『Sunny いのちの旅』~馬の絵本に込められた想い~

2022/12/21

カテゴリ:Pacallaオリジナル

 

こんにちは!Pacalla 編集部の鑓です。以前Pacalla で映画やテレビに出演する馬たちを扱う乗馬クラブ、GOCOO HORSE VILLAGE(以下GOCOO)を取材したのを皆さんは覚えていらっしゃるでしょうか。

この時、馬からの飛び降りシーンを実演していただいた大橋広明さん(※)が、GOCOOで現在ボランティアとして活動する大村由美子さんとタッグを組んで、『Sunny  いのちの旅』という絵本を出版されました。この絵本には馬がたくさん登場するということで、今回はお二人にお話を伺ってきました!

(※)GOCOO HORSE VILLAGEの場長であり、スタントマンとしても活躍

GOCOO HORSE VILLAGEの取材記事はこちら>

 

主人公の白馬『サニー』は大村さんそのもの!

 

―『Sunny いのちの旅』のご出版、おめでとうございます!私も読ませていただきましたが、すごく密度の濃いイラスト、ストーリーでした。どんな物語なのか、Pacalla 読者に向けて今一度ご紹介いただいてもよろしいでしょうか。

 

大橋:ありがとうございます!この物語の主人公はサニーという白馬の女の子です。サニーは子どもが好きで、小さな森で子どもたちと楽しく暮らしていました。ところがある日、サニーの頭に「命を吸いとるツノ」が生えてしまいます。
このツノによって、サニーを取り巻く環境は大きく変わってしまうのですが、そんな運命とどう向き合っていくのか、というのがこの物語の大きなテーマになっています。ツノが生えた当初、サニーはツラい現実を前に泣いてばかりいましたが、小さな馬の『たびマルコ』との出会いを通して、夢と希望を取り戻していきます。

 

―この絵本はお二人の共著ということですが、この物語が生まれた背景についてもお伺いできますか?

 

大橋:実は、サニーというキャラクターは大村さんがモデルになっていて。この絵本のストーリーは、大村さんがずっと書き残している日記をベースにした自叙伝なんです。

 

大村:私が2014年に病気になってしまって。好きだった保育士の仕事も、自分の意に反して辞めなければならなくて。ぽっかり空いてしまった時間に、何か自分でできることはないかと思って始めたのが乗馬クラブ “GOCOO HORSE VILLAGE”(以下GOCOO)でのボランティア活動でした。病気のことはしばらく黙っていたのですが、みんなに打ち明けてから、大橋さんに「私が死んだら、私のことを本にしてよ」って冗談で言ったんです(笑)。

 

大橋:大村さんは冗談っぽく言ってたんですが、僕としてはかなりまじめに受け取っていいました。その時は「そんな悲しい話いやだよ~!自分で描いてくださいよ~」なんて口では言っていて。でも、ずっとそれが頭に残っていたんです。そこから構想がはじまりました。

 

大村:ツノが生えてから、サニーはさまざまなキャラクターに出会いますが、そのひとつひとつが病気になってからの私自身の経験と重なっています。

 

子どもが大好きだという大村さん▲子どもが大好きだという大村さん

 

―そうだったんですね…。主人公のサニーは大村さんということですが、ご自身のどんなところがサニーに投影されているんでしょうか。

 

大村:うーん、いちばんは泣かないところでしょうか(笑)。

 

大橋:そうですね、人前では涙を見せないとか、人に何かを言われても自分の想いを曲げないところとか。これはもう大村さんそのもので。サニーというキャラクターは、できるだけリアルな大村さんを反映させているんです。出版社の方に、物語としてはこういうふうにした方がおもしろいとか、キャラクターに魅力が出るとかアドバイスをいただいたんですけど、サニーの性格や言動は、できるだけリアルな大村さんに近づけることにこだわりました。

 

大村:絵本の最後の方に、サニーの長台詞があるんですが、それはもうまるまる私の気持ちです。

 

大橋:他にも細かいところですが、大村さんが普段からアクセサリーをよくつけているので、密かにサニーのビジュアルに取り入れたりもしています。

 

大村:絵本の中で言葉にはしていませんが、サニーがつけているティアドロップのネックレスは『泣かない』という意味を込めてデザインしています。他にも密かに私自身だったり、私の経験だったりが反映されている箇所が多々ありますね。

 

-文字にして説明されていない部分にも、大村さんがたくさん隠れているんですね。サニー以外のキャラクターにもモデルがいますか?

