咲き乱れよ秋桜の華!

2018/10/12

カテゴリ:馬のはなし / Pacallaオリジナル

最近、何も考えずボーっと生きているので、緊張感というものと随分、疎遠になっている。
まだ若干の青年気質を残していた頃は、電車の中で隣に綺麗な人が座ってきただけで、童貞みたいに緊張したりしたが、今では何も思わず、ハナクソがエキセントリックな位置にいると平気に鼻をほじる。美人が座ろうが、大統領が座ろうが今の私には関係ないのだ。

このクソ野郎!我々を忘れるとは!

と、茶色い大きな動物に胸ぐらを掴まれた気がした。お馬さん。ボクに心臓が破裂するくらいの馬券をください。と、ありもしない幻覚に願うくらい、ここ最近馬券の成績も荒んでいる。日常の緊張感なんてゴミみたいなものだから、別にどうでもいいが、競馬場での緊張感は早急に取り戻したい。美浦栗東、全国各地のお馬さん。ボクを助けてください。と、改めて願っておく。

その昔、秋華賞と言えば、奇天烈に荒れるGIだった。初代女王ファビュラスラフィンから始まり、ブゼンキャンドルで嵐になった。手綱を握っていた安田康彦が「穴をあけてすみません。」と、苦笑いを浮かべながら語った勝利ジョッキーインタビューは、よく覚えている。
緩い秋風が吹いただけで、ゆらりゆらりと靡く秋桜の乱に、私が乗じたのは2000年の第5回だった。
本命は名前が好きだったヤマカツスズランと決まっていたが、紐はまだ決まらず悶えていた。何気なくスポーツニュース番組(確かプロ野球ニュースだった)を見ると、秋華賞のことをやっていた。番組終了間際、画面の下半分にスタッフロールが流れる中で、占い予想で売り込んで来たのであろう胡散臭い婆さんが予想(予言?)したのが4番の馬。

星の位置で運を予言する?ケッ!んなもん、そこらに転がってアクビこいてる猫にでも聞かせておけ!
と、普段占いを邪険に扱う私だが、この時はその感情が出ずに、占い婆さんの意見をアッサリと聞き入れた。

2枠4番ティコティコタック。父サッカーボーイ、母ワンアイドバンブー。春の大舞台とは無縁で、夏に頑張った上がり馬だった。

ヤマカツスズランとティコティコタックの馬連や!と、深夜に快哉を叫びようやく床に就いた。

2000年10月15日。秋華賞は快晴の空が似合うレースだが、この日はどんよりと鈍色の空が広がっていた。
人気は山内厩舎の女王二騎、チアズグレイスとシルクプリマドンナが集め、私が願いを託したスズランとティコティコは、7番人気と10番人気という穴馬評価だった。もうこの時点で、意識は無に帰してただボーっと馬を見るモードに変わっていた。

春もピンクベンツの女王誕生やな…。そんなクダラナイことをボヤいた時、ゲートが開いた。

大方の予想通りヤマカツスズランがハナを切った。番手に桜花賞馬のチアズグレイス、オークス馬シルクプリマドンナは中団外目。両女王ともに抜け目のない抜群のポジションを取っていた。
ティコティコタックは、先行集団のイン。おやおや?これは狙える位置にいるではないか。お馬さんは、どんな状況でも私に夢を見せてくれる。スズランとティコティコも、その例に漏れず、眩しい夢を道中見せてくれた。

スズランが粘り最後の直線に入る。ここからチアズ、そしてプリマドンナの強襲!…のシナリオは誰かに破り捨てられたようで、女王二騎の脚色は一息。その逆に、我が◎のスズラン女史の逃げ脚は、粘りを増していく。
チクショウ!単勝に放ればよかった!と、後悔し始めた時だった。外から黒色の帽子、オレンジのメンコ、武家の華麗なる馬乗りのDNAを受け継いだ幸四郎が来た。

関テレの馬場アナが叫ぶ。

今年も大波乱になるぞー!!!!!

間違いない。アイツはティコティコタックだ。身体がカーッと熱くなり、心臓のポンプ機能が狂う。

そのまま!そのまま!そのまま!

鋭く伸び始めたトーワトレジャーを見て、私は太古の昔より使い古されたウマキチの呪文を、初めて大声で叫んだ。

ゴール前でキッチリとスズランを捕らえたティコティコタックは、5代目の秋桜の女王に君臨した。
デビュー3年目の武幸四郎は、これが初のGI制覇。彼にしか分からないプレッシャーから解き放たれた安堵感からか、目を赤く腫らしていた。

結膜炎でね…。

歓喜の涙目ではない。病からの充血。如何にも彼らしいインタビューであった。

払い戻しを見る。馬連3万10円。腰から砕け落ち、頭のネジが弾け飛んだみたいにアハハと力なく笑った。側から見れば、コイツに触れたらアカン…と思われる状態だったに違いない。
幸四郎はデビュー3年目でGI制覇、私はウマキチ生活4年目で初めて万馬券的中。もう言葉は要らない。と、杉本清が言いそびれたセリフを呟いて、喜びを噛み締めた。
(なお、その払い戻しは翌週の菊でアグネスフライトと一緒に失くす。相手のトーホウシデンは合っていたこと、稀代の癖馬エアシャカールを鮮やかに導いた武豊の憎たらしいくらいの爽やかなスマイルはいまだに記憶にこびり付いている。)

あの日から18年。今も秋華賞と聞くと、ティコティコタックを思い出し、ゾクゾクと冒険心が疼く。
今年はアーモンドアイが絶対主役だろう。しかし、彼女の馬券を買って手堅くお零れを頂いても、何も変わらない。

ボーっとハナクソをほじり漫然と過ごす我が心臓を動かすには、冒険が必要だ。今年は攻める。そして、もうレース終わりましたよ…と、競馬会の職員さんに注意されるまで、スタンドでポツンと狂ったように笑ってやろう。いざ!秋桜の乱へ!

ゴール前で、緊張感のあるティコティコタックを聴けますように…。

 

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