Pacalla馬図鑑 フリージアン・ホース編

2021/11/09

カテゴリ:馬のはなし / Pacallaオリジナル

こんにちは! Pacalla 編集部のやりゆきこです。『Pacalla 馬図鑑』シリーズは、さまざまな馬の品種を紹介していく連載企画! 各品種の基本情報だけではなく、その品種にまつわる逸話や私の個人的な見解なども織り交ぜながらご紹介する、ちょっと変わった図鑑です。

 


世界最古の品種のひとつ、フリージアン・ホース!

今回ご紹介する『フリージアン・ホース(Friesian horse)※1』は、光り輝く青毛が美しい、世界で最も古い馬の品種のひとつです。原産地はオランダのフリースラント諸島。フリースラント諸島は、モウコノウマ、フォレスト・ホース、タルパン、ビッグ・ホースといった古代の馬の骨が多く出土している地域でもあり、フリージアンは有史以前、森林の中で暮らしていたとされるビッグ・ホースから進化したのではないかといわれています。

 

▲ヨーロッパ北西部、北海東側に連なる諸島。干潮時には徒歩でも島に渡ることができる。
(スマートフォンの場合はピンチアウトしてご覧ください)

 

この品種の誕生は紀元前500年頃とも11世紀頃ともいわれますが、壁画などで現在のフリージアンの姿形によく似た馬が描かれはじめたのは11世紀頃とみられています。また初めてフリージアンという名称が登場したのは、13世紀または15世紀頃に書かれた資料だそうです。いずれもはっきりしたことはいえず、フリージアンの歴史は不明な部分が多いんですね…。

また一時は活躍の場が失われ、その数は減少。1913年にオランダの牡馬が3頭まで減ったそうです。しかし、愛好家たちの努力により、現在はアメリカやヨーロッパなどで多く飼育されており、全世界で6万頭ほどのフリージアンが飼養されています。ですが日本ではなかなか見る機会がありません。

※1 フリージアンの後ろにあえて“ホース”と付けたのは、フリージアンという牛の品種も存在するため。以降フリージアンと記載しています。

 

体高152~164m、体重600kg前後の身軽な重種馬

次に、見た目の特徴をご紹介しましょう! フリージアンは、日本のばんえい競馬で使われる日本輓系種と同じ『重種』にあたります。アーチ型で上にすっと伸びた首を持っており、体高は152~164cm程度。なぜか体重については資料にあまり記載がないのですが、以前、東京競馬場のローズガーデンにいたフリージアンの体重の記載は600kg前後だったと記憶しています。重種には1tを超える馬もいることを考えると、かなり細身の品種といえそうですね!

フリージアンホース

▲ボディはコンパクトで引き締まっている

 

顔の形も他の重種馬たちと比べると、フリージアンは少しシャープで高貴な印象を与えます。また『スペインタイプ』といわれる、体の割りに小さな耳を持っています。たてがみは非常にボリュームがあり、ウェーブがかかっている個体も珍しくないようです。

 

フリージアンの耳は小さい

▲顔の割りに小さな耳

馬体はかなり筋肉質でボディはコンパクト。ただし、一言に筋肉質といっても、アハルテケのような砂漠の馬とは異なります。アハルテケが陸上選手のような体つきであるとするなら、フリージアンは格闘技選手のようなイメージかもしれません。また肢は丈夫で骨太、ちょっと短めといわれています(資料によってはかなり短めとも…)。球節を覆う距毛はフサフサで、尾は他の馬よりも低い位置から生えています。

 

フリージアン・ホースとして認められるのは漆黒の青毛のみ!

フリージアンとして血統登録が認められているのは、漆黒に輝く青毛のみ!ただし、まれに遺伝の問題で栗毛や鹿毛が生まれることもあるそうです。純粋なフリージアンには白徴もないといわれていますが、額に小さな星がある程度であれば登録可能。血統がはっきりしている個体であれば、栗毛や鹿毛であっても登録を認めようという動きもありますが、牝馬やセン馬のみ。種牡馬登録については青毛のみになっています。

フリージアンは、その美しさからアメリカ映画によく登場します。『レディホーク(1985)』『マスク・オブ・ゾロ(1998)』『エラゴン遺志を継ぐ者(2003)』 『アレキサンダー(2005)』『ナルニア国物語(2005)』『タイタンの戦い(2010)』など。タイタンの戦いでは、フリージアンが翼をはやし、ペガサスに扮し空を飛んでいます。

 