                                                 

大橋:ほとんどのキャラクターにモデルがいます。僕も出ていますし、GOCOOの仲間も登場しています。あとは大村さんのご家族だったりご友人だったり、病院の先生だったり。みんな動物や植物になっていますが、雰囲気はかなり残しているので、ご本人たちが見たらどれが自分なのかわかるんじゃないかな?(笑)

 

―馬のキャラクターが多く登場するのには理由がありますか?

 

大村:実はボランティアを始めるまで、私は馬がとくに好きというわけではなかったんです。馬に関わったこともなかったですし。でもボランティアを通して、私自身が馬に救われたと思っていて。それが大きいですね。

 

大橋:人間がモデルになっている馬もいますし、GOCOO で暮らしている馬たちも出てきます。その中でもサニーにとって特別な出会いとなる「たびマルコ」という馬が出てくるんですが、たびマルコは『馬』そのものを象徴しているキャラクターで、大村さんの人生を変えることになった「馬との出会い」を表しています。

 

▲左が実際のマルコ。馬との出会いが大村さんの人生を変えた

 

かわいいだけじゃない、躍動感のある作画

 

全てアナログ作業、色鉛筆で大村さんが塗っている▲全てアナログ作業、色鉛筆で大村さんが塗っている

 

―ストーリーの厚みもさることながら、作画もすばらしいですが、イラストについては分担されているんですか?

 

大橋:僕が下絵を描いて、色塗りは大村さんにやってもらいました。

 

大村:私自身はぜんぜんクリエイティブな人ではないので、絵も描けないし、色塗りすらやったことがなかったのですが。大橋さんが一緒にやってみない?と言ってくれて、それで挑戦することにしました。

 

大橋:僕は背景をかなり細かく描きますし、今回の絵本については白地の部分もほとんどないので、塗るのは相当大変だったと思いますよ(笑)。でも、大村さんはやり始めたらとことん突き詰めるタイプ。どんなに細かい作業も最終的には完璧なものが上がってきました。

 

―色鉛筆の美しいグラデーションがとても印象に残っています。それから砂嵐のシーン!かわいい絵柄なんですけど、それだけではなくて、臨場感が伝わってきました。

 

大村:絵については何もわからない状況での挑戦だったので、最初はどうやったらグラデーションが作れるのかもわかりませんでした(笑)。一番大変だったのは夜空でしょうか。結構これはしんどくて、本当に心が折れるかと思いました…。腱鞘炎にもなりましたね…。

 

幌馬車が砂嵐に飲み込まれそうになるシーン。サニーの手を取るのが「たびマルコ」▲幌馬車が砂嵐に飲み込まれそうになるシーン。サニーの手を取るのが「たびマルコ」

 

大橋:それから、幌馬車や馬たちの馬装などはかなり調べて描いているので、馬好きの人にはぜひ見てほしいポイントになっています。馬の躍動感や臨場感を出したい場面では、GOCOOの環境をうまく活用して、そのシーンを実際の馬で再現し、カメラで撮ったものを参考資料にしながら描きました。

 

―実際に再現!これはGOCOOならではの方法ですね。

 

「たびマルコ」と「tabi marco」はリンクしている

 

▲tabi pony(旧名称:tabi marco)の様子▲tabi pony(旧名称:tabi marco)の様子

 

―絵本の中には「たびマルコ」というキャラクターが登場しますが、GOCOOには「tabi marco」というプロジェクトがありますよね。この2つはどう結びつくのでしょうか?

 

大橋:tabi marcoはGOCOOのポニー、マルコを保育園などに連れて行って、子どもたちにエサやりをしてもらうなど、馬と触れ合う機会を持ってもらうプロジェクトです。大村さんの発案で生まれました。

 

大村:ボランティアとしてマルコのお世話をしているうちに、この子を連れて保育園に行きたい、子どもたちの喜ぶ顔が見たいと思うようになって、それが自分の夢になりました。そこで立ち上げたプロジェクトがtabi marcoです。

 

大橋:病気になって保育園を退職しなければなくなってしまったけれど、でもやっぱり子どもが好きだし、マルコが好きだし。マルコを保育園に連れて行ったらきっと楽しいだろうなっていう大村さんの想いがあってのプロジェクトですね。

 

大村:以前はマルコ1頭だったので、エサやりなどの触れあいのみの活動でしたが、ポテトという少し大きいポニーが増えて、子どもたちに乗馬体験もしてもらえるようになりました。名前もtabi marcoからtabi ponyに改名し、パワーアップしています。

 

―絵本の結末も、サニーが自分の夢を叶える決意をして、たびマルコがそれを「手伝うよ!」と言って、ともに歩み出すラストでしたよね。絵本の世界でも、現実の世界でも、大村さんはマルコと一緒に夢を叶えていくんですね。

 

マルコとポテト▲マルコとポテトの可愛いツーショット

 

tabi ponyの様子。ポテトくんの背中に乗って楽しそう!▲tabi ponyの様子。ポテトくんの背中に乗って楽しそう!

