当歳馬の離乳について

2018/09/27

カテゴリ:馬のはなし / 色々なはなし

秋めいた放牧地の馬たちは快適そうです。
前谷牧場では9月の中旬までに当歳馬の離乳が14頭終わりました。残すところ後4頭。
今回はこの「離乳」についてお話したいと思います。

まず、離乳するためには、子馬が十分成長していることが重要です。
子馬が母馬から離れてもストレスを感じなくなっているかどうか。

過去に昼夜放牧を実施している母子間の距離についてJRA育成牧場で調査した結果があります。3週齢までは平均5m以内に留まっていますが、それ以降は徐々に距離が広がり、約15週齢になると平均15m程度に達し、それ以降はほとんど変化しないことがわかっています。

一方、同じ放牧地にいる子馬同士の距離は、4週齢まではお互いあまり近寄らないが、16週齢以降には平均40m程度に達し、それ以降はほとんど変化しません。以上から、15~16週齢になると精神的に安定し、母馬から離れ子馬同士の群れでも大丈夫になると考えられるそうです。

また、子馬が母乳に頼らなくても発育に必要な栄養を飼料から摂取できるかどうかということも目安になります。子馬は出生後しばらくは母乳からの栄養のみで成長できますが、約2ヶ月齢から徐々に母乳からの栄養供給が減少するためクリープフィードと呼ばれる離乳食を与える必要が出てきます。離乳前には発育に必要な1~1.5kgの飼料を自ら摂取できるようになっていなくてはなりません。この養分要求量を満たす飼料を子馬が摂取できるようになる時期は4ヶ月齢前後と言われています。


※画像は当歳用の餌桶。当歳しか口が入らないようになっています。

 

前谷牧場の離乳時期の目安

① 5~6ヶ月齢(早くても4ヶ月齢以降)
② 体重220kg
③ 1~1.5kgの飼料を摂取できる
④ 8月下旬以降(吸血昆虫がいない)

以前は離乳といえば母馬の飼育環境は変更せずに子馬を離れた場所に移動するという方法や、馬房に子馬を何日か閉じ込めるのが一般的でした。この方法では子馬にとって非常に大きなストレスがかかり、離乳直後には子馬の体重が大きく減少し、減った体重が、しばらく回復しないなんていうこともしばしば見受けられました。

前谷牧場では離乳後に子馬にかかるストレスを減少させるため、子馬の飼育環境を変更せずに母馬を移動させるやり方で離乳を行なっています。

具体的には例えば6組の親子が同一の放牧地にいるとします。まず最初に3頭の母馬だけを別の離れた放牧地に移動させ、すると当然母馬がいなくなった3頭の子馬はさびしくて鳴きますが、残り3組の親子が平然と過ごしているため、極度のパニック状態には至らず、そのうち落ち着きます。この時、残す方の母馬には他の子馬に対しても寛容な穏やかな気性の繁殖牝馬を選ぶことがコツです。


※母親を抜いて、一頭だけ母親がいる放牧地

 

そして2~3週間が経ち、群れが落ち着いたところで残りの3組の母馬を移動させます。すると今度は今回母馬がいなくなった3頭の子馬が騒ぎますが、前回離乳した3頭が落ち着いているためパニックには陥りません。このように1つの群れで2段階にわけて母馬を離乳させると子馬にかかるストレスを軽減することができます。

母馬と離れ離れになった離乳後も、なるべく他の子馬と一緒に群れで行動させています。昼夜放牧を行って馬房で過ごす時間をなるべく短縮し、しばらくの間離乳した子馬2頭を1つの馬房に収容し、馬房のシェアという方法も取り入れています。


※馬房をシェアした写真。栗毛はモクシでつなぐプロジェクトのクイーンオブハルカの2018

 

以上、離乳とは子馬にとって非常にストレスのかかることには間違いはなく、ストレスを軽減するためには「群れで行動する」という馬本来の性質を良く考えた管理が重要になります。

今回は主に前谷牧場で実践している「離乳」についてお話しましたが、生産牧場それぞれの牧場に合った色々なやり方があります。

離乳一つで競走成績が格段に上がる訳ではないですが、馬にとってとても大変なストレスになる離乳。
離乳を作業の一つとして行うのではなく、馬の気持ちになって母親のかわりになって寄り添い支え、より良い環境で馬達が生活出来るよう日々考え工夫しています。

 

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