重賞制覇レポート『ホッコーメヴィウス』高昭牧場 編

2022/12/04

カテゴリ:馬のはなし / 色々なはなし / 人のはなし / Pacallaオリジナル

2021年中山グランドジャンプなどJ・G1を2勝したメイショウダッサイが故障で引退。長年王者として君臨してきたオジュウチョウサンも年末の中山大障害で現役を退く予定です。新たな時代の始まりを予感させるハードル界においてホッコーメヴィウスの存在感は大きさを増しています。

 

ホッコーメヴィウスがその名を広く知らしめたのは7月の新潟ジャンプSでした。先手を取り、ゴール前でのゼノヴァースの追い上げをしのいで重賞初制覇。6歳にしてレコードⅤのおまけつきで念願のタイトルを獲得しました。

「それまで何度も惜しいところがあったので展開がはまればと思っていて、やっとはまった感じですね。能力がある馬で毎回期待して見ていたので、うれしかったですね」

高昭牧場にとっては初めての障害重賞制覇。上山貴永専務取締役は満面の笑みで振り返りました。

3歳1月の新馬戦(芝1800メートル)でユニコーンライオンの2着。半年後に芝1200メートルで初勝利を挙げましたが、その後は伸び悩んで障害入り。そこで自らが輝ける場所を見つけましたが、デビューに至るまでには大きな壁を乗り越えなくてはなりませんでした。
高昭牧場の育成時代に腸ヘルニアを発症。治療の段階で騙馬とならざるを得ませんでした。

「僕たちも聞いたことのない症例で。何か月かは運動できないですが、脚元ではないので治ったら競走能力に影響するものではないんです。ただ、騙馬になったので筋肉とかホルモンの影響がないか、その辺は不安でした」

上山専務取締役が「まさか」とうろたえるような重い症例でしたが、生命力の強さで壁を乗り越え、障害界で花を開かせました。

母のホッコーメモリーは高昭牧場の生産ではありませんが、繁殖馬としてこちらにやってきました。現役時代は32戦して1勝のみでしたが、母として本領を発揮しました。3番子のホッコーブレーヴ(父マーベラスサンデー)は天皇賞・春3着、日経賞2着など長距離で活躍。6番子のホッコーサラスター(父ヨハネスブルグ)は短距離で勝ち星を積み重ね、オープンに上り詰めました。そして、最後の子となったホッコーメヴィウスは障害で快進撃を続けています。

▲ホッコーサラスター(ホッコーメヴィウスの半姉)

 

生んだ8頭の産駒は全て異なる種牡馬との配合。きょうだいはそれぞれタイプが違うと言います。

「あまり共通しているところはなくて、けっこうバラバラです。育成場での動きもバラバラ。たぶん種馬の良さを出す繁殖なのかな。性格はみんなお母さん似でうるさいところがありますけどね(笑い)」

ホッコーメヴィウスの父はダイワメジャー。当初は違う種牡馬を何度か種付けしましたが、なかなか受胎しませんでした。それでもその種牡馬にこだわったものの予約が取れず、たまたま空きがあったダイワメジャーに変更したところ、一度で受胎したそうです。「運命的ですよね」と上山専務取締役。何か見えない力に導かれてメヴィウスはこの世に生を受けたのかもしれません。

新潟ジャンプSを制した後、阪神ジャンプSも圧勝で連勝。東京ハイジャンプは2着に敗れたものの京都ジャンプSで7馬身差Vと圧倒的なパフォーマンスで巻き返し、ここ4戦で重賞3勝と充実一途をたどります。

「レースで見るたびに立派というか、大人になっていくというか。重賞を勝つようになってから毎回いいと思っているんですけど、それでもどんどん増しているような気がします。馬体もどんどん幅が出て立派になって、毛づやも良くなって。歩き方を見ても覇気がありますし、今気持ちもすごくいい状態なんだと思います」

画面越しでもしっかりと伝わってくる生産馬のオーラに上山専務取締役は目を見張ります。

ホッコーメヴィウスは栗東・西浦勝一厩舎からデビュー。昨年2月末で西浦厩舎が解散し、栗東・清水久詞厩舎に転厩しました。メヴィウスを障害へと導いた西浦勝一元調教師はレースで勝つと、うれしそうに一番に電話をかけてくるそうです。このインタビュー時も京都ジャンプSの優勝を祝う胡蝶蘭が華やかに咲いていました。

 

背負っているのはかつてのトレーナーの思いだけではありません。

「矢部オーナーが大切にしている血統」と上山専務取締役は言います。2013年11月に亡くなられた矢部幸一オーナーのご子息である矢部道晃オーナーがその血を絶やすことなく紡いできました。今は亡きホッコーメモリーが残したホッコーサラスター、ホッコーパフュームの牝馬2頭がさらに血脈を広げています。

「オーナーも(重賞を勝って)喜んでおられましたね。先代が亡くなってからメモリーの子が走って、ホッコータルマエの子も走っているし、今競馬が楽しいんじゃないかと思います」と上山専務取締役。全ての関係者が大事に、大事につないできた血統がこの夏、鮮やかに花を咲かせました。J・G3のタイトルを3度重ねたメヴィウスが、さらに大きな花を咲かせる日を楽しみに待ちたいと思います。

 

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