重賞制覇レポート『デアリングタクト』ノルマンディーサラブレッドレーシング 編(桜花賞 G1)

2020/04/27

カテゴリ:馬のはなし / Pacallaオリジナル

キョウエイマーチが制した1997年以来の雨中決戦となった桜花賞。
後方から脚を伸ばしたデアリングタクトが泥をかぶりながら突き抜け、ノルマンディーサラブレッドレーシングに待望のG1初制覇をもたらしました。3戦3勝でのVはハギノトップレディ以来、40年ぶりの最小キャリア。

岡田スタッドグループ代表の岡田牧雄さんは、この歴史的な勝利が特別な1勝だったことを明かします。レース後には兄でマイネル軍団の総帥である岡田繁幸さんからこんな電話があったそうです。

「(繁幸さん所有の)スマイルカナも3着に頑張ってくれたし、俺が代表で親父(蔚男さん=しげおさん)に線香をあげて報告しといたからな」

中央、地方で生産馬、所有馬によるG1勝利を積み重ねてきた岡田一族ですが、クラシックは初制覇。「親父はクラシックを夢見ていたから、それを兄貴は感じていたのかな。やっぱりクラシックは違うね」。そういって目尻を下げた牧雄さんは、部屋にずらっと並ぶお祝いの花を見つめました。

お祝いの花とともに

 

日高町の長谷川牧場が生産したデアリングタクトは2年続けてセレクトセールに上場。当歳セッションの2017年は主取りになりましたが、翌年の1歳セッションでノルマンディーファームが1200万円で落札しました。「脚長でひょろっとしていて、繋ぎが立っていて、肩も立っていた。ただ、ああいう馬は変わるんだよ。私は将来、良くなるだろうなという馬を買うから」

牧雄さんは、伸びしろをたくさん残しながらも、光るものを感じたことを独特の言い回しで教えてくれました。「背中に力があって、飛節が柔らかいからギュッと伸びたもんね。歩かせた時のスピードも他の馬より速かった。手先が硬いけど、歩くのが速い。ダクに入っても同じように硬かったらダメだけど、キュンキュン沈む馬は大丈夫。筋繊維が細やかで、筋肉が優秀なんだよ」

1歳時のデアリングタクト(2018年10月31日)ノルマンディーサラブレッドレーシング提供

2歳時のデアリングタクト(2019年8月30日)ノルマンディーサラブレッドレーシング提供

 

実際、育成に入っても評価は抜群だったそうです。
「追い切りをやると誰も追わない。先着すればいいと思っているから。こちらは2馬身、3馬身と引き離す姿を見たいんだけど、本気で走っちゃったら止まらないと言うわけ。相当なパワー、能力だよね。乗っている人が気持ちいいと言っていたからね」
背中や動きから伝わってくる非凡な能力。クラブの募集でも同世代で一番申し込みが多かったといいます。

桜花賞は上がり3ハロンが38秒1と、非常に過酷な馬場で行われましたが、それを攻略できるタフさは育成時代に過ごしたえりもで身に着けたのかもしれません。昼夜放牧を行っているえりも分場は日高に比べると厳しい環境です。「熊が出る、アライグマも出る、鹿だらけだから夜中じゅう動いているんだ」と牧雄さん。

「えりもは1区画が30町歩くらいあってすごく広い。馬たちはそこを動き続けているから、朝に見に行った時には疲れてグタッと寝ているんだ。厚賀とか普通の10町歩の放牧地なら歩いていくと馬たちは立ち上がるけど、えりもは首を上げるくらいで無視されるからね。首をまたいでも起きないくらい(笑い)」

えりも分場での育成で疲労が出た馬は日高に移動するそうですが、デアリングタクトはその期間に一度も戻ることがなかったそうです。「体力があったんだろうね。うちの馬が丈夫になって走るようになったのはえりもを使うようになってから」と牧雄さんは指摘します。岡田スタッドグループの馬たちが不良馬場など過酷な馬場で好走することが多いのは、厳しい環境を乗り越えてきたからかもしれません。

3戦無敗で1冠目を制したデアリングタクト。初戦は直線でスムーズさを欠く場面がありながら、残り150メートルで一気に抜け出して快勝。エルフィンSは4馬身差の圧勝で桜花賞候補に名乗りを上げました。そして、前残りの流れを後方から突き抜けた桜花賞。そのどれもがインパクトのあるレースでした。

「桜花賞は4コーナーを回った時にあきらめたもん。“カナ、差し返せー!”って大きな声でスマイルカナを応援したよね。前の2頭で決まって、(デアリングタクトは)3着が限度っていうのが普通のレース。あの馬場で、あの位置から届くなんてないよね。次元が違うような気がした。1戦目、2戦目、3戦目と明らかに強くなっている。思っている以上の馬に、3度続けてなっているよね。こんな一戦一戦驚かされるような馬はいない」と牧雄さんは目を丸くします。

日高町役場に飾られたデアリングタクトの垂れ幕

 

牧雄さんが「自分の中に残る馬」と挙げるのが、サイレンススズカ、ディープインパクト、アーモンドアイの3頭だそうです。
「アーモンドアイはディープインパクトに似ているし、ディープインパクトはサイレンススズカに似ている。それに近づくくらい、(デアリングタクトも)いいところが似ている。先天的なバネがあるよね。無事にいって、秋にはアーモンドアイに近づくんじゃないか。そんな夢まで見ている」
日本を代表する馬たちを引き合いに出したことが期待の大きさを示しています。

今後は回復次第で日本ダービーも選択肢に入っていますが、牝馬2冠を狙うプランが本線。
「もう一回、オークスで驚かせてくれないかな」
一走ごとに膨らんできた牧雄さんの夢に向かって、デアリングタクトが府中へと乗り込みます。
当歳時のデアリングタクト(右)長谷川牧場提供

当歳時のデアリングタクト(右)長谷川牧場提供

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