重賞制覇レポート『タイトルホルダー』岡田スタッド 編(天皇賞・春)

2022/05/18

カテゴリ:馬のはなし / 色々なはなし / 人のはなし / Pacallaオリジナル

「春天を取りたいよね」
タイトルホルダーが昨秋の菊花賞を制した後、岡田スタッドグループ代表の岡田牧雄さんがつぶやいたこのひと言が現実のものとなりました。

 

 

直前の人気はディープボンドに次ぐ2番人気でしたが、パドックで牧雄さんは確信したそうです。

「すげえ。別馬のように変わったわ。この馬本来の体になれば今回も勝つような気がするし、次からも相当結果を出せるな」

その前の日経賞は年頭に右後肢の違和感があったため一頓挫明けの一戦となりました。レースでは潜在能力の違いで菊花賞馬の貫禄を見せましたが、下見所の姿は満足いくものではなかったそうです。
しかし、ひと叩きされた今回は牧雄さんも目を見張る良化を遂げていました。

「日経賞の時は能力でどこまでやれるのかと思っていたけど、その時とは全然違っていて驚いた。枯れてきて、完成形に近いくらい、研ぎ澄まされた体になってきた。日経賞と今回でこんなに変わるのは、過去にもあまりないよ」

牧雄さんの確信は結果へとつながっていきます。

ゲートを出て1完歩目でわずかなリードを取ったタイトルホルダーは、8枠16番の外枠から横山和騎手が押してハナへ取り付きました。労せず先頭に立つと、1000メートル通過が60秒5のラップを刻みました。

「馬場(稍重)を考えたら少し速いかと思ったけど、馬は気持ちよさそうに走っているし、ジョッキーが理想的な姿勢で、腕にも力が入らないで乗っていたからね」

牧雄さんが安心して見ていられたように、5馬身ほどの差をつけて1周目のスタンド前へと入りました。
次の1000メートル通過のラップは63秒1。最初の1000メートル通過時よりもペースを落としたため、後続との差は詰まりましたが、そのぶん息が入って手応えには余裕十分。
3コーナー過ぎからは、ジョッキーが手綱を押す他馬との手応えの差が目立ち始めました。直後の内を走っていたカラ馬(シルヴァーソニック)には冷や冷やしましたが、最後まで自分のペースを貫いて後続をどんどん突き放し、最終的な着差はなんと7馬身。
天皇賞・春での7馬身差以上の勝利は、横山和騎手の父・横山典騎手が勝利に導いた04年のイングランディーレ以来です。

「2着馬(ディープボンド)はずっと追っていたから。3着馬(テーオーロイヤル)は3~4コーナーで手綱に余裕があったけど、いざ4コーナー回って追い出したらスッと離したから。菊花賞と春天だけは取りたいって言っていたからね。取れるっていう自信があるから言えるんだね。メジロ牧場を目標にして長距離馬をつくろうとやってきて、その中の2つのレースを取れたのは何よりもうれしいよね」

タイトルホルダーを牧場時代から長距離馬と見抜いていた牧雄さんは、目標にしていた2つのG1をきっちりものにして頬を緩めました。

「1、2、3着の馬は日高の馬だったよね。それもうれしい」

2着ディープボンドは新冠の村田牧場、3着テーオーロイヤルは浦河の三嶋牧場出身。日高生産馬が上位を独占したことも笑顔がはじける要因となりました。

 

▲タイトルホルダーの父ドゥラメンテ。急逝が惜しまれる

 

ゴールの瞬間、左手を大きく上げた横山和騎手。その姿はイングランディーレで04年天皇賞・春を制した横山典騎手、そして同じくタイトルホルダーで昨年の菊花賞を勝った横山武騎手の姿とダブって見えました。

「あのファミリーは芸術家タイプ」

こう評する牧雄さんは、横山典騎手の父である横山富雄元騎手と旧知の仲だそうです。

「ノリ(横山典騎手)のおしめも取り替えたりしていた」という牧雄さんにとって、和生騎手や武史騎手は孫のような存在かもしれません。

「物事を突き詰めて極めたいという意識が強い。1頭1頭、真剣に把握しようと努力する。だから、あのファミリーを信頼している。徹くん(栗田調教師)はノリに抱きつかれたと言っていたよ。相当うれしかったんだろうな」

和生騎手は、横山富雄騎手(71年メジロムサシ)、横山典弘騎手(96年サクラローレル、04年イングランディーレ、15年ゴールドシップ)に続く親子3代での天皇賞・春制覇。横山典騎手はレース後、検量前でクールダウンしていたタイトルホルダーと厩務員さんに祝福の声をかけにいく姿がありましたが、横山兄弟で菊花賞、天皇賞・春を勝ち取った牧雄さんの表情にも喜びがにじんでいました。

 

▲天皇賞・春の勝利に笑顔を見せる岡田牧雄さん

 

天皇賞・春にはタイトルホルダーの半姉、メロディーレーンも参戦しており、中団から運んで9着。

「超のつく長距離馬たちの中でだよ。牝馬が1頭だけで、ありえないよね」。

菊花賞のように掲示板にこそ載れませんでしたが、352キロの小さな体で3200メートルを走りぬいた6歳牝馬をたたえました。母のメーヴェはタイトルホルダー以降、産駒に恵まれませんが、送り出した産駒2頭は長距離戦線で活躍。改めて岡田スタッドを支える名繁殖牝馬であると思い知らされます。

 

▲エクリプスホテルに貼られている新ひだかトレジャーホースカードのポスター。左からメロディーレーン、中メーヴェ、右タイトルホルダー。

 

長距離界のトップに君臨したタイトルホルダーは、「ロンジンワールドベストレースホースランキング」でレーティング121を獲得し、5位タイにランクイン。日本馬では最高位を獲得しました。日本の長距離界を制圧し、次に狙うのは宝塚記念です。

「血統背景から見ても自分の理想に近い馬。ただ、種馬と考えた時に2400メートルや2500メートルのG1をひとつ取らないと」

種牡馬としてより評価される距離体系にターゲットを定めます。
同期の日本ダービー馬シャフリヤールはドバイ・シーマクラシックを制し、次走はロイヤルアスコット開催のプリンオブウェーエルズSと海外を連戦するため上半期の再戦はかないませんが、皐月賞馬エフフォーリアとはリベンジマッチの可能性も。

「現4歳牡馬はめちゃくちゃ強い世代だと思っている。10年に一度の世代のような気がしている」

タイトルホルダーは今秋の凱旋門賞に登録済み。世界最高峰の舞台への出否は未定ですが、中距離となる次走が今後へのターニングポイントになりそうで、目が離せません。

 


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