【今さら聞けない競馬学】第二の心臓…馬の蹄を護る蹄鉄の種類

2022/02/09

カテゴリ:色々なはなし / Pacallaオリジナル

 

こんにちは、Pacalla編集部のやりです。競馬ファンの皆さんは『蹄は第二の心臓』という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか。つまり、馬にとって蹄はとっても大事なものということですが、それを護る「蹄鉄」にはたくさんの種類や工夫があることをご存じですか?
今回は競走馬の蹄鉄をメインに、一緒に勉強していきましょう~!

 

鉄の蹄鉄とアルミニウム合金の蹄鉄

現在、蹄鉄には大きく分けると2種類があります。乗用馬などに装着する鉄製のもの競走馬や育成馬が装着するアルミニウム合金製のものです。鉄製の方が耐久性に優れていますが、競走馬は速いスピードで走らなければならないため、レースの際には鉄よりも軽量のアルミニウム合金製が用いられます。

 

「調教蹄鉄と競走用ニウム蹄鉄(勝負鉄)」から「兼用蹄鉄」へ

以前の競走馬は、厩舎などの日常生活では鉄製で耐久性の高い「調教蹄鉄」をつけて、レースのたびに勝負鉄と呼ばれるアルミ合金で作られた「競走用ニウム蹄鉄」に打ち替えていました。しかし、レースに出るたびに打ち直すため、蹄が傷んでしまうことが問題でした。

そこで、日常生活や調教時もレース時も使用することができる「兼用蹄鉄」が生まれました。兼用蹄鉄はアルミニウム合金製で軽く、耐久性も増しているそうです。この兼用蹄鉄は、栗東蹄鉄の公式サイトによれば1981年に中央競馬のレースでの使用が認められ、1988年から兼用蹄鉄装着馬は装蹄費の補助に関する給付制度が適用されるようになり普及が進んだということです。

 

(左)鉄でできた調教蹄鉄(右)アルミニウム合金でできた競走ニウム蹄鉄▲(左)鉄でできた調教蹄鉄(右)アルミニウム合金でできた競走ニウム蹄鉄

兼用蹄鉄

    ▲耐久性が増したアルミニウム合金の兼用蹄鉄

<豆知識>
中央競馬のレースで使用する蹄鉄は以下の条件を満たす必要がある
└厚さ10mm以下/最大部分の幅25㎜以下/重さ150g以下(2019年1月1日より)

 

競走馬の蹄鉄はどれくらいの頻度で打ち直す?

以前より耐久性が増しているとはいえ、アルミニウム合金製の蹄鉄は鉄と比べて摩滅しやすいといえます。公益社団法人日本装削蹄協会によれば、2~3週間ごとに改装するのが一般的とのこと。ただし、これはあくまでも目安です。状況によっては、蹄鉄の摩耗が強い場合もあるため、短い期間で打ち直さなければならないこともあるようです。また、それより長く使用していても摩耗しない場合もありますが、蹄鉄がすり減っていなくても、蹄は伸びていくので、定期的にケアを行わなければなりません。

<豆知識>
鉄製の蹄鉄を一般的に用いる乗用馬では、1月~1月半ごとの改装が目安

 

馬の状態によって使い分けられる蹄鉄

前述の通り、現在の競走馬は「兼用蹄鉄」を装着していることが多いですが、兼用蹄鉄は簡単にいうとノーマルバージョンの蹄鉄です。実際には兼用蹄鉄のほか、各馬の蹄の状態に合わせてさまざまな種類が使い分けられたり、工夫されたりしています。今回はよく見かけるものから、少々マニアックなものまで11種類をご紹介。

※以下、蹄鉄のみの写真はつま先側が上になっております。馬の蹄も入った写真およびイラストは踵側が上になっております。

 

<鉄橋蹄鉄>

鉄橋蹄鉄蹄鉄の両端にプレートを渡した形をしている。挫跖(ざせき)といって蹄釘や石などを踏んでしまい、蹄底に血豆や内出血などができてしまった場合など、傷ついた蹄底を保護するために使用される。

 

<四分の三蹄鉄>

四分の三蹄鉄▲逆さまにすると『Jの字』をしている

蹄鉄の4分の1を切り落として、Uの字ではなく『Jの字』の形状をしている。裂蹄(蹄壁が割れて亀裂が入った状態)、蹄の狭窄や球節炎の馬、短くカットした鉄尾(上図の右下)の部分に疾患を抱えた馬などに使用される。

 

<半月状蹄鉄>

半月状蹄鉄

蹄の爪先側にのみ装蹄され、鉄尾の長さが通常の蹄鉄の半分以下の長さのもの。蹄鉄を履いていない踵側半分は直接地面に接する。裂蹄、屈腱炎、肘腫(ちゅうしゅ)、蹄踵狭窄(ていしょうきょうさく)、挙踵(きょしょう)の馬の患部を保護したり、蹄機作用を促進したりするのに使われる。

<豆知識>
馬が歩くときに蹄が地面に着地して蹄に体重がかかると、その体重で蹄がわずかに外側に広がる。蹄が地面から離れると外側に広がっていた部分がまた元に戻る。歩行によるこの蹄の動きの繰り返しによって心臓から遠く、血行が滞りやすい四肢下部の血液循環が促される。このような蹄の開閉作用を蹄機作用という。「馬の蹄は第二の心臓」とは、このように蹄がポンプのような役割をしていることからもいえるのである。

