愛すべきスーパーヒーロー
2017/12/06
カテゴリ:馬のはなし / Pacallaオリジナル
優勝劣敗。
競馬という文化は、創成期の頃より、この概念を土台にして今日まで歴史を紡ぎ続けている。
勝ちこそが全てで、例え1mmでも負けていれば敗者となり、歴史に名は残らない。
しかし、負け続けても諦めず、全く平然と闘志を燃やしてレースに挑む馬に、我々ファンは心を奪われることがある。
あと一歩、あと一歩。と、その馬の背中を、馬券というツールで持って押していると、ある瞬間からたまらない愛くるしさを覚えるのだ。
通算50戦7勝。名馬と讃えられる優駿達の中で、数字だけみるとこの戦歴は大したことはない。と言えるだろう。ただ、この7個の白星と、43個の黒星には、愛さずにはいられない要素がギッチリ詰まっている。皇帝にもアイドルにも怪物にもない、途方も無く大きな愛くるしさが。
ステイゴールド。
彼は常に必死だった。430kgそこそこの小さな馬体を、ただひたすら一生懸命に躍動させ栄冠を目指した。しかし、彼が過ごした時代、98〜01年は怪物、俊才、覇王といった強豪が一堂に会した時代だった。もしも、別の時代に生まれていたならば、ステイゴールドという馬は容易くGIのタイトルを手にしていただろう。そして普通の歴史的な名馬になっていたに違いない。
でも、そのifなステイゴールドに、彼を知るファンが共有している、無性な愛くるしさがあるだろうか?
もちろん名馬を愛する気持ちはある。しかし、そこにステイゴールドだけの個性があるかどうかは分からない。
私は、GIを5つほど勝った卓越した名馬のステイゴールドを、死ぬまで記憶に留めておく自信はない。しかし、首に銀と銅のメダルを大量にぶら下げながらも、お前ら俺の走りを見とけよ!と、まるでGI5勝馬のように自信満々に馬場で戦ったステイゴールドは、死んでも忘れない。
ステイゴールドの戦いの中で、一つシーンを切り抜くなら、ラストランの香港が良い。
終焉の地を異国に求めた彼は、絶望的と言える位置から、フランキー騎乗のゴドルフィンホース、エクラールを差し切った。着差はハナ。もしもこの時、愛すべき善戦マンの
ステイゴールドだったなら、我々は奇妙な安堵感で彼を労っただろう。やっぱりステイはステイだな…と。
しかし、この時の彼は、最後の最後まで諦めを知らないヒーローなステイゴールドだった。
その瞬間を見届けた者なら、無上の喜びと、胸の底から熱くなる高揚感を感じたに違いない。私は幸運にも、その瞬間に立会い、ステイゴールドの背中を押す機会に恵まれた。あのステイゴールドが遂にGIを…。感慨深いものだった。
ドバイに続き、香港でも敗れたフランキーに、親友のYUTAKA TAKEは、「この馬はロイヤルブルーを見ると燃える」と話したという。オーバーフローした喜びの桶に、更に喜びを注ぐようなエピソードだ。
種牡馬になってからは、オルフェーヴルやゴールドシップといった、滅茶苦茶強いけど、ただ単に強いだけじゃないという個性的な名馬を、競馬場に送り出してくれた。子孫達もまた、死んでも忘れない名馬だ。
世の中てのは、全てが思い通り上手く行くことはない。挫折、悲しみといった不の要素が幸せの真隣に座っている。
仮に其奴らが、幸せクンを押し退けて隣に座ってきた時。ステイゴールドを思い出して欲しい。
今度は俺が背中を押してもやるよ。と、吊りハミが似合う小さな馬が、そこから救い出してくれる。