フリージアン・ホースの性質とその幅広い用途

フリージアンは体力があり、俊敏性に優れ、知性も高い。そして、そこに人懐っこさも備えている品種だといわれます。冒頭で述べた通り、世界でもかなり古くからいる品種であるため、フリージアンは他の品種の改良にも数多く採用されてきました。

また、これだけの要素を兼ね備えたフリージアンは、用途の幅も広く、中世ヨーロッパでは騎士の鎧を支えられる肉体と戦いに適した俊敏性を評価され、軍馬として重宝されました。
その後、農耕馬、馬車馬、乗用馬(競技馬)などで広く活用されていきます。

▲馬車の馬装をしたフリージアン。青毛のため霊柩車(馬車)を曳くのにも使われた。


フリージアンは乗馬にも使われる

▲乗馬としても使われる

 

Pacalla馬図鑑シリーズで、なるべく早くフリージアンを紹介しようと思ったのは、早い段階で紹介しておくことで、今後、登場する品種(フリージアンの影響を受けている馬たち)への理解が深まると考えたからです。ちなみにシャイアー、デールズ、フェル、ウェルシュ、コブ、オルデンブルグについては正式にフリージアンの交配が証明されている品種。

 

得意技?ハイステップトロットの秘密

フリージアンの特徴のひとつに、肢を高く上げる速歩『ハイステップトロット』※2があります。この特徴的なステップのおかげでタテガミや尻尾が波打って揺れ、フリージアンの美しさをより際立てるのだそう(ウェーブを持つ個体はひときわ美しい!)。またこの速歩を活かし、フリージアンは繋駕速歩競走にもよく使われています。

ですが、フリージアンは最初からハイステップトロットが得意だったわけではありません。フリージアンは1568年から1648年の間にあった『八十年戦争※3』で活躍していました。この戦争で、オランダ人はアンダルシアンやアラブ※4といった馬を知りました。この2つの品種がフリージアンの改良に役立てられ、ハイステップトロットが生まれたのです。(これは個人的な想像ですが、フリージアンの顔の形もアラブの血が関係してたりするのかな…?なんて思ったり)

※2 すべてのフリージアンがハイステップトロットをするわけではないそう
※3 オランダがスペインから独立を勝ち取った戦争のこと
※4 オランダ人がアラブと出合ったのは十字軍遠征説もある


▲上の動画で実際のハイステップトロットを見ることができます

 

また、現在はさらに品種改良が進み、フリージアンは『バロックタイプ』と呼ばれる、いかにも馬車馬といった頑丈なからだつきのタイプと、よりシャープで馬場馬術やショーに向いたからだを持つ『スポーツタイプ』にわかれています。海外ではどちらもメジャーだそうです。ただし、フリージアンの独特の歩様は障害飛越競技には少々不向きのよう…。

このように海外の馬というイメージが強いフリージアンですが、実は、少し前にPacalla編集部ではフリージアンの曳く馬車を運転したり、乗馬をさせていただく機会がありました。その時の様子については、以下の記事とYouTube動画にまとめておりますので、ぜひご覧ください。

 

▼フリージアンが引く馬車を自分で運転⁈ 比企の丘キッズガルテンへ行ってみた
https://pacalla.com/article/article-3212/

▼【YouTube】Pacalla編集部 フリージアン馬車の御者を体験してみた!

 

◆◆◆

いかがでしたか?
フリージアン・ホースは日本ではあまりメジャーな品種ではありませんが、ときどき国内で見かけることもある品種です。もし、身のこなしが優雅で、大きな黒い馬を見つけたら、この記事を思い出して、フリージアンかどうかぜひ確認してみてくださいね。

 

<協力>
比企の丘キッズガルテン

<参考文献>
・図説 馬と人の歴史全書 (日本語) 単行本|キャロライン デイヴィス/(1997年発行/東洋書房)
・世界で一番美しい馬の図鑑 | タムシンピッケラル(2017年発行/エクスナレッジ)
・ウマの博物図鑑|デビー・バズビー/カトリン・ラトランド(2021年発行/原書房)
・「知」のビジュアル百科 馬の百科/ジュリエット・クラットン=ブロック(2008年発行/あすなら書房)
・世界の馬 伝統と文化/スサンナ・コッティカ&ルカ・パパレッリ (2019年発行/緑書房)
KFPS ROYAL FRIESIAN(2021年11月閲覧)
FriesianCrazy(2021年11月閲覧)
【YouTube】WORLD FAMOUS FRIESIAN STALLION

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