重賞制覇レポート『ソリストサンダー』村田牧場 編(武蔵野S)

2021/12/17

カテゴリ:馬のはなし / 色々なはなし / 人のはなし / Pacallaオリジナル

今回の重賞レポートはピンチヒッターとして、望田 潤が担当させていただきます。

村田牧場の村田康彰さんとは旧知の仲ということで、通常の重賞制覇レポートとは違う、対話形式の取材、記事にさせていただきました。読者の皆様、よろしくお願いいたします。


 

望田:武蔵野S優勝おめでとうございます! かしわ記念が本当に惜しい2着で、南部杯も3着までよく差してきて、G1でも勝ち負けするぐらい力をつけてきていましたが、ようやく無冠の帝王返上ですね。

 

村田:ありがとうございます。ソリストサンダーは、2016年のオータムセールで現在の馬主様(村上稔氏)にご購買いただいた馬です。当場では昼夜放牧しながらセリ馴致するのですが、ソリストサンダーも同様のスタイルで馴致してセールに臨みました。結果、セールではこちらが設定した台付価格よりはるかに高い評価で落札していただきました。

今回のソリストサンダーの重賞制覇に関しては、立派な馬体に生まれてくれたこともありますが、当場から巣立った後も育成場や預託先の厩舎などに恵まれました。1年以上の休養が余儀なくされた時期があっても、ここまで立派な成績を収めることができているのは、オーナーサイドのご理解があってこそだと思います。馬主様をはじめ関係者の方々には本当に感謝しています。

 

望田:ソリストサンダーはダート1200の未勝利戦を勝ち上がったときから、もっと距離が延びたほうがいいだろうというイメージがあって、東京1600のプラタナス賞に出てきたときはNETKEIBAの予想でも◎にしました。結果はルヴァンスレーヴに完敗の2着で、「いい競馬したのに、怪物が1頭いましたね…」と村田さんと慰め合っていたのがついこの間のようです(笑)

 

村田:トビーズコーナーの産駒にしては四肢の筋肉量が多かったですし、気性が勝ったところもあったためか、最初のころダートの短めのところを中心に使われていましたね。結局、ダート1200で勝ち上がることができましたが、私自身もソリストサンダーは1200のタイプではないと思っていました。プラタナス賞を使うとなったときは「こちらのほうが適距離だから勝ち負けするかも」と色気を持ってレースを見ていたのを思い出します。

実際、レースではスタートも決まって、道中では終始手応えが良さそうに見えました。直線に向いても馬なりで先頭に立ったので「これは勝つかも!」と思ったのも束の間、ルヴァンスレーヴの手応えはそれを遥かに凌ぐもので、結局ノーステッキでソリスト以下を突き放しての完勝。レース後、LINEで望田さんに慰めてもらったのを思い出します(笑)

ただ、ルヴァンスレーヴのその後の活躍もすごかったので、2着したソリストサンダーもいずれ上のクラスで活躍できるかもと期待はしていました。このときのルヴァンスレーヴの勝ちっぷりは今でも覚えています。そのときの衝撃が強烈だったのか、種牡馬入りした初年度から早速ルヴァンスレーヴを種付けしちゃいました(笑)

 

望田:ソリストサンダーは2歳時から素質は見せていたものの、本格化したのは5歳夏からで、トビーズコーナーの産駒は遅咲きの傾向があるのかもしれませんね。

 

村田:ソリストサンダーの場合、このプラタナス賞後に右の飛節を骨折してしまったんです。それが原因で1年以上の休養を余儀なくされました。ただ、休養先の育成場の社長からは「500万下の馬ではない。期待してる馬なので、時間がかかってもしっかり治したい」と言われていました。それほどこの馬の能力を評価してくれてありがたいと思うのと同時に、オーナーサイドには申し訳ない気持ちもありました。

実際、ソリストサンダー骨折の一報を聞いたとき、もっと強い馬づくりをしなければとの思いを改めて強くしたのを覚えています。もともと暖かい時期だけ生産馬の昼夜放牧をしていましたが、放牧地の拡張が終わって準備が整った時期と重なったこともあり、この出来事も一因となって冬期も昼夜放牧を実施することにしました。その1期生が、国内外で重賞を3勝してくれているディープボンドであり、現在OPクラスで好走してくれているフルデプスリーダーが出た現4歳世代なんです。

