重賞制覇レポート『ミスニューヨーク』高昭牧場編(ターコイズステークス)

2022/01/25

カテゴリ:馬のはなし / 色々なはなし / Pacallaオリジナル

これまでの鬱憤を全て晴らすかのように、師走の中山を一気に切り裂きました。道中はポツンと離れた最後方から、310メートルの短い直線でごぼう抜きしたミスニューヨーク。ターコイズSのタイトルを手中にし、17戦目にして待望の重賞初制覇を果たしました。

 

 

 

高昭牧場にとっては、8月のレパードS(メイショウムラクモ)に続く2021年の重賞2勝目で、上山貴永専務取締役は声を弾ませます。

「4コーナーで、さすがデムーロさんだと。2、3着はあるかなと思いましたが、まさか勝つとは。伸びが全然違いました。かなり気持ちのいい勝ち方で、爽快感がありましたよね」

その前の府中牝馬Sは直線で追いづらくなるような場面がありましたが、それを吹き飛ばすような勝ちっぷりでした。

 


 

生産馬としてはムラクモ以来でしたが、馬主としては2001年のファルコンS、ルスナイクリスティ以来、20年ぶりとなりました。久々に挙げたこの1勝は大きな反響があったといいます。

「生産馬で勝つのももちろん嬉しいですが、自己所有馬だと、生産、育成とみんなが携わっているからすごく盛り上がるんです。従業員もいろんな人から『おめでとう』と言われたようで、『すごいねー』と話していました。だいぶ余韻が続きますね」

20年ぶりだけに牧場の勝負服で重賞を勝つという場面を初めて見るスタッフも多かったことでしょう。生まれてからデビュー前までと長く携わっている馬たちだからこその喜びがそこにはありました。

「競馬をやっていない親戚からも『すごいね』と言われましたね。ムラクモの時よりいろんな人にお祝いされた気がします(笑い)」
貴永専務のいつもの笑顔が、ひときわ輝いたように見えました。

 

 

ミスニューヨークの母、マンハッタンミートは高昭牧場が繁殖セールで購入したダノンエトランゼルの初子として生まれました。そして、マンハッタンミートが初めて生んだメイショウオーパス(牡7歳、父メイショウボーラー)はオープン馬となり、本賞金1億円を突破。2番子となるミスニューヨークも本賞金がミリオン超えと兄に続きました。生まれた当初は特に目立たなかったようですが、調教を始めてから変化を見せてきました。

「乗っている人も『いい馬』と言っていましたね。品があって、形のいい馬。欠点が少なかったですね。勝ち上がってきて、これは大物かもしれないと。成長力がある馬だったんですね」と貴永専務は記憶をたどって、振り返ります。

オープン馬2頭を生んだマンハッタンミートの現役生活はケガに見舞われてわずか4戦と短かったですが、母となってから自身の能力を子に伝えてきました。「お母さんは育成時代も評判が良かったんです。きょうだいは割とタイプが違っていて、それぞれの父のいいところがテイストされている感じ。子出しが良かったから結果を出すんじゃないかと思っていましたけど、思った以上でした」

 

▲在りし日のマンハッタンミート(高昭牧場提供)

 

 

マンハッタンミートはメイショウボーラー、キングズベスト、バトルプラン、シニスターミニスター、ルーラーシップと毎年違う種牡馬を迎え入れてきました。配合は上山泰憲会長が決めているそうですが、あえて種牡馬をだぶらせない理由があるといいます。

「牝馬が生まれたとしたら、牧場に帰ってくることがほとんどなので、同じ種牡馬をつけていたら血統が一緒になってしまいますからね。それに、いろんな種牡馬をつけて好走した方がセリの時にアピールポイントになるので」と貴永専務。

今年、繁殖牝馬が100頭を超える大所帯となりましたが、年々、繁殖の質が上がるとともに種付け料の予算も増やしているそうです。この好循環が一昨年、昨年と2年続けて33勝という好成績につながっています。

 

▲放牧地で縦列になって動く1歳馬

▲放牧地からこちらを見る1歳馬

▲1歳馬の放牧地

 

高昭牧場を支えてきた名繁殖馬のマンハッタンミートですが、昨年、ルーラーシップの牡馬を出産した後、1か月も経たないうちに体調を崩してこの世を去りました。

「だいぶショックでしたね。きょうだいの繁殖(ルスナイプリンセス)がいたからそれは良かったですが、それでも…。ちょうど産駒が走っていて、これはすごい繁殖だと思っていましたし、まだまだ楽しみがありましたから」。体調を崩した後に一度持ち直した時期もあったというだけに、貴永専務の無念さが伝わってきます。

 

 

もくしっ仔のマンハッタンミート2021(高昭牧場提供)

▲マンハッタンミート2021

▲マンハッタンミート2021立ち写真

 

忘れ形見となった父ルーラーシップの明け1歳は乳母に育てられましたが、すくすくと成長。昨年のセレクトセールにおいて犬塚悠治郎オーナーが4100万円(税抜)で競り落としました。

「最初から馬体がすごく良かったですね。ルーラー産駒らしくトモの張りがいいです。性格も人には従順でいて、他の馬とはけんかするような競走馬向きの感じがあるんですよね。いいオーナーさんに買ってもらえたので、うまくいってくれたら」。放牧地を活発に動く姿を見て、貴永専務は期待を隠しません。

 

▲放牧地のマンハッタンミート2021

▲乳母に育てられたマンハッタンミート2021(高昭牧場提供)

▲牧柵の間から顔を出すマンハッタンミート2021

 

亡き母に初のタイトルをプレゼントしたミスニューヨークにはこの先、大きな舞台が視界に入ってきます。
「はまったら強いですし、ある程度上に行っても通用すると思います」と貴永専務。G1の舞台で桃、緑菱山形の勝負服が躍動する日を待ちわびています。

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