重賞制覇レポート『エイティーンガール』庄野牧場編(キーンランドカップ)

2020/09/20

カテゴリ:馬のはなし / 色々なはなし / 人のはなし / Pacallaオリジナル

小雨がターフを濡らす、8月開催最終日の札幌競馬場。

キーンランドCに出走したエイティーンガールは最後方をキープ。3角過ぎから進出を開始すると、現地で見守った庄野牧場の代表、庄野宏志さんは思わずつぶやきました。

「いいよ、いいよ」

絶好の手応えのまま直線で大外に進路を取ると、「よし、行った!」。

 

そこからは無我夢中で叫んでいました。

「差せーーーーーーーっ! 差せーーーーーーーっ!」

人もまばらな札幌競馬場の馬主席でマスク越しの声が響き渡りました。

 

その声に背中を押されるように、ラスト200メートルあたりからさらに鋭さを増すエイティーンガールの末脚。1頭、また1頭と、前を全て交わすと、最後は1馬身1/4差をつけ、初タイトルが待つゴールへ飛び込みました。

 

管理する飯田祐調教師は嬉しい平地重賞初制覇。そして、生産者の庄野牧場にとっては29年ぶりのJRA重賞制覇となりました。

「叫んでいたのは僕だけですね。けっこう叫びました(笑い)。何かふわっとする感じですね」

 

庄野さんは、すぐに送られてきたというJRAからの賞状を大事そうに手にして表情を崩しました。久しぶりのタイトルにSNSにはお祝いのメッセージが殺到。祝福の電話も続き、飯田祐調教師と連絡が取れたのはレース後2時間近くが経過した頃だったそうです。庄野牧場の玄関にはそのエピソードが容易に想像できるほど、たくさんの花が届いていました。

玄関を埋め尽くす花

飯田祐調教師から贈られた胡蝶蘭

前週の北九州記念は弟である庄野靖志調教師が管理するレッドアンシェルが快勝。庄野家には嬉しいニュースが続きました。庄野牧場の重賞制覇は1991年の中日新聞杯を制したショウリテンユウ以来のこと。当時は、現調教師の西浦勝一さんが手綱を取っていました。

「僕はショウリテンユウを牧場で見ていないんです。だけど、エイティーンガールの場合は種付けからやりましたからね」

 

庄野牧場は父の昭彦さんが水田だった土地を牧場に変え、アラブ1頭から始まりました。現在の日高道の終点、日高厚賀インターチェンジを降りるとすぐに目に入ってくる好立地です。2002年に受け継いだ宏志さんにとっては実質初めての重賞制覇ともいえるものでした。

「重賞を取れるなんて、最初からそういう思いはないですよ。頑張って走って、だんだん力をつけて、重賞に出てくれて、重賞で2着(シルクロードS)があって、そして勝ってしまったって感じです」

飯田祐調教師のもとで大事に使われながら、少しずつ力を蓄えていったエイティーンガール。自身が手がけたことによる達成感はあっても、まだ実感として沸いてこない。庄野さんの表情には複数の感情が入り混じっているように感じました。

 

エイティーンガールの母、センターグランタスは弟の庄野靖志調教師が管理していたこともあって、庄野牧場で繁殖生活を送ることになりました。しかし、繁殖入りしてサクラバクシンオー、カンパニーと交配したものの、受胎には至りませんでした。そこで、近くの牧場に預けて環境を変えてみたところ、ファルブラヴとの初子を受胎したといいます。

産まれたばかりのエイティーンガール

エイティーンガールを含め5頭の産駒がJRAでデビューしていますが、今のところ中央で勝ち星を挙げたのはエイティーンガールのみ。2017年のサマーセールでは400万円(翌年のブリーズアップセールでは1100万円で落札)とお買い得価格で落札された5番子が“孝行娘”となりました。

「やんちゃというか、おてんばで、ハミをかけるのも苦労したんです。放牧に出すときにも、馬房でつかませないし、放牧地でもつかませない。ただ、馬っぷりは良かったですよね」

若い頃は気性的になかなか太れなかったようですが、キーンランドC出走時は456キロ。デビュー時の422キロから30キロ以上も馬体を増やし、「背が伸びて幅もグッと出たし、全体的にガチっとした」と庄野さんが目を細めるほど成長を遂げました。

半妹となる1歳のワールドエース産駒はオータムセール(10月19~20日)に上場予定で、こちらにも期待がかかります。

エイティーンガールの半妹の1歳

エイティーンガールの半妹の1歳。右のお腹にはワンポイントがあります

終始、にこやかだった庄野さんが唯一悔しそうな表情を見せたのが、表彰式の話題になった時でした。札幌の重賞は通常、芝コースで口取りが行われますが、新型コロナウイルスの影響で中止。さらに表彰式も行われていないため、初の表彰台に上がれず、生産者に贈られる札幌競馬場独自のターフィーのぬいぐるみもありませんでした。「芝コースでの口取りができなかったのは悔しいですねえ。表彰台も自分の生産馬では上がったことがなかったので」と非常に残念そうでしたが、こちらは来年の楽しみとなりそうです。

 

キーンランドCを勝ち、スプリンターズSの出走権を手にしたエイティーンガールは栗東トレセンに戻り、大舞台へ向けて調整中。小学校の時から勝負服の絵を描き、日曜の野球の試合にはたんぱのラジオで平場のレースから中継を聞いていたという競馬少年が40年の時を経てつかんだ栄光は、新たな夢へと続きます。

エイティーンガールの栄誉をたたえる表彰状

庄野牧場の放牧地

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