トビーズコーナー産駒の成長傾向としては、先に骨格が成長して重心が高めに見せる馬が多く、あとから筋肉などが付いてくる印象があるので、若駒時には体を持て余しながら古馬になるにつれて完成するタイプが多いのかなと思います。1歳セールでトビーズコーナー産駒を見たり、当場でトビーズコーナー産駒を生産した際も同様の傾向が見受けられます。

ただ、ソリストサンダーに関して言えば、セール上場時の写真を見てもらえばわかりますが、馬体のほうはそれほどスラッとしていなくて、ある意味トビーズコーナー産駒らしくない馬体だったかもしれません。それでも、競走成績のほうはやはり古馬になっての完成でしたね。

ソリストサンダー▲ソリストサンダー(1歳時)

 

望田:トビーズコーナーはノーザンダンサー~ダンジグでも傍系のチーフズクラウンのラインで、母方は全体に北米アウトサイダー血脈が強いので、強く自己主張するタイプの種馬ではないですよね。そんなトビーズコーナーを、ニジンスキー4×4とヘイルトゥリーズン4×4をもつラヴソースウィートに配したのがまず慧眼だと、血統表を見て改めて思いました。

 

村田:たしかに、ダンジグ系は最近ではウォーフロントの系統が有名ですが、基本的にこの系統は自身の特徴を子孫に強く伝える系統だと思います。ただ、ダンジグ系のなかでもトビーズコーナーが属するチーフズクラウンの血を通ると芝やダート、距離の長短などさまざまなタイプを出す印象です。加えて、トビーズコーナー自身は5代アウト配合ですから、なおさら自己主張の薄い種牡馬なのでしょう。

私は、種牡馬との配合を考える際には、その種牡馬の血統を何代も遡って詳しく調べることにしています。トビーズコーナーの血統を調べたとき、配合する繁殖牝馬のほうは強めのクロスを持っているくらいのほうが良さそうだと考えて、ニジンスキー4×4とヘイルトゥリーズン4×4をもつラヴソースウィートに配合することにしたんです。

ラヴソースウィートは馬っぷりの良い馬体で、スペシャルウィークが伝える伸びのあるスラッとした馬体と、母父ブライアンズタイムが伝える腹袋のしっかりしたコロンとした馬体的特徴が程よく混ぜ合わさった馬体をしていました。また、胴の厚みがしっかりしていて、このあたりはニジンスキー4×4の影響があったのかなと感じています。この胴の厚みという特徴が、やや薄めの産駒を出すトビーズコーナーの特徴を補完するのに最適でした。結果として生まれたソリストサンダーは、こちらの思い通りに母方の胴の厚みを受け継ぎながら、ちょうど良い馬体に生まれてくれました。

 

 

望田:ソリストサンダーはフランス産のキソティックにさかのぼる牝系ですが、キソティックはウェアユーリードの孫娘ですから名牝系ですね。導入されたのは、近親のコマンダーインチーフがちょうど英ダービーを勝った頃ですかね。

 

村田:キソティックは他の牧場さんが海外から導入した繁殖牝馬だったのですが、そこから縁あって当場で買い取らせていただいた馬です。彼女はコマンダーインチーフやウォーニング、レインボークエストなどが出ている世界的な名牝ウェアユーリードの孫にあたります。

そして、彼女の父は日本で抜群の適性を示したカーリアンです。カーリアンの父ニジンスキーの産駒は力強くて胴伸びのある雄大な馬格が特徴的ですが、その分、日本ではちょっと重いかなという馬体が多かった印象です。でも、カーリアンの血を経由すると、産駒たちは一気に素軽い馬体の馬が多くなります。これはおそらく、カーリアンの母方に芝馬のラウンドテーブルや、北米血脈のなかでもスピードを豊富に伝えるヘイルトゥリーズンの血が入っているからでしょう。

ただ、キソティックの馬体はカーリアンの仔にしてはあまり胴伸びがなく重心も低めで、どちらかと言えば短距離向きのスピード体型でした。キソティックの半兄シーニックが海外で7FのG1を勝っていることからも、このきょうだいはスピード優位のタイプなのだと思います。おそらく、キソティックの母父フーリッシュプレジャーの影響が強く出ているのでしょうね。フーリッシュプレジャーは米2歳チャンピオンになるほどのスピード馬でしたから、キソティックはその血統的、馬体的影響を受け継いだのかもしれません。