 

―実際にtabi marco、tabi ponyの活動をしてみていかがですか?

 

大村:やっぱり馬に関わる機会ってあんまりないみたいで。子どもたちがすごい笑顔になりますね。子どもだけではなくて、先生たちも含めて、馬に触れるとみんな笑顔になるなっていうのを実感します。それに私自身も元気をもらえます。

 

大橋:子どもの成長も見えますしね。馬に触れなかった子が、触れるようになったり、馬に乗ることで自信がついたり。最近は養護施設に行ったりもするんですけど、普段は全然笑わない子が笑ってくれたりとか。ある高校を訪問した時も、いつもは口調がきつい子が、やさしい口調で馬に話しかけてくれたりとか。そういう効果を実際に感じています。

 

大村:とくに何をするわけでもないんですけど、馬に触れていたりとか、一緒に過ごしているだけでも癒される、落ち着くっていう、馬にはすごい力があると思いますね。

 

tabi ponyについてはこちら(公式サイト)>

 

悩んでいる人、迷っている人に『自分の選んだ道を信じていい』と伝えたい

 

―大橋さん、大村さん本日はありがとうございました!最後にPacalla 読者へのメッセージをお願いできますか?

 

大橋:『Sunny いのちの旅』は、何か問題が起こって、それを真っ向から解決する話じゃないんです。ツノが生えてしまったから、そのツノをなくすっていう話ではなくて、そのツノと一緒にどうやっていくか、自分にとっての幸せの形は何かっていうのを見つけられるよっていうお話です。なので、この絵本を通じて、ふさぎ込んだ人や迷っている人の力になれたらうれしいですね。それから、馬がこんなに登場する絵本ってなかなかないので、ぜひ馬好きの皆さんにも手に取ってほしいです。

 

大村:絵本というと“子どものもの”というイメージがあると思いますが、この絵本は子どもに限らず、大人にもぜひ読んでいただきたいです。病気だからどうこう…ではなく、いろんなことで悩んでいる人にも読んでもらえたら。サニーを通じて、だれかに「あれはダメ」「こうしたほうがいいよ」と言われて決めるのではなく、自分が選んだ道を信じていいんだよ、自分で何かを決めて選択することが大切なんだよ、ということが読者の皆さんに伝わるといいなと思います。

 

大村 由美子(おおむら ゆみこ)

(写真左)13年間保育士として働く。2014年12月 乳癌に罹患し手術にて部分切除。術後の補助療法として放射線治療とホルモン治療で経過観察。その後1年7ヶ月で再発。左乳癌再発・両側肺転移・骨転移・乳房内転移 ステージ4。現在はホルモン治療の変更のみで現在に至る。

 

大橋 広明(おおはし ひろあき)

結婚式場のコック、移動カフェ『VOYAGE』オーナーを経験後、乗馬クラブGOCOO HORSE VILLAGEの責任者として、乗馬インストラクターを務める。スタントチームGocooにも所属し、馬に乗るスタントマンとして映画やテレビなどに出演。

 

◆◆◆

 

皆さん、いかがでしたか? 子どもも大人も楽しめる絵本『Sunny いのちの旅』、馬好きの人も、そうでない人も、ぜひ手に取ってみてくださいね。また、1月には下記の通り、本作品の原画展も開催されるそう。一つ一つのシーンが丁寧に描かれた、すてきな原画を間近で見ることができるチャンスですので、こちらも足を運んでみてください!

 

【絵本『Sunny いのちの旅』原画展】

[日程]2023年1月10日〜20日

[場所]コーヒーハウス『ケトルドラム』内ギャラリースペース

    (聖蹟桜ヶ丘駅徒歩2分)

[時間]各日12時〜17時

※1月15日、16日は定休日となります。お気を付けください。

※カフェ内での展示のため、おひとり様1品のご注文をお願いしております。

https://kettledrum2021.wixsite.com/cafe

 

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