 

<曲がり蹄鉄>

曲がり蹄鉄

片側の鉄尾が曲がった蹄鉄で、鉄尾が蹄底でいびつな形になっている。裂蹄や挫跖を発症している馬に装着する。前肢に使用することが多い。

 

<スプーンヒル蹄鉄>

スプーンヒル蹄鉄

片側の鉄尾をつぶした蹄鉄で、その形状がスプーンのように見える。走るときに前肢と後肢がぶつかってしまう馬の裂蹄の予防や、落鉄の予防のために使用される。

 

<リバーシブル蹄鉄>

リバーシブル蹄鉄

兼用蹄鉄の上下を逆にして装蹄したもの(裏返しではない)。蹄が反回(馬が歩くとき、球節以下で蹄が返ること)しづらくなるため、屈腱炎の馬などに使用される。

 

<連尾蹄鉄>

連尾蹄鉄

丸鉄とも呼ばれる、鉄尾の両端が繋がった円形(O字)の蹄鉄。鉄尾が繋がっていることでリバーシブル蹄鉄と同様に蹄が反回しづらい。屈腱炎や裂蹄の馬に使用したり、休養馬が蟻洞(蹄の角質層に空洞ができる)の治療中に装着したりする。

 

<柿元蹄鉄>

柿元蹄鉄

トウカイテイオーなど数々のG1ホースの装蹄を手がけた柿元純司氏が考案。通常の蹄鉄よりも、左右の鉄尾の間隔が狭くU字よりO字に近い形をしている。屈腱のあたり(裏筋とも呼ばれる)や蹄球を保護するため、屈腱炎や蹄球炎を発症している馬に使用される。

 

<厚尾蹄鉄>

厚尾蹄鉄▲(左)上から撮影したもの(右)側面から撮影したもの

鉄頭部から鉄尾部に向かって徐々に厚くなっている蹄鉄。蹄角度を起こすことで、屈腱にかかる力を小さくし、深屈腱や低踵で追突しやすい後肢に使われる。反対に鉄頭部から鉄尾部に向かって薄くし、蹄角度を低めるものを薄尾蹄鉄という。

 

<歯鉄>

歯鉄(スパイク鉄)▲(左)上から撮影したもの(右)側面から撮影したもの

スパイク蹄鉄とも呼ばれる。地面に接する面に滑り止めの突起がある蹄鉄。突起の位置は鉄頭にあるものや鉄尾の方にあるものなど様々なようだ。安全面や芝へのダメージの問題から、日本では2㎜以下のものしか認められていない。

<豆知識>
ディープインパクトは1mmのスパイク蹄鉄を履いていた。また、蹄が強くなかったため接着装蹄という蹄釘を使わず接着剤を利用した装蹄を行っていた。

 

<ハイベスト蹄鉄>

ハイベスト蹄鉄

着地の際の衝撃吸収材として接地面側の釘溝に沿ってウレタンゴムを入れ、帯状に接地面と平らになるように充填したもの。肢蹄疾患のある馬に多く使用される。

 

そのほか、ノーマルの蹄鉄に工夫を施す以下のような方法もあります。

 

<ヒールリフト>

競走馬 ヒールリフト

▲(左)上から撮影したもの(右)側面から撮影したもの

通常の蹄鉄の蹄踵部と蹄負面と蹄鉄の間に、ウレタンゴムを入れたもの。用途に応じて蹄角度を調整する。

 

<ヒールパッド>

競走馬 ヒールパッド

通常の蹄鉄の下にウレタン製のパッド敷き、蹄底が傷ついている馬、蹄叉腐爛(汚物が原因で蹄叉角質が腐食し、悪臭をはなつ状態)の馬に使用する。

 


 

いかがでしたか?

『蹄鉄』とひとことで言ってもたくさんの種類や工夫があり、装蹄師の皆さんは馬1頭1頭に合わせた蹄のケアをしているんですね。そんな馬の蹄のスペシャリスト、装蹄師さんの仕事の様子を収めた動画をPacallaのYouTubeチャンネルで公開しています!よろしければぜひご覧ください。

 

 

<写真提供・その他ご協力>
・公益社団法人 日本装削蹄協会

 

<参考文献・サイト>

・金シャチけいばNAGOYA(2022年2月閲覧)

・公益社団法人 日本装削蹄協会公式サイト

・JRA競馬学校教科書「馬学 上巻」/日本中央競馬会馬事部(1994年)

・JRA 競馬用語辞典(2022年2月閲覧)

・4 調査・研究 蹄病をもっとよく理解するために/日本中央競馬会 競走馬総合研究所 臨床医学研究室 主任研究役 桑野 睦敏(2022年2月閲覧)

 ・【ズームアップ】馬の脚を“護る”装蹄師- 予想王TV@SANSPO.COM(2016年掲載記事)

・そうだったのか!今までの見方が180度変わる 知られざる競馬の仕組み/橋浜保子(ガイドワークス/2016年)

・栗東蹄鉄公式サイト(2022年2月閲覧)

・優駿『ファンにやさしい馬学講座』シリーズ2013年11月号

 

 

    記事をシェアする

    pagetop