【重賞制覇】セルバーグの母、エナチャンとオーナーの物語

2023/08/04

カテゴリ:馬のはなし / 色々なはなし / 人のはなし

7月23日中京競馬場で行われた中京記念。
生産馬セルバーグが松山ジョッキーを背に鮮やかな逃げ切りで制し、重賞初制覇を飾ってくれました。

セルバーグ
父 エピファネイア
母 エナチャン
母父 キンシャサノキセキ
馬主 桑畑夏美 様
厩舎 鈴木孝志 様

中京記念の前日、桑畑夏美オーナーと中京記念出走楽しみですねと電話していました。

オーナー「明日は私の日なんです。」
前谷「偶然にもレース当日7月23日は”なつみ”で夏美オーナーの日ではないですかぁ笑」
オーナー「しかも過去の4勝は全て馬番6。同じ馬番6でなんか勝てそうだねぇ。前谷さん来れば良いのに〜。」
前谷「凄く行きたいのですが、次の日からセレクションセールが控えていて・・・。私にとっては、セリも大事なんです。」

そんな冗談を交わしながら、セルバーグ頑張って欲しいなぁと夏美オーナーとワクワクしながら電話していました。

鈴木調教師も「逃げれるようなら逃げる、前で運べればしぶといからチャンスはある。」

そんな事も話していました。

当日の朝は、お母さんのエナチャンに、「息子中京記念に出走するよ。久々の重賞だから緊張して入れ込まないかな?」と話しかけても、食べることに夢中で無視されましたが、息子の活躍応援しようねと話しかけました。

彼女(エナチャン)と出会った日、息子が重賞制覇するなんて夢にも思いませんでした…

 

遡ること数年前、日頃よりお世話になっている千代田牧場の飯田さんから一本の電話がありました。
「預託先を探している馬主さんがいるんだけど、助けてやってくれないか?すごく良い馬主さんだからなんとか助けてやってくれよ。」

この電話が桑畑隆信、夏美夫妻との出会いのきっかけでした。
その後すぐに牧場に挨拶に来てくれて、話した感じから凄く馬が好きな事を感じたので、エナチャンではない別の馬を預かることになりました。

それから間もなくして「蹄葉炎を患っているエナチャンという馬もなんとか前谷さんお願い出来ないだろうか?」と打診されたのですが、当時馬房に余裕がなく、まだ付き合いも浅かったのでお断りしました。

「前谷さんしっかり管理してくれて家の馬凄く良くなった、やっぱりエナチャンは預かってはくれないですか?どうしても、ここで預かってもらいたい」と言われ、何度か電話でやりとりしていたのを覚えています。

夏美オーナーと話をしていくうちに、エナチャンは亡くなったお孫さんの名前だったことを知りました。

ご家族が悲しみに暮れている時に、少しでも元気を出して欲しいという気持ちで、お孫さんに似た、『目がくりんくりんで、まつ毛の長い孫に似た面持ちの馬』を探した末、見つけたのがエナチャンだったそうです。

そんなエナチャンだからこそ、競走馬時代に蹄葉炎になった際も、通常なら繁殖にあげることも難しいような状況だったそうですが、なんとか命を繋いでいってほしいと延命を訴え、1年間治療の後、繁殖にあげてもらった経緯も聞きました。

夏美オーナーのエナチャンをなんとかしたいという熱意に、力になれるのか、蹄葉炎の馬を管理した事ないし不安な部分もありましたが、エナチャンへの愛情や想いを知って、なんとかしてあげたいと強く思いました。

2018年秋に母エナチャンが、前谷牧場に移動してきました。

蹄葉炎を患っている両前の蹄には、蹄鉄がついていました。
蹄骨がローテーションしていて、蹄鉄がないと痛がる状態で、蹄壁が脆く釘を打つことが出来ないので、装蹄に接着剤(充填剤・じゅうてんざい)を用いるエクイロックスと呼ばれる接着装蹄を施していました。

分娩前には体重が通常時より80~100kg重くなり、エナチャンにとっても出産する事がとても大変だったと思います。

 

日々の管理に気を遣い、苦労した事も多々ありましたが、蹄鉄が外れる度に直ぐに駆けつけてくれたり、色々と工夫してケアしてくれた装蹄師、跛行する度に治療に駆けつけて、悪化していないかレントゲンを撮影し、色々なアドバイスをくれた獣医師のお陰で、今は蹄の形もよく蹄質が強くなって、蹄鉄がなくても歩ける状態にまでなりました。

ここまでくるのに色々な人の支えがありました。

どれか一つでもかけていたら、セルバーグって誕生していなかったかもしれない。
でもそれを可能にしたのは、夏美オーナーの愛情で、諦めずに見守ってくれた恩返しなのかもしれません。

 

4コーナーを回って、松山ジョッキーの鞭に応えて必死に走るセルバーグが逃げ切りましたが、きっとお孫さんも一緒に背中を押してくれたんだなと思いました。

夏美オーナーは前谷さんのお陰と言ってくれますが、人と人との繋がりを大切にして、エナチャンへの溢れんばかりの愛情でその命を繋いでくれた夏美オーナーのお陰だと私は思っています。

エナチャンとセルバーグを通して沢山の事を学ばせてもらえました。

あきらめず小さな事でも馬に良いと思う事をコツコツと積み重ねれば結果はおのずとついてくる。
そして愛情をもって育てた結果、やっぱりお馬さんが恩返ししてくれるんだなと、今回の勝利で牧場に与えてくれた名誉、生産馬にも感謝の気持ちでいっぱいです。

 

番外エピソード1

セルバーグが一歳の時、ご夫婦で会いに来てくれました。

タンギモウジアのロードカナロアは、立派な馬体で誰が見ても良い馬。
セルバーグは、ぱっと見小さく華奢な体型で、「ご夫婦で口取りの練習しますか?」と言ったところ、「タンギモウジア2019はたくさん勝って競馬場で活躍出来るから、お母さんのエナチャン2019は勝てないから今写真撮った方が良い」と冗談が飛び交い、夏美オーナーが「私のエナチャンの方が良いし、すごく良い馬よ」と言っていたのが印象に残っています。
私も「小さいけど運動神経良さそうですよ」とフォローしましたよ笑

 

番外エピソード2

セルバーグ新馬戦の時の話。

オーナー「鈴木先生口取りが再開したのですが、丁度東京から宮崎に帰る日なんですが、勝てそうなら新幹線で阪神に行こうと思っているのですが、どうですか?」

鈴木先生「まぁ使ってからじゃないですか?5着に入ったら上出来です。」
と言われ新馬戦は観に行かなかったそうです。

新馬戦の時は移動中で、飛行機から降りる瞬間に息子さんから電話が来て、
オーナー「どうだった?」
息子さん「ぶっち切り!!」
オーナー「またぶっち切りのビリかい!!」
(10月10日に走った愛馬がぶっち切りのビリだったらしく)
息子さん「違う!1着!!」

夏美オーナーは「新馬戦は鈴木先生が来なくいいですよって言ったから行かなかったのに」っていまだにその時の話しをされて、鈴木先生はバツが悪そうです笑

でも重賞勝利をプレゼントしたからもう言われないかな?笑

 

今回の記事ではオーナーと愛馬たちの物語を書かせていただきましたが、これからもエナチャンとセルバーグの物語は続きます。

皆様、これからも暖かく見守って、応援していただけますと幸いです。

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