キソティックには血統的にも期待していたので、当時のトップサイアーであるサンデーサイレンスやブライアンズタイムを配合して、JRA3勝のオルテンシアや同じく3勝のキソティックラヴなどが出てくれました。どちらもヘイルトゥリーズンをクロスさせて、日本向きの素軽いスピードの遺伝を期待して配合したのですが、やはりキソティックはフーリッシュプレジャーの影響が強いのか、サンデー産駒のオルテンシアは芝のマイラーに、キソティックラヴに至ってはブライアンズタイム産駒ながら短距離馬に出たように、クラシック適性というよりはスピード優位の産駒を出す印象でした。

 

望田:テンビーの娘ビッグテンビーがローレルゲレイロを産んだり、村田牧場には昔からカーリアンの血を引く馬がよくいた印象があります。

 

村田:キソティックの父カーリアンについては、総じて素軽いスピードを伝えることから日本向きで、当場でも好んでこの血を活かすような配合をしています。カーリアンは父方がノーザンダンサーに遡る一方、母はプリンスキロ系×ロイヤルチャージャー系の組み合わせなので、この母の血は日本で実績のあるナスルーラ×プリンスキロの組み合わせから成る血脈と相性が良いと考えています。例えばダンシングブレーヴはカーリアンと同じ血統的特徴を持っていますが、ダンシングブレーヴの息子のキングヘイローにカーリアンの孫であるビッグテンビーを配合して、当場からG1馬ローレルゲレイロが出てくれました。血統的にはダンシングブレーヴ≒カーリアンの組み合わせを活かした配合になります。

 

 

村田:ソリストサンダーの血統でも、トビーズコーナーの3代父チーフズクラウンがやはり同様の血統的特徴を持っているので、チーフズクラウン≒カーリアンの組み合わせは意識しました。5代アウト血統のトビーズコーナーとの配合を考えるうえで、近い世代のチーフズクラウンの血をニアリークロスさせる配合手法は有効だと思っています。

 

望田:なるほど、トビーズコーナー産駒でJRAで2番目に賞金を稼いでいるのはヒダカファームさんのヒイナヅキなんですが、チーフズクラウン4×4ですね。3番目に稼いでいるサウンドマジックは母父キングヘイローです。

村田:今年は母父キングヘイローが重賞戦線で活躍していますよね。キングヘイローは父がダンシングブレーヴで、母がグッバイヘイローという超良血馬ですから、母父として成功する可能性は非常に高いと思っていました。キングヘイローの場合、ドローン≒ヘイロー≒サーアイヴァーというニアリークロスも後世に伝える血脈としては魅力的です。彼の種牡馬シンジケートに参加していたこともありますが、当場ではキングヘイローを父に持つ繁殖牝馬を複数所有していて、そのうちの一頭ゼフィランサスは重賞勝ち馬ディープボンドを産んでくれています。

 

望田:シーザリオの仔が競走馬としても種牡馬としても繁殖としても大成功しているように、スペシャルウィークの肌は本当に優秀ですよね。村田牧場の生産馬もよく走っていて、ソリストサンダーの他にもJRA7勝のオープン馬ラインルーフなどもいますね。

 

村田:以前、Pacallaを通じて望田さんに取材していただいたときも母父スペシャルウィークに関して言及させてもらいましたが、スペシャルウィークの父は名種牡馬サンデーサイレンスですし、母方にもマルゼンスキーなど質の高い血脈が多く入っています。質の高い血脈を多く持つことは母父としての成功条件の一つだと思うので、私の考え方からするとスペシャルウィークは母父として成功すべくして成功している印象です。ソリストサンダーやラインルーフという2頭の当場生産のOP馬はいずれも母父スペシャルウィークですが、彼らの近親の競走成績の比較からしても、この母父の遺伝的影響は大きいと考えています。

BMSランキングというものが存在するように、私も含めて多くのホースマンが「母父」という概念がとても重要な要素だと理解しているはずです。ただ、その一方で「母父が〇〇だからこの馬は走る」とすぐに答えが導き出せるほど、血統・配合というものは簡単なパズルではありません。産駒が優れた競走成績を収めるためには種牡馬の血統や馬格、気性が母父と相性が良いことに越したことはないですし、母の母方の血統も質が高いほうが成功しやすいでしょう。活躍馬の誕生には多くの要素が絡んでいますし、それだけに強い馬づくりは難しいと言えますね。

 

望田:「重賞制覇レポート」で村田さんに取材させていただいたのはこれが3回目になりますが、毎回お話を伺うたびに、出るべくして重賞勝ち馬が出たのだと感心し納得させられます。業界からも大いに注目されている「村田の血統論」を、今回も理路整然と包み隠さず語っていただき、感謝の言葉もありません。武蔵野S優勝、本当におめでとうございました。

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