重賞制覇レポート『シャマル』岡田スタッド 編(東京スプリント)
2022/05/17
カテゴリ:馬のはなし / 色々なはなし / 人のはなし / Pacallaオリジナル
残り1ハロン。東京スプリントの最後の直線で激しい攻防が始まりました。
外から伸びるシャマル。その内で抵抗するギシギシ。さらに、最内に進路を切り替えたリュウノユキナが叩き合いに加わりました。シャマルが外から交わしたと思った瞬間、内のリュウノユキナがぐんとひと伸び。そのままリードを保って差し切ったかと思えましたが、フィニッシュ寸前でシャマルが再び加速すると2頭が鼻面をそろえてゴールに飛び込みました。
シャマル鞍上の川須騎手が「どちらが勝ったか分からない」という接戦でしたが、ビジョンの1着に灯ったのは「5」。
3頭の叩き合いの末、差し返したシャマルに軍配が上がり、ダートのスプリント戦線に新たな風が吹きました。
「うれしいよね。金山さん(シャマルはご子息の敏也氏名義)はカツジを買ってくれて、その後もずっと来てくれているからね」
岡田スタッドグループ代表の岡田牧雄さんは新たな活躍馬の誕生に笑顔を見せました。
生産馬でもある母のネイティヴコードは28戦で3勝。地道に力を蓄えながら勝ち星を挙げてきましたが、初子のシャマルは8戦5勝で一気に重賞ウィナーへの道を駆け上がりました。牧雄さんが「運がいいよね」と話すように当初は補欠1番手でしたが、スマートダンディが回避したことでJRA所属馬5頭の枠に滑り込み、好機をしっかりとものにしました。勝負の世界では運の良さも大事な能力のひとつです。
「血統はかなり優秀だと思っている」と牧雄さんは言います。
3代母マジックコードは米G3バレリーナHを2勝。2代母クラックコードの半姉に阪神ジュベナイルF2着馬シークレットコード、半妹に秋華賞2着馬パールコード。そのパールコードの初子、アートハウスは今年の忘れな草賞を圧勝という活力のある牝系です。
そして、父も生産馬のスマートファルコン。13年に種牡馬デビューし、産駒の重賞制覇はオーヴェルニュに続く2頭目です。種付け頭数は16年の181頭が最高で、19年には40頭に落ち込みましたが、21年には90頭と盛り返してきました。
「スマートファルコンの子だから余計うれしいね。けっこうつけてきたけど、なかなか走る馬が出なかった。(交配相手は)バリバリのダート馬でボリュームのある馬につけないとダメなんだね」
シャマルをはじめとした産駒の活躍などにより、成功する配合の傾向をつかんだ様子です。
▲シャマルの父スマートファルコン
シャマルの牧場時代は背腰が弱く、苦労したこともあったそうです。そして、デビューしてからも右前の蟻洞で休養を強いられることも。
「デビュー戦は一回使わせてくれ、みたいな感じで使ったんだよね。そのあと勝ったから続けて使ったんだけど、それも楽勝しちゃって。でも、(蹄のことを考えると)どこかで休ませなきゃいけないというのはあった。半年休ませた後のレースは包まれちゃって。でも最後は追い上げてきたからね」
着外に敗れたのは態勢が整っていなかったデビュー戦と長期休養明けの5戦目だけ。底を見せずにオープンまで一気に上り詰めました。
「リュウノユキナにはかなわないかと思った」
東京スプリントで1番人気を集めたヴァーミリアン産駒は、牧雄さんがダートの短距離界で高く評価する1頭です。
「リュウノユキナが馬と馬の間に入ってこようとした時に、外から閉めたよね。あれは評価できるね。直線は一回かわされて、差し返したように見えたんだけど、やっぱりそうだよね」
味のある競馬で本命馬に打ち勝ち、牧雄さんの声もはずみます。
次走に予定しているのはさきたま杯。これまでは6ハロンで勝ち星を積み重ねてきましたが、9戦目にして初めて1400メートルに挑みます。
「私は1200メートルの馬だと思っていないし、1400、1600メートルで活躍できると思っている。前走で差し返したところを見ても、やっぱり1200メートルの馬じゃないなというのはある。距離を延ばしてどうなるか」
母のネイティヴコードは3勝のうち1勝が1400メートル。さらなる高みを目指して自らの可能性を広げていきます。
若駒時代は弱い部分があっただけに探り探りできましたが、周囲の期待を上回る走りを見せています。
「パドックを見てもまだトモがかったるいし、まだよくなる。水っぽさも抜けるはずだし、抜けてきたらさらに期待できるんじゃないかな。これからの馬だと思っているし、伸びしろは大きいんじゃないかなあ」と期待を込めた牧雄さん。
ダート界に新風を吹き込んだシャマルの勢いはまだまだ止まりそうにありません。