冬の放牧地

 

英之社長が牧場を継いだ2013年以降、送り出してきたオープン馬は6頭。19年は22勝、20、21年はそれぞれ19勝を挙げています。

「アベレージはひと昔前より上がってきていると思います。自分たちだけじゃなく、育成場、調教師さん、オーナーさんといろいろかみ合ってきた面が増えてきていると思います」

昨年、ザダルがエプソムCで牧場に17年ぶりの重賞タイトルをもたらしてくれましたが、この勝利を機にさらに意欲がわいたと言います。

「ほかにもこうやって重賞を勝てる馬を出したいという思いが一層強くなりました」

寒さや雪、そして丘の上の強風にも負けず、たくましく育てられた“新冠橋本っ仔”たちから新たなタイトルホルダーが現れる日が楽しみです。

 

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